いま

 

    もうおそいということは

    人生にはないのだ

 

    おくれて

    行列のうしろに立ったのに

    ふと気がつくと

    うしろにもう行列が続いている

 

    終わりはいつも はじまりである

    人生にあるのは

    いつも今である

    今だ

 

         杉山平一『希望 杉山平一詩集』

 

  詩人杉山平一は2012年、98歳で他界した。この詩集は96歳のときに刊行されたものである。

 三好達治に認められ、「四季」にも参加、戦後、織田作之助らと同人誌をともにした経歴をもつ。

 

   ふと気がつくと

   うしろにも行列が続いている

 

 日常生活でこういうことはよくある。遅れていると思ったらそうじゃなかった。

 けっして遅れているわけでも、劣っているわけでもない。そう思い込んでしまうだけだ。

 もう遅いということは人生にないと詩人は言う。

 

   人生にあるのは 

   いつも今である

   今だ

 

 「今でしょう!」という予備校のCMがうけたようだが、「今」というのは前向きの姿勢であることをそれとなく暗示する。さらに言えば、「今」にあるのは希望である。過去に希望はない。この詩集の題である「希望」に結びつく。

 人生の機微を知り尽くした詩人の言葉である。とかく後退しがちなわたしたちの背中を軽く押してくれるような詩ではないだろうか。

 

 ついでにもう一つ紹介する。上の詩と違い、人生をちょっぴり苦い思いで振り返っている詩である。

 

 

      バスと私

 

    走っていったのに

    バスは出てしまった

 

    やっと次のバスに乗れて

    ふと 降りる駅に気づいて

    あわてゝ立ち上がったとたん

    ドアはしまった

 

    今度こそと気をひきしめて

    うまくとび降りたと思ったら

    違う駅だった

 

    大きな図体をひきずって

    最終バスはゆっくりきえていった

 

    思えばそんな人生だった。

  

 

 失敗や間違いのない人生などない。「ああっ、やっちゃったか!」と思いながら前を向いて歩いていけるかどうかである。

 

  

 

                

  今、満開のつつじの花。散歩のつれづれを癒してくれる。