『日本を救う最強の経済論』高橋洋一著 扶桑社

 

 日経平均株価が史上最高値となったと新聞が一面トップで大きく報じている。いかにも景気が良くなったかのような感触を与える。ほんとうに景気が良くなったのだろうか。物価高で悩むわれわれ庶民の生活感覚と大きな隔たりがあるように思うが如何なものか。

先日、日本のGDPが世界四位にまで転落したことが大々的に報じられたばかりである。一方で衰退していく日本が報じられ、一方であたかもバブルの再来のような報道である。経済については無知蒙昧の私にはわからないことだらけである。

 とりわけ、現今の日本経済が膨大な借金をかかえ、さらなる借金を積み重ねていくことが国家経営にとっていいことなのかどうか、私の最大の疑問である。

この点に関して専門家でも意見が真っ二つにわかれていて、どちらが正しいのか迷ってしまう。

最近、経済関係の何冊かの本を読んだので、この対立する意見について整理してみることにする。素人の見解である。間違っていたら許されたい。

 

 まずは借金肯定派である。いわゆるリフレ派と呼ばれる人達の論理である。リフレ派のエコノミストは多いが、その代表として高橋洋一氏の意見を取り上げる。

 氏は元財務官僚である。歴代の政権にも近く、安倍内閣では政策スタッフとしてアベノミクス推進の旗ふり役ともなった。

氏は、日本の長期低迷である「失われた20年」は、過去のバブルを悪玉視したことが間違いで、黒田総裁以前の日銀による金融引き締め策が原因であるという論理を展開している。リフレ派として氏の代表的な意見を引いてみよう。

 ①   お金の量を増やせば物価が上がり、その結果失業率は下がる

 ②   GDPは円安で増える。輸出産業はすそ野が広く、輸出産業に恩典を与えたほうがよい。円安の効果は企業収益に大きく貢献した

 ③   消費税増税は愚策である。消費税増税をしないと財政破綻するというのは嘘である。

 ④   資産と負債のバランスシートで考える必要がある。(日本の資産は600兆円を超え、日銀を含めた連結ベースでは日本の負債は50兆円に過ぎない)

 

 ヘリコブターから現金をバラまき、お金をジャブジャフにすれば景気は良くなり、デフレから脱却できるというリフレ派の典型的な意見である。氏は数値やグラフを使ってそれを証明する。

 ジャブジャブのバラまき効果か、①の失業率はたしかに上がっていない。②についても、輸出産業が円安株高で大いに潤っていることもまぎれもない事実である。トヨタはじめ多くの企業が史上最高の利益を上げている。

だが、保留したい点もないわけではない。アベノミクスは2%のインフレ目標を掲げてきたが10 年間目標を達成できなかった。2%を超えたのはつい最近のことで、コロナ禍による物価高騰という現象が大きな要因であり、はたしてアベノミクスの効果であったかはいささか疑問が残る。

 さらに言えば、庶民にとって給与が上がらず物価だけが上がれば生活が苦しくなるのは目に見えている。たとえ失業率の低下ということがあっても、インフレを煽ることが正しいのか、庶民生活の感覚からリフレ派の考え方にはなかなかついていけないのが正直なところではないだろうか。

⑤ の資産と負債のバランスシートについては、たぶん氏の画期的な視点なのであろう。

借金がGDPの200%を超える、つまり家計で言えば稼ぎよりも借金が二倍以上もある状態を私は大変危惧するのであるが、氏は、バランスシートという観点からこの程度の借金は屁でもないというのである。

もちろん、エコノミストによっては異論もあるようで、これについては別途取り上げる。

 

 氏の意見はそれなりに説得力があり、そうかなと思ってしまうところがある。しかし頭でわかったとしてもどこか腑に落ちない点がある。ひとつの思想としてわかっても、信じるかどうかは別であるという気分になる。曖昧な評価になったが次回はこの高橋氏の意見とまっこうから対立する意見について取り上げてみたい。

 なお、同氏の『勇敢な日本経済論』講談社現代新書 も併読、参考にした。