「イギリス人というのは本来謙虚な国民なのだ。常に正しいことを口にし実行
することがどんなにきついことであるかは、昔から充分に承知しているんだ。
だからそのかわりに、正しいことを言っているという印象を人にあたえること
に専念したんだよ。それがイギリスの上流階級や私立学校、はては最近まで存
在した大英帝国の物の考え方の基調になっているんだ」
「では、イギリス人はフランス人特有の論理性と外交性をどう思っているのかしら?」
「我慢できない自負心だと見るね。いずれにしてもイギリス人はフランス人の論
理性なんか信じていないけどね」
キャビン・ライアル『深夜プラス1』
和田誠に『お楽しみはこれからだ』という映画の名セリフを集めたしゃれた本が
あるが、海外のミステリーにも楽しいせりふがいっぱいある。しばらくは、そん
な本から楽しいセリフをピックアップする。
『深夜プラス1』はハードボイルドの名作として日本には熱狂的なファンが多い。
上の会話はイギリス人とフランス人の国民性の違いを、ちょっと香辛料を効かせ
浮き彫りにしている。こんな知的なせりふが全編を通じて、いたるところにちり
ばめられている。ミステリーファンならずとも魅せられる小説ではある。