[スクラップからの製鉄-電気炉4-]


 さて、今回こそ、アーク炉による製鋼法の工程と他の炉との比較を
まとめたいと思いますので、よろしくお願いいたします。なお、アー
ク炉関係のバックナンバーはこちらです。


060.スクラップからの製鉄-電気炉3-
059.スクラップからの製鉄-電気炉2-
056.スクラップからの製鉄-電気炉-
 
※同じウィンドウで開きます。

 地球のうたは環境関係の話の場であるはずなのに、どうして製鋼関
係のアーク炉の話ばかりなのだろうと思っている方もいるかも知れま
せん。少なくとも私は時々、あれ?環境に関係あったっけ?とか思い
ます。


 現在、地球のうたでは鉄に関するリサイクル技術の1つとして電気
炉、その中でも工業用に大きな部分を占めているアーク炉に焦点を当
てています。


 残念なことに私は今までアーク炉を大きく取り上げるリサイクル関
係の本に出会ったことがありません。鉄のリサイクル技術として重要
な物(?)であるにもかかわらずです。


 そこで「ないなら、作り出せ!」というわけで、製鋼関係の本を読
み漁り、私がリサイクル関係の一部としてアーク炉を取り扱ってやる!
と思ったわけです。


(まぁ、最後のほうはウソで、なにやら気づかぬ間に流され惚れ込ん
で気がついたら4回に渡って書いていましたなんて、とても言えませ
んけどね)○o。(;¬_¬)


ではウソがばれる前に、まず工程を行って見ましょう!(>_<;)


≪工程≫
 アーク炉を使った製鋼の工程は大きく「溶解期」、「酸化期」、
「還元期」の3段階にわけることができます。近年は炉外精錬の発達
により、最後の還元期については短縮や省略されることもあります。


 さて、アーク炉などでの製鋼の目的を考えてみます。と言っても、
当然私は金属関係の専門家ではありませんから、今回紹介する工程の
目的を明らかにするという程度のものです。


 先ほども書きましたように製鋼の工程には溶解期、酸化期、還元気
の3段階があります。各工程ではスクラップ中に含まれる鉄以外の各
種元素の除去や調整が中心になっています。


 炭素量の調整やさまざまな元素の除去はどうして必要なのでしょう
か?それは私達の身の回りにある金属はベースとなる金属に何か他の
ものを混ぜたものだからです。


 作りたいものが違えば使いたい材料も変わります。使いたい材料、
すなわち、必要な性質を得るためには自然界にあるものをそのまま使
うのではなく、なにかしら手を加える必要があります。


 その1つが金属にその他の元素を混ぜて、性質をコントロールして
いる合金(アロイ)です。鉄の場合、炭素との合金である鋼(スチー
ル)、クロムとニッケルとの合金のステンレスなどがあります。


 これらの合金は含まれる元素の割合によって違いがあります。例え
ば、鋼は炭素含有量が0.02%以下は純鉄、0.02~2.00%
は鋼、2%以上は鋳鉄と呼ばれ、性質も用途も異なります。


 このように鉄は用途に応じて添加する元素の量が異なります。また、
廃棄されるまでの段階で大気中の酸素と化合して錆びたり、さまざま
な汚れがついています。


 鉄をリサイクルするということは再び製品にするために含まれる元
素の量を調整する必要があります。したがって製鋼の目的は鉄を溶か
しながら含まれている元素を1度抜き出し再調整することだと言えま
す。


≪工程を見てみよう≫
 さて、いよいよ、具体的な工程の話に入りますが、簡単に流すと言
う感じで行こうと思います。こういう雰囲気で余分な成分を除去して
るんだなぁと思っていただければ嬉しいです。


1.溶解期
 工程の最初はくず鉄などを装入する溶解期です。名前の通りアーク
炉に通電し、くず鉄を溶解させることが目的になります。この段階で
は他に生石灰や銑鉄も装入します。


 銑鉄というのは地面の中から掘り出した鉄鉱石を高炉などを用いて
還元した鉄の原料です。この銑鉄を精錬、加工し成分調整することで
身の回りで使われている鉄になります。


 電気炉の場合、銑鉄はあくまで供給が可能ならば利用ということで、
可能な場合は溶銑として20%から30%を用います。これが得られ
ない場合、還元鉄を使うこともあるそうです。


 これらの原料を入れた後はアーク炉に通電しアークを発生させて溶
かすだけではなく、溶解を促すため酸素ガス吹込みやカーボンインジ
ェクション、助熱バーナーなどを使います。


2.酸化期
 溶解期の次の段階は酸化期といいます。この段階での目的は酸素吹
精による炭素、ケイ素、マンガン、リンの除去と目標炭素数への調整、
そして、溶鋼中の水素や窒素の脱ガスになります。


 除去される元素の一部は溶けた鉄の上や下に溜まるスラグというも
のになります。特にこの酸化期に作られるスラグを酸化性スラグと言
い、還元期の始めに取り除かれます。


 一部の金属やガスなどはスラグ以外にも排煙として鉄の中から放出
されます。かつては法規制がなく、そのまま排煙として大気中に放出
されていましたが、最近は規制ができ、亜鉛などは回収して再利用さ
れているようです。


3.還元期
 還元期の目的は脱酸(酸素をとること)と脱硫(硫黄分をとること)、
そして、合金成分と出鋼温度の調整になります。そのために生石灰、
アルミ灰、コークス粉、合金鉄を添加し還元性スラグを作ります。


 合金を作るためなどで金属を添加する場合、その金属が酸化されや
すいものならば、この還元期以降の段階で添加します。酸化期より前
の段階で添加してしまうと酸化してしまいますからね。


