沢田のの花が腹を括ってくれた。
そうなれば話は早い。
記事が出るのは明後日。

会見を開くには明日しかない。

 

僕は「打ち合わせしましょう!会見は明日の10時!」と言うと、沢田のの花は「大丈夫」とだけ行って身支度をはじめた。

「でも!ぶっつけ本番なんてリスキーですよ!ちゃんと打ち合わせした方が…!」と僕が食い下がると

「要らない。大丈夫。みんなは明日の会見の準備だけしておいて。私も万全の準備で行くから」

そう言った沢田のの花は怖いくらい冷静な顔をしていた。

不安が残る中、沢田のの花を信じて明日を迎えるしかなかった。

 

 

翌日、予定より早めに僕は事務所に向かった。

念入りに打ち合わせしようと社長室のドアを叩く。

「おはようございます。工藤です。」

「中入っていいよ」

中から聞こえたのは沢田のの花の声だった。

僕より早く来ていたなんて、驚いた。

沢田のの花は黒いスーツを着て、髪を一つに括っていた。化粧もほとんどスッピンに近いような薄化粧だ。

 

「…おはようございます。僕より早く来るなんて、驚きました。」

僕がそう言うと、沢田のの花はふんっと鼻で笑って

真っ直ぐと鏡を見つめた。

 

 

会見の時間がきた。

沢田のの花はふぅーっと息を吐いて

「行ってくる」

とだけ言って会場の小さなステージにあがった。

 

たくさんのフラッシュが彼女の顔を目掛けて飛んだ。

 

沢田のの花は深く一礼をしてから

「この度は私の軽率な行動で、多くの皆様にご迷惑をおかけしたこと申し訳ありませんでした。」

とマイクを通して言った。

 

記者達が「交際はいつからですか?」「相手のご家族に何か言うことは?」「罪悪感はなかったんですか?」と、矢継ぎ早に質問が飛ぶ。

 

彼女は毅然とした態度で、真っ直ぐな目で一つ一つに答えた。

 

僕はそれをドラマや映画でも見るみたいに見ていた。それはまるで現実味がなくて、昨日までのあの幼い沢田のの花が別人のようで、なんとも言えない気分でいた。

 

全ての質問に丁寧に答えていた時

「黒田監督のこと、本当に好きだったんですか?」

と投げかけられた。

それまで毅然とした態度だった沢田のの花が少し動揺した。

 

「黒田監督のことは…」

沢田のの花の目に涙が浮かびこぼれ落ちた。

その瞬間を逃すまいと一斉にフラッシュが焚かれる。

こぼれ落ちた涙を拭って「黒田監督のことは、本当に好きでした。」そこまで言うと、堪えきれず彼女は泣いた。

 

会見時間の30分丁度で切り上げる。

僕はサッと沢田のの花の前に立ちフラッシュを防ぐ。

沢田のの花は俯きながら、最後に深く一礼して会場を後にした。

「沢田さん。お疲れ様でした。立派でした!」

僕はなんだかやけに感動していた。

さっきまで泣いていた沢田のの花はもう涼しい顔をして

「お疲れ様」

と一言だけぽつりと呟いた。

 

社長は「頑張ったね」とだけ声をかけ肩をポンと叩いた。

沢田のの花は静かに頷く。

 

 

さてこれからどうするかの会議だ。

沢田のの花は開口一番で

「なんでもやる。どんな仕事でも芝居ができるならなんでもやります。脱げと言われれば脱ぐよ」

と肝の据わったことを言った。

社長は「やけになったらダメよ」

と言うが、おそらくそういうものではないのは沢田のの花の目を見ればわかった。

「大丈夫。やけになってるわけじゃない。」

多くは語らないが静かに淡々と話す姿にこれまでとは何か変わったのだと思わずにはいられなかった。