【LGBTはアングロサクソンの個人主義から生まれたのだ】
 「プーチンの頭脳」といわれるロシア学者、かく語りき
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4月29日にタッカー・カールソンがユーチューブで公開したインタビューの相手は意外な人物だった。
ロシアの思想家、哲学者で政治評論家でもあるアレクサンドル・ドゥギンがゲストだった。 ドゥギンは「プーチンの頭脳」とも呼ばれることがあるが、屡々面会しているわけでもなければ、クレムリンで膝詰めの懇談をしたこともない。「プーチンの頭脳」というイメージが一人歩きしている。

ドゥギンは、しかしウクライナにおけるロシアの軍事作戦を熱烈に支持しており、ウクライナの独立国家は「存在すべきではない」と述べてきた。
このため左翼やウクライナから狙われ、悲劇に襲われた。2022年8月に娘のダリヤが走行中、自動車に仕掛けられた爆弾で殺害されたのだ。ロシア当局はウクライナ工作員によるテロと断定した。

 ドゥギンの初婚の相手はロシアのLGBTの活動家で長男はロックミュージシャンだった。再婚した妻との間に父親よりロシア愛国を訴えた娘がダリアだった。彼女はユーチューバーとして頭角を現し、過激なナショナリズムの精神的支柱といえる存在になっていた。

ドゥギンは神秘主義、オカルト的発想が基底にあって、ロシアを欧米の退廃に対抗する「ユーラシア」帝国の中心に位置づける思想潮流の主導者になった。「ロシアの世界」という言葉の生みの親でもある。

この流れはウクライナのアイデンティティに対する強い嫌悪感を産み、「新しいロシア」という表現の復活にドゥギンが寄与したことになる。
プーチン大統領は14年3月にクリミアを併合した際、この語彙を使用した。
それで、プーチンのブレーンと言われるのだが、過大評価、もしくは誤った評価だ。
プーチン自身が尊敬しているのはソルジェニツィンである。

ドゥギンの書籍は「危険な書物だ」として米国では発禁になっており、アマゾンでは買えない。バイデンはドゥギンの影響力拡大を懼れていることになる。しかし、ドゥギンより危険な思想をばらまき、国家破壊を使嗾する思想書は「言論の自由」とかで、まったく野放しである。

さてカールソンとのインタビューでドゥギンは「いま、西側を蔽っているのは古典的リベラリズムではなく、ニューリベラリズムであり、家族を否定し男女の性差を差別することを拒否し、ようするに西側諸国のニューリベラリズムは『ウォーク・イズム』ともいえる。人間がもっと大切にするべき家族という概念の終焉をもたらしている」と述べた。画像を見る限り、ドゥギンは英語でカールソンとのインタビューに応じている。

 ▼『野放図な個人主義はかえって人間性を喪わせる』 

 ドゥギンは「アングロサクソンの個人主義、西側の自由主義思想は人間のアイデンティティ」の喪失をもたらす。リベラリズムが人々を集団的アイデンティティから解放する。それがトランスジェンダーやLGBT、新たな形の性的個人主義につながっている。LGBTQなどのライフスタイルは、このリベラルなイデオロギーの実現と勝利に必要な要素である」と述べた。

 ドゥギンは「最終的に、個人のアイデンティティを人間であるか、人間でないか選択できるようになる。すなわちトランスヒューマニズム、ポストヒューマニズム、シンギュラリティ、人工知能です」と比喩した。
 
LGBTやら少数優遇などの個人主義のせいで「家族が破壊されつつある」と同氏は繰り返し、リベラリズムの進展は「人間のアイデンティティの放棄」につながるだろうと付け加えた。換言すれば人類史は終わりを告げると示唆している。

「次の段階では、この過激なニューリベラルは少数派の支配を意味し、民主主義ではありません。それは全体主義です」。「フランシス・フクヤマが言ったように多数尊重という民主主義がヒトラーを生んだのだから少数のリベラリズムが次の世界を導くのだという(かれらの傲慢な思想)考え方に陥ったのが西側のニューリベラリズムの猖獗です」
 たしかに指摘通りの側面がある。

以上「宮崎正弘の国際情勢解題」より

続いて「頂門の一針 6853号」より転載します。

【見事な岸田演説、覚悟して実現を】  櫻井よしこ  日本ルネッサンス 第1095回
国賓としてワシントンを訪れた岸田文雄首相を米国は厚くもてなした。岸田氏は好感のもてる指導者の姿で、日本国の意志を明確に示し、米国と共に世界秩序を作っていくとの意気込みを語った。

一例が4月10日、首脳会談後の合同記者会見だ。岸田氏はバイデン大統領より1.5倍長く語り、日米は今や、人間の尊厳を基にした価値観を地球社会に提示するグローバルパートナーとしての責任を果たすべきだとし、中国の「力による現状変更」を名指しで牽制した。

11日の米議会上下両院合同会議では、「未来に向けて~我々のグローバル・パートナーシップ」と題してユーモアを交えて語った。ブリンケン国務長官は「(恐竜がのし歩いていた石器時代を舞台にした米国のテレビ漫画の)フリントストーン一家の話で上下両院議員を笑わせたのは岸田首相が初めてだ」と、ほめ上げた。

岸田氏の柔らかな表情、満足そうな笑み。国内では余り見られない感情発露で首相が米国人の心の琴線に触れたのは確かだろう。同じことが日本でも出来るとよいのに、とつい思ったものだ。上下両院で岸田氏はまず日本の覚悟に言及した。