 最近では炉底出鋼や炉底からのアルゴンなどの吹き込みが可能にな
ったことで、生産性と品質は向上し、環境負荷やコストといったもの
は小さくなってきています。


 しかし、一方でこの還元期は短縮化もしくは省略され、ここで行わ
れるはずだった成分調整は炉の外で炉外精錬という方法を用いて行わ
れることも多くなっています。


≪アーク炉製鋼法の種類≫

 次に「シングルスラグ法」、「セミダブルスラグ法」、「ダブルス
ラグ法」というアーク炉を使った製鋼法に注目しましょう。といって
も、ここもそれぞれを簡単にまとめるだけですけどね。


 まず、シングルスラグ法というのは溶解期と酸化期の1回のみで終
了する還元期を省略したものです。最も高能率な操業方法で1時間以
内に装入から出鋼までを行えます。


 しかし、溶鋼の成分や温度の正確な調節には問題がありまして、炉
外精錬により品質向上を図る場合が多いようです。炉外精錬というの
はアーク炉から取り出して炉の外で別の機械?を使って品質を調整す
ることです。


 もちろん、このシングルスラグ法でも全く調整しないというわけで
はなく、出鋼中に取鍋に生石灰、アルミ灰、合金鉄を投入し、アルゴ
ンや窒素によって撹拌して、成分と温度の調整を行います。


 次にセミダブルスラグ法というものについてまとめます。これは還
元期を短縮したものです。つまり、酸化期までは原則シングルスラグ
法と同じと考えて問題ありません。


 酸化期終了後から書くと、酸化スラグを取り除き、アーク炉内に生
石灰、アルミ灰、合金鉄を添加します。その後、短時間だけFeOの
低い還元スラグを作り成分と温度を調整して出鋼します。


 3つ目のダブルスラグ法というものは溶解期と酸化期で酸化スラグ
を作り、これにより脱リン、炭素量調整します。その後、ここで作ら
れた酸化スラグを除去します。


 次に炉内に生石灰、アルミ灰、コークス粉、合金鉄を装入し、FeO
の低い還元スラグを作ります。この方法では炉内で脱酸、脱硫、成分
調整をして出鋼します。


≪おわりに≫
 金属は高値で取引されることもあり、昔からよく回収・リサイクル
され、今でも高いリサイクル率を誇るため、リサイクルの優等生とい
われています。


 リサイクルというと実は環境負荷が高いものも少なくないのですが、
金属はリサイクルするほうが環境負荷が少なく済むものが多いという
のが大きな特徴のように思えます。


 しかし、環境系の話題を取り扱う地球のうたでこういう事を言うの
も、どうかと思いますが、日本の場合は自然環境のためにリサイクル
するというより、資源と処分場のためにリサイクルしなければいけな
いという目的のほうが重要だと思います。


 金属での具体例として、希土類は中国で世界の6割が産出され、そ
の半分を日本が輸入しています。また、LEDや携帯電話に使われる
ガリウムは国内で採れるのは6トン(1割)、輸入は56トン(9割)
となっています。


 輸入は輸送に係る環境負荷が気になると言いたいところですが、そ
れ以上にさまざまなものを海外に依存しているのが問題です。ですか
ら、1度輸入した資源を有効に国内で循環させることがリサイクルの
重要な点だと言えます。


 いざという時、日本の資源確保は大丈夫なんでしょうか、そしてゴ
ミの処分場がなくなってしまったら!?地球温暖化よりかなり身近な
危機に思えます。50年後、日本のゴミ問題はどうなっているのでし
ょうか?

。。。


パタパタパタ(=_=)/~~~←煽ってる


Σ(0o0)はっ!←気がつかれたのに、気がついた


 と、環境問題を語る場合にありがちな危機感を煽りました。ゴミ問
題はよく埋立処分場がなくなるというふうに煽られます。今回のシリ
ーズはそのゴミ問題との関係が深いリサイクルの話でした。


 もっとも、鉄はリサイクル率がよくて、国内でも比較的循環してい
るものなので、書いている私はゴミ問題の危機感とはあまり関係ない
ような印象があります。


 しかし、近年は鉄スクラップの海外輸出が増えているという話もあ
り、缶などの製品のリサイクル率ではなく、鉄のリサイクル率を見る
と下がっているのではないか?と少し心配です。


 また、実際に最終処分場がなくなってしまい、ゴミ収集のシステム
が停止してしまった町も外国にもあります。それも、先進国の話です。
まぁ、ゴミ問題は主に先進国に見られる問題ですから当然かもしれま
せんが。


 地球環境問題と公害の違いには世界的と局所的、原因物質の排出と
その被害を受ける人が明確か不明確かというものがあります。ゴミ問
題はどちらでしょうか?


 局所的であり公害に近いような気もするのですが、排出源が多様で
いわゆる加害者が不明確です。しかも、公害問題のように規制的対応
だけでは対処できません。


 電気炉を利用した鉄のリサイクル技術は今回でひとまず終わりです。
しかし、この技術はあくまで「集められた鉄」をリサイクルするので
あって、集まらなければ意味がありません。


 ゴミ収集の有料化の中には資源ごみの回収だけを無料にすることで、
今まで他のゴミと一緒になって埋め立てられていた資源ごみの回収率
を上げる事を目的としているものもあります。


 ゴミの有料回収にはどのような効果が期待できるのか?地球のうた、
次回からはそういう話も含めて、環境経済学の入門編として、まとめ
て行きたいと思います。



土壌の話は引き続き、合間に入れていきます。
(-_-;)本当です。シンジテ


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掲載情報
初出:
改訂:
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更新履歴
10:46 2007/07/25