「ジリリリィ~~ン!」というけたたましい目覚まし時計の音に日高は起こされた。いつもの朝であれば、目覚ましが鳴る少し前に目が覚めるのである。昨晩は少し飲み過ぎたのかもしてない。
スマホを確認するが、新しい着信はない。念のため、銚子の実家にかけてみる。昨日と同じで、呼び出し音はなっているが、出る気配はない。思いついて、銚子の市役所や友人にもかけてみたが、同じ結果だった。最悪の事態を覚悟しなければならないだろう。
テレビをつけてみる。どの放送局も新しいニュースはない。「L村病が世界中に蔓延して、死亡者が大勢出ている。不要不急の外出は控える。外出時はマスクを必ず着けて、帰宅したらマスクは廃棄し、衣服の埃をよく落とす。手洗いとうがいを励行してほしい」このテロップが繰り返されるだけである。
ネットを観ると、所々に新しい書き込みが見つかった。
「具合が悪く助けてほしい →コメント:助けに行くから場所はどこだ」
「風邪薬〇〇でL村病完治 →コメント:普通の風邪だったのだろう」
「神のお怒りである 神を信じてひたすら祈りなさい →コメント:どの神に祈ればよいのだろう、死にそうだ」
「L村病はB国の細菌兵器で、要人は核シェルター内でほとぼりが冷めるのを待っている」これは本当かもしれないが、役に立つ情報は皆無である。
思いついて「L村病 治療法」で検索をした。
「細菌なので抗生物質が効く 変異が早い菌なので、2剤以上併用すること」
これはかなり信憑性が高いので、入手を検討しよう。食料はローリングストックをしていたため、まだ余裕がある。昨日、スーパーやコンビニは長蛇の列だったのでなにも残っていないだろう。それでも、探す必要がある。
まずは腹ごしらえである。炊いておいたご飯に生卵を割って入れ、ヒゲタ醤油の「本膳」をかけた。使っても空気の入らない特別な容器である1)。黄身に赤い醤油の色が美しくうま味が強いため、他の醤油は使う気にならない。カット野菜にマヨネーズをかけて朝食とした。
外に出てみると、駅の方は火事になっている。自転車で可能な範囲まで近づいて調査することにした。道路はあちこちで自動車事故が起きている。倒れている人も多い。動いている人もいるが、明らかに虫の息である。
駅前まで来ることができたが、ハモニカ横丁は全焼の様子である。駅から離れた住宅街でも火事が起きている。多くの店はチャッターを下ろしている。鍵がかかっていないコンビニがあったが、食糧の棚は空っぽだった。自販機は荒らされた様子はない。バールが入手できれば、こじ開けることができるだろう。駅周辺で大工道具を扱う店を探したが、見つからなかった。
いったん下宿に戻り、入手したい物品のリストと販売店をネットで調べることにした。下宿の他の5部屋を確認した。3部屋は鍵があいており、1人は部屋で亡くなっていた。3部屋の冷蔵庫にはそれなりに食料が残っていた。マスクを廃棄し、服の埃を払って自分の部屋に戻った。
忘れないうちにメモ「抗生物質、バール」を残した。午後2時を過ぎていた。少し空腹だったため、マルちゃん生麺・醤油(即席麺はこれに限る!)と好物の「鮭の骨」缶詰をビールと一緒に昼食にした。パソコンに録音していた曲をランダムに再生した。最初に流れてきたのはビートルズの「イエスタディ」だった。なくなってしまったのは今までの生活である。銚子の家族や大学の友人も亡くなっているのだろう。疲れていたので、そのまま眠ってしまった。
1) 新容器を採用 https://foocom.net/column/contrib/5981/
*食品なんでも相談所 横山技術士事務所
*3頁目 発酵食品もの知り講座
*4頁目 大豆総合研究所
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*働くヒト器官 働くヒト器官 目次