リサイクルショップの夜
深夜のリサイクルショップです。暗くなった店内のどこかからシクシクという泣き声が聞こえてきました。
天井の小さな灯りのなかでも、なんとなく様子がわかります。今日このショップに売られてきたゲーム機が一生懸命目を押さえて泣いているのです。
「悲しいよう、なんでボクを売りに出すのさ。ずいぶん長い間、あんなに熱心にボクをかわいがってくれたのに・・・」
どうやら、このゲーム機の持ち主であった男の子が最新式のものを買ったので、いらなくなった旧式のゲーム機を売りはらったみたいです。
この泣き声をきっかけに周囲がなんとなくザワザワしてきました。
「そんなことを言ったら私だって・・・」
薄い緑のひょうたん型をした青磁の花瓶が低い声で話し出しました。
「私は、人の好いおじいさんにずいぶん可愛がられましてね、いつも床の間に飾られていたんですよ。だけど、そのおじいさんが亡くなったとたん、家族はすっかりわたしを無視するようになりようになり、挙句の果てにここに売られてきたようなわけです」
青磁の花瓶は自分がとても価値のある骨董だと思っているようです。
木彫りの熊の置物が吠えるように話しだしました。
「オイラだって、北海道旅行のお土産でパパが買ってきた当初は家族のみんなから、イイネイイネってチヤホヤされたのに、家を引っ越すことになって、何故かパパがこれはもう新しい家には置くところがないなんて言い出して、結局ここに売られてきたわけなんだ。冷たいよね」
ボソボソと愚痴のような声が次から次へと聞こえてきます。
壁際には冷蔵庫と洗濯機が薄暗いなかで白っぽい光を放ちながら並んでいます。
やっぱり何か言いたそうです。
「家電なんてどんどん最新式の機種に変われば、あっという間に古い機種は見捨てられる運命さ。まだまだ使えるのにむごいことをするね」
今までたまっていたものがボヤキや恨みや泣き言になって、いっせいに噴き出してきたようです。
最初にシクシク泣き出したゲーム機も、あっけにとられたようにみんなの声を聴いているだけです。
ちょっと古びた茶箪笥の上に置かれた電気スタンドがあります。
その電気スタンドの笠はピンクで、台座はカラフルな模様の入ったガラス製、とてもおしゃれなものです。
「みんなちょっと暗いんじゃないの。ここに来たのはそれぞれわけがあることはよくわかるけど、それはそれ。また良い人に買われていくってこともあるわけだから、そんなに嘆くことはないんじゃなぁい?」
洒落たフランス風の電気スタンドの声が意外にも店じゅうに響きました。
なんだか今までの愚痴とは違います
一瞬の間があって、壁際にかけられていた鳩時計が話しだしました。
「あなたは、かっこよくて、まだまだ魅力的だけれど、わたしは古ぼけた、使い物にならないような時計です。良い人に買われて新しい人生を歩むなんて考えられない・・・」
今度は、フィットネスバイク、つまり自転車こぎの自転車が明るい声で話し始めました。
「私の持ち主だった人は、健康に強い関心を持っていて私を毎日のように使って足腰を鍛えたけど一か月でやめちゃった。三日坊主じゃないからいいけれどね。でもまだ新しいし、きっと新しいご主人が現れると思う。私はそれを期待している」
周りの空気が少し変わってきたようです。
メソメソしていたゲーム機もすっかり泣き止んで、少し気分がほぐれてきたようです。木彫りの熊もだまされたような顔をして、ぶつぶつ呟いています。
「オイラだってこんなお店の暗闇にくすぶっていたくはないし、まだまだオイラを好んでくれる人もいるはずだ」
翌日のことです。若いお客さんが来て、鳩時計を見ています。どうやら興味を持ったようです。店のものが、修理すればちゃんと鳩が飛び出しますよ。なかなか今では手に入らないですよと言われると、その若い男は顔を輝かせながら鳩時計を買っていきました。
皆の顔も少しは明るくなったようです。
誰か私を買ってくれる人が必ず現れる・・・メソメソ暗い気持ちになるよりは、かなわなくても望みをもっているほうがよいのだと思い始めたようです。