「今の私たちは、平和には『理解』以上のものが必要だということを知っています。『覚悟』が必要なのです」

中国の対外的姿勢や軍事動向がこれまでにない最大の戦略的挑戦をもたらし、経済的威圧や「債務の罠」外交で経済を武器化する事例が増えているとの指摘は驚くほど率直だった。ウクライナ支援を渋る米国議会(共和党)に対しても正論を語った。

「ロシアのウクライナに対するいわれのない、不当で残酷な侵略戦争は3年目を迎えました。今日のウクライナは明日の東アジアかもしれません」

岸田氏は米国の支援なしにはウクライナは敗北する、それではいけないのだと訴えたわけだ。

重大な責任  そして、こう語りかけた。
「ほぼ独力で国際秩序を維持してきた米国。そこで孤独感や疲弊を感じている米国の国民の皆様に、私は語りかけたいのです。そのような希望を一人双肩に背負うことがいかなる重荷であるのか、私は理解しています」「世界は米国のリーダーシップを当てにしていますが、米国は、助けもなく、たった一人で、国際秩序を守ることを強いられる理由はありません」「日本国民は、自由の存続を確かなものにするために米国と共にありますそれは日米両国の国民にとどまらず、全ての人々のためにであります」

大きな拍手。当然だろう。
4月10日付けでランド研究所のジェフリー・ホーヌン氏が『フォーリン・アフェアーズ』誌に寄稿した内容を思い出す。冷戦時代、米国が最も頼った同盟相手は、北大西洋条約機構(NATO)だった。21世紀の今、最大の脅威、中国に対峙するには日本こそが最重要の同盟相手だという内容だ

日本を、「自由で開かれたインド・太平洋」だけでなく「自由で開かれた国際秩序」を支える国だと評価し、従来の米戦略であるhub-and-spoke system(自転車の車輪の中心軸つまりハブが米国で、車輪を支える1本1本の棒が米国の5つの同盟国、日豪韓比タイ、という意味)の中心軸を、米国一国でなく、日米同盟に置きかえるべき時が来たと提言しているのだ。

安全保障問題において重きをなす保守系シンクタンクのランド研究所の提言とほぼ同じ内容を、岸田氏が語ったことになる。日本国の歩むべき道、方向性としては正しいと私は思う。しかし、それは重大な責任を引き受けることでもある。その責任を果たすには何をしなければならないかは後述するとして、岸田氏はこうも語った。

「私は理想主義者であると同時に、現実主義者です。自由、民主主義、法の支配を守る。これは、日本の国益です」「世界中の民主主義国は、総力を挙げて取り組まなければなりません。皆様、日本は既に、米国と肩を組んで共に立ち上がっています。米国は独りではありません。日本は米国と共にあります」

広島出身の政治家として核なき世界を目指すと主張してきた岸田氏が、日本は米国と共にあると誓って、さらに発言した。

「日本は長い年月をかけて変わってきました。第二次世界大戦の荒廃から立ち直った控えめな同盟国から、外の世界に目を向け、強く、コミットした同盟国へと自らを変革してきました」「地政学的な状況が変化し、自信を深めるにつれ、日本は米国の最も近い同盟国という枠を超えて、視野を広げてきました。日本はかつて米国の地域パートナーでしたが、今やグローバルなパートナーとなったのです」

新たな中東戦争
岸田演説の二日後、イランがイスラエルを攻撃した。昨年10月7日にテロ組織ハマスがイランの支援の下、イスラエルを攻撃した。その上に今回のイランによる攻撃である。世界はイスラエルの出方を固唾を呑む思いで見詰めている。米国は無論、イランでさえ、全面戦争に突っこみたくないと考えているのは明らかだ。イスラエルにとっても事は容易ではないが、新たな中東戦争が始まらないという保証はどこにもない。

日本周辺では韓国の与党「国民の力」が4月10日の総選挙で大敗した。日本を敵と見做す左翼勢力が大勝し、韓国政治はいつでも親北朝鮮、親中国路線に転換しかねない。

台湾でも親日勢力の民進党は、総統職は確保したが立法院で敗北した。親中国の国民党が第一党となり、政権運営は非常に厳しくなった。

韓国、台湾の政情不安定の中で、日本は米国と共にこの地域の安全保障環境を安定させる役割を買って出たのである。そのためにすべきことが、今回の日米首脳共同声明に記されている。

その中で評価すべき第一点は自衛隊が統合司令部を常設し、米国が在日米軍司令部の作戦機能を強化するとした点だ。日米の緊密な連携に加えて、韓国、豪州、フィリピン、タイ、台湾、インドなどの力をどう結集していくかが重要になる。

第二点として、日米の2+2(外相・防衛相会合)で拡大抑止に関する突っ込んだ議論をするとの合意も非常に大きい。中国が核の増産に走る中、中国の核攻撃をどう抑止するのか、攻撃にどう備えるのかを日米で具体的に話すことほど重要なことはないはずだ。

わが国の軍事力は、弾薬の備蓄ひとつとっても中国に及ばない。足りないところを早急に補い、憲法を改正することなしには、米国のグローバルパートナーには到底なれない。首相の発言は日本国としての誓いである。その目標に向けて岸田氏は現実志向で、具体策をひとつひとつ実現していかなければならない。