【嵌められた中川】
記者会見の時間と為り、会場のプレスセンターに足を進めた杉澤はギョッとした。
気分が悪いと告げ、ホテルの部屋に戻った筈の中川が、何故か中央に座っているではないか。

一体どういうことなのか?
中川は先ほどよりも格段に体調が悪いように見受けられ、最早意識も定かでない様子だ。処が、横に座った篠塚財務官が場を仕切り、並み居る記者たちに質問を促している。

中川は座っているのさえ辛そうであり、殆ど泥酔者のようだった。
混乱する杉澤の目の前で、後の世に謂う処の”酩酊会見”が、正に遂行されていた。

傍目には酔っ払っているとしか見えない中川の記者会見は、翌日一斉に日本国内メディアで報道され、只管繰り返し中川大臣の”酩酊会見”の映像を流し続けた。

更に不可解な事態が続く。
「IMF加盟国による資金提供としては過去最大で、スタースカーン専務理事は『人類の歴史上、最大の貢献である』と感謝の意を評した」と謂う部分が、国内メディアのサイトから消されたのである。

日本国民はG7に於ける政府の実績について知る術を失い、テレビでは只管中川大臣の”酩酊会見”映像が流され、野党や評論家たちが一斉に大臣辞任を求め叫ぶ。

更に不思議な事は、日本での大騒ぎの批判報道について、中川本人は完全に情報を遮断されていた。

体調が回復し、予定された幾つかの行事をこなした中川は、ローマからの直行便で成田空港に帰国した。空港のビルの中から妻のよう子に携帯電話をした中川は、初めて何が起こったのかを知り、絶句した。

携帯を閉じながら、中川は遂行者たちを見渡す。しかし、全員が顔を伏せ、中川の方を見ようとはしなかった。

IMFでの実績は一切報道されずに、あの記者会見のみが”酩酊会見”として繰り返しテレビで流され、野党やマスコミが大臣辞任を要求している事実を、自分だけが知らなかった。

何故だ!何故、誰も自分だけに教えてくれなかったのか?

八俣はローマから帰国後、汐留の国民テレビ本社の会長室に直行した。そして、氏本から称賛の言葉をかけられた。
「文句なしだ、八俣。あれは”何”を使ったんだ?」
「会長、お言葉ですが、仰有る意味が分かりかねます」
「私どもは、功労者を労っただけですわ」

氏本はニヤリ、と笑う。
「お前はまったく優秀だよ」
「江崎の方はどうする」

氏本の懸念ももっともだった。読解新聞の江崎千夏には、やや軽率なところがあり、ローマでの会見が始まる少し前、レイター通信の記者に、「会見は面白いことになるわよ」と、まるで”酩酊会見”を予言するかのような発言をしていたのだった。

参考文献「真冬の向日葵」三橋貴明・さかき漣共著:海竜社刊行

続いて「宮崎正弘の国際情勢解題」より転載します。
 
【アップル、EV開発を「やーめた」。2000人従業員はAI部門へ】
トランプ再登場が視野にはいり、EVの先行きの暗さが見通せるようになった
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アップルは十年越しのプロジェクトだった「EV(電気自動車)」の開発をやめ、人工知能(AI)の開発に人材や投資を集中させる。これは衝撃のニュース。EVの時代と期待され大金を投じてきた自動車メーカーは慄然となった。

 アップルは2014年から「タイタン」というEVの開発を進めてきた。完全自動運転をめざしていた。EV開発に関わったおよそ2千人のアップル従業員に撤退の意向を伝え、多くの人員をAI部門、とくに生成AIの開発に集中させる方針という。

アップルはこれまで、数十億ドルをEV開発に投資してきた

 すでに全米自動車労組はEVに反対して45日間のストライキ。トランプは労組票を取り込む目的もあってEVに冷淡。自動車の環境規制に反対、EV購入時の免税控除は廃止、充電インフレ建設の補助金廃止、パリ協定離脱をとなえている。

 2月27日のミシガン州における大統領選挙予備選でトランプは圧勝している(トランプ69%vs ニッキーが26%と43%の大差)。ミシガン州こそ自動車労組の本拠である。

 狼狽したバイデンはパリ協定離脱の考えはないが、自動車環境規制については緩和を検討すると言い出した。

 労組票の取り込みが狙いだが、補助金がなくなればEVの売れ行きは急減することになり、2037年までにEV比率を全体の自動車販売の三分の二にまで高める等という目標はすでに絵空事、日本経済新聞(2月23日)の報道によれば全米3900のディーラーでEV在庫が積みあがっている。