「どうあそばされて。」
「すべすべして気持ちよかったから。先生の頬がとても。」
キスでもしたいのかしら。そんな雰囲気を漂わせていた。
「桂さん、いや、那奈さんも、これからは、私のことを、先生じゃなくて、利美、と呼んでくださる。」
「承知致しました。でも、つい癖で、先生、あるいは、竹山先生と呼ぶかもしれません。」
「でも、そうしてくださいね。ごめんなさい、今から、地元の高校生との対話集会があるから。この伊丹の駐屯地からそう遠くないところにある学校で。」
対話集会へ向かう自動車の中で、桂那奈とのことが逡巡した。やはり、無下にはできなかった。彼女からの思慕を感じながら、受容するともしないともという具合に曖昧な感じでいた。でも、私のこの煮え切らないこの態度が、いびつな行動として、表れないか、と心配した。桂さんは、東京大学での弓道部の先輩だった。学校こそ違ったが、地元が同じ兵庫県だった。卒業後は、大手出版社に就職したが、その後、保守系のオピニオン誌の編集者になった。
私は、国家公務員の1種試験の行政職に合格し、総務省に入省した。そうして、兵庫県庁に出向し、総務部部長となった。今もそうだが、当時、総務部は、予備自衛官の募集を所管していた。当然、総務部長という役職にあったから、中部方面総監との知己もできた。台風での貨物船と橋脚の接触事故の復旧作業。その折、総務部長として、自衛隊からの援助を要請するのに十分な役割を果たせた。そんな自負があった。