【いまごろカスペルスキーのウイルス対策ソフトを禁止したところで】
  TIKTOK禁止措置があまりにも手遅れだったように
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バイデン政権はロシアのサイバーセキュリティ企業「カスペルスキー」製のウイルス対策ソフトを米国内での一般販売を禁止する。
{?}。なんで今頃?
カスペルスキーはウイルス対策ソフトの開発で世界的に有名な企業、日本を含む世界200ヶ所に拠点がある。

カスペルスキー社とロシア政府とは密接な関係があるとされ、米国に「重大なリスクをもたらす可能性がある」というのが、バイデン政権の言い分である。ファーウェイ,TIKTOK排斥理由と似ている。
なぜならカスペルスキーのソフトが広範囲なコンピューターシステムにアクセスすることで、米国のユーザーから機密情報を盗んだり、マルウェアを紛れ込ませたりする可能性があるからだ。

とはいえ、すでに民間企業や個人の間に普及し、日常使われている。これまで禁止対象だった政府、連邦機関、軍、警察、情報機関はとうの昔から使用は制限されてきた。国家の中枢の機密は厳密に守られてきた筈であり、いまさら一般使用を禁止したところで、どれほどの効果が望めるのだろうか?

当時、ユージン・カスペルスキーCEOは「根拠のない妄想」と非難し、訴訟を起こした、ものの裁判所はこれを却下した。
制限、もしくは禁止措置は2024年9月29日に発効し、カスペルスキー社は、それから30日後に米国で禁止される。
 
 カスペルスキーは、1997年に設立。モスクワに本社を置き、英国の持株会社によって運営されている。英国系企業というイメージを付帯させ、200を超える国と地域で事業を展開している。

世界中に4億人のユーザーを抱え、「カスペルスキー JAPAN」は東京神田に日本支社が、大阪に関西営業所があって、日本人ユーザーも多い。
 したがって、このバイデン政権の措置は、「坊主憎けりゃ、袈裟まで憎い」の類いではないか。
「中国政府と繋がっているから」と言って、TIKTOK禁止に踏み切ったが、アメリカでTIKTOKユーザーはすでに1億7000万人もいる。

トランプはTIKITOK禁止に反対意見をのべ、「この禁止措置で喜ぶのは(ビジネスが増える)フェイスブックだ」と言った。言外にフェイスブックはもっと左翼的だと示唆しているのである。

 ▼ハッカー攻撃に脆弱きわまりない日本

2023年3月に、遅れに遅れたが自衛隊に「サイバー防衛隊」が発足した。規模は僅かに540人。中国は17万5000人のサイバー戦部隊、北朝鮮は6800人。ランサムウェアでハッカー攻撃を仕掛け、数十億円の身代金を稼ぐ専門部隊である。

 最近の被害はニコニコ動画のKADOKAWA、そして宇宙航空の大本JAXA(宇宙航空研究開発機構)だ。とくにJAXAは2023年から複数回のサイバー攻撃を受けていた。
中国系ハッカーによる攻撃で、大量のファイルが閲覧された形跡があり、なかには秘密保持契約を結ぶ外部の企業や機関の情報も含まれていたという。

 KADOKAWAドアンゴの場合は、桜チャンネルなど保守系の発信に支障がでており、しかも復旧が七月末になるというから大きな被害がもたらされた。
サイバー戦争に於いて、日本の専守防衛という退嬰的な発想が限界にきていることを物語っている。

 これまでにも発電所、緊急医院や水道局、変電所、港湾ターミナル、空港、鉄道駅など社会のインフラを狙う恐喝ハッカーが猖獗し、民間企業でも大手銀行、菓子製造メーカーや就中、トヨタなどは全工場が操業停止に追い込まれたほど。

 おそらく米国は中国系ハッカー部隊への攻撃を仕掛けてきたと推測されるが、中国は自分たちが受けたダメージについては発言をしない。

以上「宮崎正弘の国際情勢解題」より

続いて「頂門の一針 6904号」より転載します。

【中国の董軍国防相が国際会議で暴走】  櫻井よしこ『週刊新潮』 2024年6月13日号

5月31日から6月2日まで、シンガポールで「アジア安全保障会議」(シャングリラ会議)が開催された。会議初日に基調講演を行ったのはフィリピンのマルコス大統領だった。氏は南シナ海における中国との対立に関連して、「一人でもフィリピン国民が死亡するような事態が発生すれば、それはルビコン河を渡った、レッドラインを越えたことを意味する。我々は対応する」「我々の条約国(米国)はその場合、フィリピン支持で共同行動をとると信じている」と語った。

水砲でフィリピン船を損傷させ、怪我人を出してきた中国への断固たる警告だ。翌日、オースティン米国防長官が、さらにその翌日、中国の董軍国防相が演説した。

オースティン氏は広い視野から世界の安全保障を語り、殊更な中国非難もなかった。他方、董氏は冒頭からデカップリングやサプライチェーンなど、米国と西側社会が中国排除を目指す貿易制限政策を批判した。米国と西側諸国は乱暴で排他的だと論難し、中国の世界戦略はそれとは対照的で「国際社会への愛と非侵略政策が基本だ」と胸を張った。

「国境問題や海上での争いについて、我々が事件をおこしたり実力行使に及んだことは皆無だ」「中国は紛争を対話と相談によって解決することを旨としており『ジャングルの法』を軽蔑する」と言うのだ。

