†漆黒の腐敗臭~ブラックアロマブラック~in the dark† -9ページ目

†漆黒の腐敗臭~ブラックアロマブラック~in the dark†

神様って思わず僕は、叫んでいた・・・

「無題」 その3


講義室を出て、僕は駆け足で講堂へと向かう。

なぜだか僕は、時計台の屋上へ登らなきゃいけかった。<なんだ、この感覚・・・。>

その瞬間、脳と肉体は確かに一連なりでは無かった。

流れるような動作で右手で屋上のドアノブを回す。彼女は、野中灯里はそこにはいなかった・・・。


腕時計を確認すると午後4時を2分ほど過ぎていた。

・・・悪戯だったのか?

しかし彼女は明らかに僕の体のことを知っている。

夕暮れの空に彼女の顔を浮かべていていると背後に人の気配を感じた。

「遅くなってごめんなさい。ちょっと奴らを片付けるのに手間取ってしまって」


彼女はさっきと変わらない姿でいた。「奴ら?」

「一から説明する必要があるわね。まずあなたの体の異変は2ヶ月前にあの子を助けた時から起こった…… か考えているのでしょう?

けれど、それは因果の誤りよ。地震の後花瓶が倒れていたからといって、地震が原因とは限らないわ。」


「あなたは本当に、"右手”を伸ばしたの?その手で何を掴んだのかしら。」

僕は左手を強く握りしめて彼女を見る。

「精神のホメオスタシスは、時に肉体をもだまし得るのよ。ことによっては、私の敵とあなたのソレは同じなのだから・・・。」

彼女の難解な言い回しに、僕は辟易した。


大きく溜息をついて一旦彼女から視点をそらす。

精神のホメオスタシス?彼女の敵?

何度彼女に疑問をぶつけようと口を開きかけたことだろう。

しかし、知ることに恐怖を感じている自分がソレを抑えている。

僕には黙って話の続きを聞くこと以外に選択肢は残されていなかった。


「あなたが"右手を伸ばした先には、本当にあの子がいた?

確かにあなたが気がついたときに、そばに倒れていたのはあの子かもしれない。

けれどもあなたが手を伸ばして助けようとした人影は、本当にそこに存在していたのかしら。私の敵はそれらの境界に存在しているの。」


「あの現場にもう一度行ってみなさい。そして、あの子に会うといいわ・・・。」

灯里は金木犀の芳香を置き去りにして立ち去った。

僕は、あの子が今何処にいるのかを知らない。

だから、事件の第一発見者で、僕が最も信頼している人の元へと向かう。


それは、妹の”香澄”だ。





続く・・・

「無題」 その2


急勾配になっている通学路を息をはずませ登り切ると、趣のある校舎が見えてくる。

旧帝大医学部に漂う独特の空気を吸い込みながら、校舎へと足を進めた。

講義室の席に座り、窓辺を眺めていた僕の隣に、見慣れない女子生徒が座った。

それが、僕と野中灯里との邂逅だった。

 

「運命の歯車に乗せられた仔羊達は決して鳴くことを許されないの」

独り言か?と思いつつ、ゆっくりと顔を横に向ける。

肩まで伸びた漆黒の髪。透き通るような白い肌。僕の視線を捉えると彼女は小さく笑った。

「こんにちは田中安芸 くん。私も貴方の<同類>よ。仲良くしましょう。」

 

なんなんだこの娘は?

僕の体の変異のことを知っている? 

あの日以来ただひとりを除いて誰にも話していないはずだ。

僕が当惑していると、その娘は「混乱するのも無理ないわ。」と紙片を一方的に手渡し、講義が始まってもいない教室を後にした。

 

午後4時に、運命を刻む歯車を抱く塔の前で待ってる

 

塔?ああ、講堂のことか・・・。

手紙の内容よりも、彼女を観たときに発火した、何か懐かしい感覚が気になっていた。

授業も終盤にさしかかった頃、目の前の景色が突然、霞んで見えた。なんだ?視界が2重に見えているのか?

