クジラ肉(鯨肉:げいにく)という食品が存在する。捕鯨により供給される鯨類やその小型種の一部の総称であるイルカ類の可食部全般を指している。

 

 筆者は団塊の世代である。同世代の方々は鯨肉への感謝に気持ちを持っているに違いない。クジラを食べて育ってきたという実感があるからだ。スーパーの鮮魚コーナーでタイトルのクジラのベーコンを見かけることがだろう。おいしいとはいいがたい食品だが、何度も購入している。小学校の給食でも、竜田揚げにはお世話になってきた1)。

 

 捕鯨の歴史からクジラを考えてみよう。わが国では縄文時代前期~晩期の遺跡の真脇遺跡(まわきいせき)で、大量のイルカの骨が発見されている。石川県凰珠郡能登田丁に存在する。その後も近隣の海で捕鯨は継続されてきた。感謝の気持ちや生命への追悼の意味で建てられた塚や墓日本各地に存在する。捕鯨を古くから生業にしてきた地域では、「鯨墓」や「鯨碑」といったものが存在し、鯨塚と合わせるとおよそ100基が日本に存在する。

 

 江戸時代末期、米国のベリー提督が来日した。捕鯨船の物資補給を目的とした寄港地の確保のためである。捕鯨の目的は鯨油であり、皮下脂肪や内臓から生産されていた。用途は灯りであり、肉は食用にされることはほとんどなく、肥料等に用いられていた。クジラに対する尊厳など皆無の連中だったのである。

 

 わが国では明治時代に南極海などの外洋にも進出して近代的捕鯨が行われていた。太平洋戦争後は前述の通り、学校給食では竜田揚げ、家庭でもベーコンが食卓に並んだのである。日本小型捕鯨協会会長の貝良文氏は「私の故郷ではクジラ漁は400年以上続いてきたし、IWCはカナダイヌイットのように先住民・生業捕鯨を認めている」と語っている。

 

 これに対し、欧米豪国はクジラ類を知能の高い哺乳類として、わが国の調査捕鯨を批判してきた。シーシェパードの妨害のように実力行使もあった。2019年、日本はIWCを脱退した。その後、日本近海に捕鯨場所を移してから妨害はなくなった。目の前でなければ、認めようということかもしれない。

 

 鯨肉の栄養成分にも触れておこう。特徴として脂肪の多くが皮下脂肪に集中しているため、赤肉は低脂肪で鉄分やタンパク質が豊富な食品である。一方で、脂肪にもドコサヘキサエン酸(DHA)やドコサペンタエン酸(DPA)などの人体に有益と言われる脂肪酸が、マグロや他の獣肉に比して豊富に含まれている。

 

 ヒゲクジラ類は長距離を絶食しながら泳ぎ続ける期間がある。近年、ジペプチド、イミダゾールジペプチドの一つ「バレニン」を持っているからではないかと考えられるようになった。バレニンは鯨肉加工の際の煮汁から生産されている。ヒトの疲労軽減の効果を持っていることが確認された。

 

 今後、わが国における鯨肉の扱いがどうなるかわからない。農水省としては継続する方針に違いない。そうであれば、もう少し価格を安くする必要がある。団塊の世代が健在のうちに、若い世代に食文化を継承するためにも欠かせない要素と考えるためである。

1) 給食「鯨の竜田揚げ」https://ameblo.jp/yk206/entry-12522405988.html

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