【マレー縦断は絶大な効果をあげたが、インパールでは?】
「サイクルアーミー」とは何か? 奇襲部隊、輜重部隊の隠密作戦
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兵藤二十八『自転車で勝てた戦争があった』(並木書房)
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 奇妙なタイトルである。書名からすぐ連想したのはマレーシアを縦断した銀輪部隊のことだった。岩畔豪雄が指揮し、現地で自転車を徴用し、パンク修理隊が現地のゴムで材料を調達、この作戦は意表を突くものだった。
 岩畔は戦後、回想録を書いたし、京都産業大学の創設に貢献した伝説の人。

 本書では主にインパール作戦の失敗を活写し、参謀本部の無能を浮き彫りにする。
 もし自転車を輸送手段として活用していれば、戦場での餓死者や置き去り兵はなかったと著者はいう。

 1953~54年のベトミン対フランス軍、その後のベトコン対米軍の戦いで、「押して歩く」輸送用改造自転車が、制空権のないジャングルでの物資輸送に大活躍した。これがホーチミンルートと呼ばれた。
 かのディエンビエンフーの陥落の秘密作戦もこれだったのか。

 1~2人の「押し手」が数キロの短い区間を担当し、次々とリレー式に自転車を前送して行くことによって、絶え間のない長距離補給を実現させたのである。
 ところが日本軍の「大失敗作戦」の典型は、ガダルカナル作戦やポートモレスビー攻略作戦だった。

 もし、インパール作戦で、日本陸軍がベトミン式の自転車輸送を活用していたら、最終勝利はできないまでも、「犠牲の少ないヒット&ラン」作戦ができたと兵藤氏はいう。

 1944年のインパール作戦は4ヵ月間続き、日本軍はこの作戦に9万人を動員し、餓死または置き去りされた傷病兵の陣没者が3万人くらい。純粋な戦死者は、それとは別に3万人ほどだった。

 現地で水牛を集めて軍需品を運ばせようとした牟田口中将の思いつきは、作戦開始から1週間にして見込みが外れ、兵器も弾薬も糧食も、すべて歩兵が肩で担いで運ぶしかなくなった。歩兵たちは、持参の糧食が尽きたあとは、全員、飢餓状態となって、マラリヤや感染症に抵抗する体力も失い、それが「歩行不能患者」を急増させた要因になったのである。

 ペダルもギヤもチェーンもサドルも外した改造自転車に、コメ80kgと武器弾薬をくくりつけて、ひたすらジャングル内を押して歩くことが可能なことを、著者は自ら実験し、それが本書の仮説の大きな説得力になっている。

 補給がほとんどなかった日本兵ですら、当初は互角に戦っていた。補給が十分であったなら、インパールを占領するという目的は、達成された可能性がある。インパールを占領できずに総退却となった場合でも、3万人の餓死者(置き去り)は発生せず、同じことは、ガダルカナルと、東部ニューギニアのポートモレスビー攻略作戦(オーエンスタンレー山脈越え作戦)にもあてはまる。

 しかし、戦前の帝国陸軍のエリート参謀たちは、「押して歩く」自転車の有用性を、ベトナム人のように理解できなかった。じつはアフリカのコンゴ民主共和国には、いまも「チュクードゥー」という、全木製の物資運搬用スクーターがあり、400~800kgも物資を積んで、押して歩いている。

 ここまでの作戦のなかでディエンビエンフーとポートモレスビーに評者(宮崎)は行ったことがあるが、戦場はすでに風化していた。 

 この「押して歩く」自転車は、現代の日本でも必ず重宝する。将来、南海トラフ大地震が起きて、西日本じゅうが負傷者だらけになったとき、活躍するのは、ガソリンも電気も必要としない、「押して歩く」自転車であろう。サバイバル読本としても読める。

以上「宮崎正弘の国際情勢解題」より

続いて「頂門の一針 6856号」より転載します。

【日本政府を完全になめている】
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【高橋洋一「日本の解き方」】SNSで有名人かたる投資詐欺と米IT企業開き直りか日本政府を完全になめている 豪政府のような厳しい対応を

 SNSで著名人をかたる投資詐欺が大きな問題になっているが、フェイスブックを運営する米メタ社など、プラットフォーム側の対応に不満を持つ人も多いようだ。こうした詐欺的な広告の掲載を止めるために政府などができることはないのか。

 「50代、60代で売ってはいけない3つの投資!正しい投資法はこれだ」「世界中の投資家が、今はFXでトレードするベストタイミングだと考えています」などなど、フェイスブックやインスタグラムといったSNSのアプリを開けば、森永卓郎氏、堀江貴文氏など有名人になりすました「詐欺広告」があふれている。筆者になりすました詐欺広告もある。今、SNS上は詐欺の無法地帯と化している。

 警察庁の発表では、昨年のSNS型投資詐欺の被害総額は約278億円。1人で1億円以上騙し取られた被害者も複数いるという。

 メタ社に対応を求めるも、返ってきた答えは、「世界中の膨大な数の広告を審査することには課題も伴います。社会全体でのアプローチが重要だと考えます」と開き直りとも取れる返答だった。筆者も、代理人の弁護士を通じて、広告を出しているのは本人ではないとメタに申し立てたが、同様の回答だった。

 ほとんどの「詐欺広告」は、クリックするとLINEグループに誘導される。そこには「儲かりました」などサクラの投稿が寄せられている。主催者は投資の方法を丁寧に説明し、当初は儲かっているように見せかけどんどん投資させるという手口が多い。カモになっているのは中高年層だ。

 さすがに、真実かどうかを調べずに広告を掲載したSNSの運営会社に責任があるとして、国内の被害者らがメタの日本法人を相手取り、損害賠償を求める訴えを起こした。

 海外では、2022年3月、オーストラリア競争・消費者委員会が、同国の有名人を使って詐欺広告を公開し、虚偽、誤解を招くまたは欺瞞(ぎまん)的な行為を行ったとして、メタを連邦裁判所に訴えている。

 日本でも、政府がこれくらいの対応をしてくれればいいが、そこまでの動きはみられない。ちなみに筆者は防衛のために投資関連のビジネスを抑制せざるを得ず、弁護士費用などと合わせて多額の損失を被っている。

 メタの最高経営責任者であるマーク・ザッカーバーグ氏は、今年2月末、アジア旅行と称し来日した。目的は今後厳しくなるとみられるSNSや人工知能(AI)への規制に関して、アジアのリーダーたちと関係を強化することだったという。岸田文雄首相はわざわざ官邸にザッカーバーグ氏を招いて会談した。まずは「メタのSNSで大変な被害が出ている」として対応を強く求めるべきだった。

 メタは、なりすまし詐欺広告で巨額の収入を得ているにもかかわらず、豪政府のような対応を日本政府が取っていないためか、完全になめていると言わざるを得ない。EUデジタルサービス法や英オンライン安全法などを参考とし、日本でも法規制、特に本人の申し出があれば削除する義務などを課すべきだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

☆☆☆☆☆☆  松本市 久保田 康文  夕刊フジ令和6年5月1日号採録