 

一旦閉じた目を開いた時には, 講義室にいた僕以外の人間が消えていた。

世界中の静寂をこの空間に集めたんじゃないかと思うほどの静けさ。

空気中の分子までもが運動を停止しているようだ。

時間までも失われたような感覚に呆然としていると、突然後方から足音が聞こえてきた。

 

誰だ?振り返ると「僕」がいた。

その輪郭は曖昧で見てとることは難しい。

しかし、僕は「僕」だと確信した。

「僕」であるその輪郭は片側の口角のみ上げるような笑みを浮かべると「まだそんなところで停滞しているのか」とまるで万象を理解しているかのような口調で口を開いた。

 

「その右手は、世界から目を遮るためのモノじゃないだろう?差し伸べるためにあるのだろう?」

意味の解らないことを言う。

「何に?いや、ダレに?それは、お前が決めたことだ・・・」

時間は、状態の変化を観ることで知覚できる。だから僕の時計の針は止まっているのだ。

 

「僕」はそれだけ言うと振り返り歩き出した。

僕は右手を伸ばし「僕」に触れようとしたが、その瞬間、目の前を走る閃光

目を開けるとそこにはいつもの講義風景が映っていた。

ノートや参考書を仕舞い始める学生がチラホラ見え始める。

時計の針は午後349分を示していた。

 

僕は寝ていたのか?

いや時間の経過はほぼ零だ。

頭の中に疑問符がたくさん浮かんだが、いつの間にか握り締めていた紙片に気づき、先刻のことは無理矢理夢だと思い込むことにした。

それよりも彼女だ。僕も皆に倣い机を片付け、教室を出た。幸い講堂はすぐ近くだ。



続く・・・

堕天死一人と、「天界が遣わせし12人が天使」のうちの2人が降臨した。

肉体という縛りから解き放たれて繋がった3体の骸が織りなす、打ち合わせ皆無のリレー小説の、

いわゆる「まとめサイト」として開設するのであった・・・。

敵は140字の縛りのみである。



「無題」                                         

 作  なめこ、ばんばん、しゃり


金木犀の芳香が立ちこめる通学路で、僕は蒼空を見上げていた・・・。

眩しくて、切なくて・・・、右手を上げようとする。

だけど、太陽光を遮ったのは、僕の左手だった。

2ヶ月前のあの日、僕の肉体は変容した。

運動神経の接続が、完全に逆さに変容してしまったのだ。

 

 

―2ヶ月前

夏休みも半分を過ぎた8月の午後。

渋谷のスクランブル交差点の4隅は信号待ちの人たちで固められ,それは一つのオブジェとして成立していた。

オブジェの先端部位を任されていた僕の視線の先には対角線で揺れる別のオブジェ。

これが陽炎ってやつか。

そう、兎にも角にも暑い日だった。

 

バイトに向かう途中だった僕は、暑さから身を守るため細い路地へと足を運んでいた。

夏の魔手から逃れ得たことに安堵し、狭い蒼空を見上げた。

足が見えた。

正確にはビルの窓に両手をかけ、ぶら下がっている人影だ。

56階の高さだろうか。暑さにやられたかと目を疑った。

 

人影ではなくヒトだと直感的に解った僕は、真夏の吐息を吐き出すことも忘れて駈けだす。

その刹那、ソレは自由落下を優に超える初速で落下を開始した。

y軸方向の軌跡とx軸が交差するゼロ地点へ至る瞬間、すなわち、4秒後の空間を観測した。

''だから僕は、右手を伸ばした''

 

 

が覚めて自分が仰向けに倒れていることを理解した。

夢だったのか?

しかし落下してきた人間とソレに触れた右手の映像が鮮明に頭に焼き付いている。

あの一瞬の感触を思い出すように僕は右手を顔の前にかざした。

右手?

首元に嫌な汗が流れる。

<なぜ僕は左手を挙げているんだ>

 

あの日から僕の体は逆転した。

最初はかなり困惑したが、慣れというものは優秀かつ恐ろしいもので、今では歩行くらいまでなら体をコントロールできるようになった。

ただ、とっさの行動には苦手だ。落ちそうになったペンをつかもうとして左右逆の手を出してしまうことがよくある。

 



続く・・・