「ジャングルの法」は「無法の法」とでも訳せばよいのか。フィリピン政府が南シナ海のスカボロー礁の領有権問題を常設仲裁裁判所に訴えて勝利したことを当てこすっていると思われる。

ロシアのウクライナ侵略戦争に関しては、こう語った。

「我々は軍民両用のモノの輸出を厳しく管理しており、戦争を激化させる如何なることもしていない」

専門家の間では、中国の援助なしにはロシアは戦えないほど中国の対露援助は膨大だというのが定説だが、中国はロシアに軍民両用のいかなるモノも輸出していないと主張しているわけだ。

「台湾問題に片をつけます」

次に氏は「中国の核心的利益の中の核心的利益」である台湾に触れて、年来の主張を繰り返した。つまり台湾は中国の一部であるのに、米国と名指しはしなかったが外部勢力が「ひとつの中国」原則をサラミ戦術で切り崩そうとしている、台湾の独立分子に武器を供給し、中国封じ込めに動いていると非難した。中国の分断、中国からの独立の動きは人民解放軍(PLA)が断固として制圧する、そのとき台湾は悲惨な状況に陥るとおどろおどろしい論説が続くのはいつものことだ。だが満席の会場で董軍氏に聞き入っていた世界の専門家たちが本当に驚いたのは、
講演後の質疑応答を聞いた時だろう。

一巡目の質疑で韓国、独、米、印、タイの5か国の識者、研究者、コラムニストなどの問いに董氏がまとめて答える運びになった。それに対して董氏は、「質問が多彩だ。流石、シャングリラ会議だ」と奇妙に感心し、「時間の関係もあり、早速答えたい」と言って始めた。しかし董氏は事実上どの質問にも答えず台湾についてのみ語った。

歴史的、司法的視点から台湾は紛れもなく中国領だという主張を支えようと、台湾は1000年以上前から中国の管轄権下にあったとの説を持ち出した。だが、同説には歴史的根拠は全くない。

滔滔と語る董氏にシャングリラ会議の主催者であるシンクタンク、国際問題戦略研究所(IISS)のバスチアン・ギゲリッチ総裁が思い余ったように口をはさんだ。

「言いたいポイントはわかりました。中東とウクライナの質問に1分でよいですから答えて下さい」

だが董氏は構わずに言った。

「まず台湾問題に片をつけます」

再び演説を始めた董氏にギゲリッチ氏がまた懇願した。

「もう10分も台湾について話しています。他の質問にも、1分でよいです、答えて下さいませんか」

丁寧な言葉遣いの要望にも董氏は、台湾問題は中国の国内問題だと力を込めて言い渡した後、ようやく南シナ海の状況を語り始めた。

「航行の自由作戦? なぜこのことがいつも問題になるのか。なぜだ」

航行の自由作戦を展開する米国への不満が強い口調でほとばしり出た。二巡目の質疑は米国、オランダ、日本の専門家らの質問だった。米国の研究者は、会議初日のマルコス氏の「レッドライン」発言に関して「この危険な状況に中国は如何に対処するのか、南シナ海での水砲の使用を止めるつもりはあるか」と尋ねた。

「3~4分しか時間がない中でこんな難しい問いには答えられない」と董氏は拒否し、スカボロー礁に関する中比両国のやりとりを「中国風」に解説し、次のように結論づけた。

「(フィリピンのやり方は)ブラックメールでハイジャック(犯)のルールだ。中国はいつもルールに基づいた国際秩序(の枠内)でやっている」

習主席向けの発言

董氏の発言をどう読むか。明らかに国際社会に向けてというより、習近平主席向けの発言だ。発言が強硬なのは習氏の考え方を一所懸命に反映した結果であろう。独裁者習氏が台湾問題で強硬論に傾きつつあるのではないかと推測するゆえんだ。氏はこんなことも語った。

「国際組織はひとつだ。国連とその中核組織だ。国際秩序もひとつだ。国際法に支えられた国際秩序だ」「国連の権威は高められ、国際法は守られなければならない」

現実を見れば、国連は中露が拒否権を行使するために事実上機能停止となっている。その国連の権威を強化する、或いは国際法をもっと守るとはどういうことか。

習氏と中国共産党の深謀遠慮がここに透視される。スタンフォード大学フーバー研究所の上席研究員で著名な中国問題の専門家、エリザベス・エコノミー氏がフォーリン・アフェアーズ誌(5~6月号)で次のように書いた。

中国は国連や国際法を換骨奪胎して中華風に作り直す野望を抱いているが、エコノミー氏は中国がその目標達成のために如何に熱心かつ地道に支持を広げてきたか、具体例を示している。たとえば中国国営通信社の新華社は世界に180の支局をもつ。CNNの2倍である。外交においても中国がおよそ全ての国々に大使や総領事を派遣しているのに対し、米国は約30か国で大使が不在である。米国がウッカリしている間に、中国は地道に動いているというのだ。

オースティン氏は、欧州、中東問題も大事だが米国の優先度はインド・太平洋にあり、同地域の安全と繁栄を守ることが米国の安全保障政策の核心だと語っている。アジアの安全が保たれて初めて米国は安全でいられるとする米国の、日本への期待は非常に大きい。そこで安全保障を考えるとき、結論はいつも同じになる。日本は一体どうするつもりか、憲法改正はまだかということだ。