【パンデミック条約に関して全米24州の知事が結束し反対を表明】 
22州の司法長官もバイデン大統領にWHOとの協定に署名しないよう促した
***************************
パンデミック条約に関して全米24州の知事が結束し反対を表明した。バイデン政権が進めている条約交渉に反対の声をあげたのだ。
「目的はWHO、就中、制御不能な事務局長に、言論、プライバシー、旅行、医療の選択、インフォームドコンセントなどの自由を含む米国民の権利を制限する権限を与えることは、憲法の基本原則に違反する。採択されれば、これらの協定はWHOを諮問機関から公衆衛生の世界的な権威に昇格させることになりかねない」

WHOはパンデミック対策で失敗し、批判の的となったが、新しい規制に走り出した。
 パンデミック合意と呼ばれる「新条約」と、既存の国際保健規則(IHR)の改正であり、WHOが「健康上の緊急事態」を宣言した場合に、この国連の下部組織内にかなりの権限が集中することになることを懸念する内容となった。

 バイデン政権のWHO取り組みに反対を唱えたのはアラバマ州、アラスカ州、アーカンソー州、フロリダ州、ジョージア州、アイダホ州、インディアナ州、アイオワ州、ルイジアナ州、ミシシッピ州、モンタナ州、ネブラスカ州、ネバダ州、ニューハンプシャー州、ノースダコタ州、オクラホマ州、サウスカロライナ州、サウスダコタ州、テネシー州、テキサス州、ユタ州、バージニア州、ウェストバージニア州、ワイオミング州で、各州知事が署名した。

共和党上院議員らが条約承認の権利を要求した。
5月1日に共和党の上院議員49人全員がバイデン大統領に宛てた書簡に署名し、WHOパンデミック協定とIHR修正案に署名しないか、署名するとしても憲法で定められている通り、上院に承認を求めるよう求めた。しかし多数派の上院民主党は条約の上院承認を求める姿勢にはない。

 「COVID19パンデミックにおけるWHOの失敗は予測可能であった。永続的な損害を与えた」と共和党上院議員らは指摘し、「米国は、最も基本的な機能を果たせない最近のWHOの無能ぶりを無視するわけにはいかない。国際保健規則の改正やWHOの権限を拡大するパンデミック関連の新たな条約を検討する前に、包括的なWHO改革を主張しなければならない。我々は深く懸念しており、方針転換を強く求める」。

 米国では、健康問題に対処する権限は主に州の管轄下にあり、連邦政府の管轄外である。共和党が多数派を占める州は、WHOとの協定に積極的に反対している。
 ルイジアナ州とフロリダ州は最近、州当局がWHOの指示に従わないことを定めた法律を可決し、オクラホマ州なども同様の法案を検討している。

 米国の22州の司法長官は5月8日、バイデン大統領に宛てた書簡に署名し、「WHOとの協定に署名しない」よう促し、「WHOが各州で公衆衛生政策を策定しようとするいかなる試みにも抵抗する」とした。

 「最新版は依然として大きな問題がある。手続きの流動性と不透明性により、過去のバージョンの最もひどい条項が復活する可能性がある。結局のところ、これらの手段の目的は公衆衛生を守ることではない。これは、WHO、特に事務局長に権限を譲渡し、国民の言論の自由、プライバシー、移動(特に国境を越えた移動)、インフォームドコンセントの権利を制限することだ」と22州の司法長官が連名で訴えたのだ。
 この論争でもアメリカの分裂状態はあきらかとなった

以上「宮崎正弘の国際情勢解題」より

続いて「頂門の一針 6881号」より転載します。

【変見自在】【イランイクモン】 高山正之

 40年も前、イ・イ戦争さなかにテヘラン特派員の辞令が出た。
戦争は北の山岳部から南の湿原地帯まで1000キロの国境線を挟んでもう5年も続いていた。長い戦場なら敵のいないところもある。「敵を撃破」「侵攻に成功」とかの大本営発表も多かった。

 イラン側が勝つとテヘラン駐在の外人記者に召集がかかり、勝ったという戦場に連れていかれる。その夜のテレビニュースで「わが軍の勝利を取材する外人記者たち」として登場させられる。そんな戦場行きが2年余の間に6回あった。残りの数多の戦場ではみな負けていたということだ。

 なぜならイランには空軍がなかったからだ。いや、あるにはある。パーレビ皇帝時代、この国は79機のF14トムキャットを持っていた。トム・クルーズの「トップガン」でお馴染みの機はまだ見えていない敵機をロックオンして撃ち落とすフェニックスミサイルを装備する。中東で敵う国はなかった。

 しかしホメイニ師がテヘランの米大使館を襲撃させて国交断絶。部品もミサイルも補給が途絶え、イラン機は戦えない丸腰戦闘機になってしまった。かくてイランは制空権を失い、イラク機は毎晩のように三機編隊でテヘランに飛んできては好きに250キロの爆弾を落としていった。

 政権中枢の坊主があるときテヘランから民間旅客機で飛んだらイラク機が待っていてイラク領に強制着陸させようとした。旅客機は逃げ損なって墜落した。イラク側は搭乗者名簿まで入手していたという。ことらが戦場にいくヘリも埒外ではない。目立たぬよう地面を這うようにして飛んだものだ。

 南部アフワズには夜を忍んで飛んだ。最前線の野戦病院ではイペリットにやられた将兵が何十人も横たわっていた。無色の神経ガス弾も使われ、助かっても「インポになる」と言われ、無性に怖かった。何度かの戦場で感じたのはイラン人の深い厭戦気分だった。

 それでも戦争が続いたのは、実は国交断絶中の米国がイランに高性能兵器を提供して萎えそうな戦意を刺激していた。世に言うイランコントラ事件だ。さらにもう一つの天敵イスラエルも通常兵器をイランに供与していた。驚くのはまだ早くて米国はイラクにも「毒ガスの製造プラントと原材料を供与、西独がバグダット郊外に建設」(ニューヨークタイムズ紙)していた。

 アフワズの野戦病院で悶えていた将兵はその米国製プラントで作られたイペリオットにやられたのだ。米国はなぜ戦う双方に兵器を提供したのか
それは中東の大国が互いに殺し合い、疲弊し尽くすのを期待したからだ。イスラエルの支援も同じ意図だ。お蔭でというかイ・イ戦争は8年も続きホメイニ師の死でやっと止んだ。

 しかしサダム・フセインは元気に戦った。それで米国は9・11テロにかこつけてイラク戦争を仕掛けてサダムを排除した。最後の仕上げはバグダッドにシーア派の指導者を置くことだった。かつて英国の中東学者ガートルード・ベルはチャーチルに「スンニ派の都バグダットに異端のシーア派を入れてはいけない。中東が混乱するから」と勧告した。

 しかし米国は彼女の勧告を無視し、敢えてシーア派のマリキを据えた。そしてベル女史の予言した通りの混乱が続いている。「中東は石油を出していればいい。混乱していればなおいい」が一貫した米国の中東政策なのだ。今、イスラエルとイランの戦争が心配されている。

 でもイランには空軍が無いうえに国民が坊主政権に反発している。そんな状態でイランは戦争なんかできないし勝てるわけもない。イスラエルが戦争して坊主政権を倒してやればイランは混乱を脱する。ただそんな安定をイスラエルは望んでいない。

 中東に関わる国々に良心など欠片(かけら)もない。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  松本市 久保田 康文  『週刊新潮』令和6年5月30日号採録