「犯罪と罪悪はどう違うのか」
「家賃が払えないからといって、ばあさんをアパートからほうり出すのは犯罪じゃないけど、間違いな く罪悪な んだ。飢えている自分の家族に食べさせようとして、金持ちのパン屋からパンを盗むのはど  う見ても犯罪だ」
                  *
「何より重大な罪悪とは?」
「絶望ということだと思うね」
「絶望か、うん、適切だ。たしかに罪悪だが、犯罪の類じゃない。罪悪の種子だ。これがもとで別の罪悪を 犯すことになる」  
                          *
「悲嘆、悔恨、後悔! 悲嘆は神がくだされた贈り物だ。悔恨は神がくだされる鞭だ。後悔は・・・後悔とか遺憾なんてくだらない。注文に間に合わないとき、手紙に書く文句さ」

                  トレヴェニアン 『夢果つる街』
 
  刑事ものでは出色の小説であるが、こんな会話が随所に出てくるのも楽しい。