『誰が国家を殺すのか』塩野七生著 文春新書

 塩野七生が文藝春秋に連載したエッセイである。主に政治的・社会的な時評からなる。古代ギリシャの民主主義などを語るとともに、現代のイタリアの脆弱な政権や日本の民主主義について鋭い批判を向ける。また、コロナ禍の日本とイタリアの対応の違い、コロナ後の世界の展望など氏らしいイタリアの長い歴史を踏まえた洞察が面白い。

 

『オウム死刑囚・魂の遍歴』門田隆将著  PHP研究所

 オウム真理教の幹部として死刑になったアーナンダこと井上喜浩の一生を辿ったドキュメントである。「すべて罪は我が身にあり」と副題にあるように、逮捕後真摯に自分の罪に向き合ったと評価する。ちなみに井上は、グル麻原の地下鉄サリン事故への直接関与を証言した唯一の証人であったという。井上は一審が無期懲役であったにも関わらず二審では死刑となったため、著者は、死刑判決に割り切れない思いを抱き、死刑制度にも疑義を感じている。

 

『時代の抵抗者たち』青木理著 河出書房新社

 ジャーナリスト青木理が、リベラル系の九人の人物と行った対談集である。その九人とは、田中均、前川喜平、なかにし礼、中村文則、平野敬一郎、古賀誠、梁石日、岡留康則、安田好弘である。なかには古賀のように保守系議員もいるが多くは現体制に批判的な人物ばかりである。インタビューアの青木に言わせると「時代と社会の歪みが彼らをして「抵抗者」たらざるを得なくしてしまった」とのことだが、田中(元外務省審議官)や前川(元文科省事務次官)はまさにこれに該当するように思う。

 

『親鸞』津本陽著 角川新書

 親鸞にもう少し拘ってみようと、五木寛之と同じ作家である津本陽の親鸞論を読んでみた。

親鸞の人物像、そして歎異抄をどのように解釈、理解しているのか興味を持ったが、当然であるがたいした違いはない。五木親鸞が誰でもわかるようかみ砕いて書かれた親鸞とすれば、津本親鸞はやや学術的であったように思う。とくに、親鸞の書で難解と言われる「教行信証」について現代語訳をしており、津本の親鸞への傾倒をうかがわせた。

 

 『決壊』1月19日 詳述

 『出家とその弟子』次回詳述

 

●記憶と記録のため、その月に読了した本について簡単に書き残す。