【「戦前の日本人はなんと(国家安全保障の)意識が高かった」のかと驚く】
「武力戦」と「秘密戦」があり、戦争の入り口は『情報戦』から始まる
  ♪
神谷宗幣『情報戦の教科書』(青林堂)
@@@@@@@@@@@@@@@@

 元気印の神谷宗幣(参政党党首。参議院議員)が諜報、防諜のワンダーランドに挑んだ。本書の副題は「日本を立て直すため『防諜講演資料』を読む」となっている。

 この防諜講演資料とは昭和16年に内務省が発行した国民向けの啓蒙書である。戦前、日本人が読んでいた情報戦のテキストのようなモノで、現代日本では目に見えない、静かなる日本侵略の様相があるから、大いに参考とするべき基調な資料だと言える。

 神谷議員は国会図書館で公開されている資料をみつけ「戦前の日本人はなんて意識が高かった」のかと驚いた、と書きだしている。
 「情報、経済、メディア工作」などのスパイの実態を日々目撃しているが、昔の情報戦の基本が変わっていないことを私たちは認識できるのである。

 防諜とは何か?

 「幾百万の大軍を動かして、陸に、海に、空に、血みどろの聖戦を続けつつある、国家の総力を挙げての武力戦と相呼応し、かつそれ以上に重大な結果をもたらす、武器なき戦争に国家の全知全能を動員する防衛戦であって、もし防諜が不十分であったなら、いかに武力戦において大勝しても、わが国は滅亡することになる」

 すなわち秘密守秘という最低限度のレベルではなく、銃後の国民が必死に戦い抜くべき『武器なき戦争』である、と簡潔に本質を述べている。

 戦争には「武力戦」と「秘密戦」があり、戦争の入り口は秘密戦という『情報戦』から始まる。つまり「敵を自分の都合のよいようにコントロールする」。これが孫子の言う『上策』である。

 つぎに食糧や燃料を止める経済封鎖が、孫子のいう『中策』に該当する「経済戦争」だ。
こんにちでいえば経済制裁、海上封鎖、サプライチェーン寸断である。欧米がロシアに対して、或いはアメリカが中国に対して実行している経済封鎖は、事実上の戦争である。

 『下策』が直接の軍事対決となる。

 ウクライナ戦争の過程を振り返っても、まさしくこの順番で展開された。ロシアは上策を『ハイブリッド戦争』と定義した「グラシモフ・ドクトリン」の実践から開始し、気がつけばクリミヤ島はロシアが奪回していた(グラシモフは参謀総長)。

 大東亜戦争の経過を段階を追って概括すると(1)移民排斥がカリフォルニア州から始まり日系人は収容所へいれられた。(2)日本の知識人、学生がマルクスにかぶれた。(3)軍縮会議などで巧妙に日本の軍備縮小が決められた。(4)米英ソ連がシナの反日抗日派をテコ入れし資金と武器をあたえた(5)日本へABCD包囲網を形成し、経済的圧迫と日本経済の疲弊をねらった。これらが『秘密戦争』の範疇にはいる。

 中国は「超限度戦争」を仕掛けている。

とくに力点をおいているのが英米と日本。第一段階が政治家とメディア工作である。かれら『売国奴』は脳幹が侵されたか、でなければカネに転んだか、あるいは女性問題で脅かされたか、敵のスパイを結果的に演じるのである。
 危機に直面した日本に必要なのは国民の自覚であり、そのためには教育が重要だとする結論は基本的な心構えとして傾聴に値する。

以上「宮崎正弘の国際情勢解題」より

続いて「頂門の一針 6773号」より転載します。

【織田元空将の正論に申し訳ない】 【正論】    西岡力

 1月16日付「正論」で元空将の織田邦男氏が書いた「憲法に自衛隊明記が必要な理由」を読んで私は恥ずかしくてならなかった。織田氏は結論でこう書いた。

<国防という崇高な使命を果たす自衛隊を憲法に明確に位置付ける。自衛官に名誉を与えるだけでなく、国民に国防の当事者意識を持たせることになる。「13・2%」という異質性は、大いに改善されるだろう。ひいては抑止力強化に繋(つな)がり、結果として平和が守られることになる>(13・2%は「もし戦争が起こったら国のために戦うか」の問いに「はい」と答えた日本人の比率)
[民間人が率先すべき論陣]

 自衛隊員に名誉を与えるべきというこのような論説を、命がけで国防に従事してきた元自衛官自身に書かせてはならないと私は考えてきた。われわれ民間人が率先してその論陣をはるべきだからだ。

 私は平成28年8月16日付本欄(「自衛隊を憲法に明記する発議を」)でこう書いた。<自衛隊員は現在、南スーダンや尖閣諸島付近などで命がけで任務を遂行している。隊員は「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います」という宣誓をしている。彼らに報いる道は名誉を付与することだ。

 最初の憲法改正発議において、自衛隊を憲法に明記することを避けながら、今後も命をかけて国のために働けと命令するのであれば、政治家はあまりに自衛隊員に失礼である。隊員に名誉を与えるため、自衛隊の存在を憲法に明記するための闘いから逃げてはならないと強く思っている>
[自衛隊明記も実現していない]

 直前の参院選の結果、改憲に賛成する勢力が衆参両院で3分の2を超えたことを受けて書いたものだった。その約9カ月後、当時の安倍晋三首相が自衛隊を憲法に明記する改憲を提案し、自民党はそれを受け改憲案をつくった。

 そもそも自衛隊の憲法明記は現行憲法の9条2項の戦力不保持条文をそのままにするという前提だ。2項がある以上、自衛隊は通常の軍隊には課せられていない様々な制約を受け続ける。そのことも自衛隊員に申し訳ないと心から思うが、戦後日本の平和ぼけの厚い壁を前にして、まず自衛隊を明記することから始めるべきだと私は8年前に本欄に書いたときに考えた。しかし、まだ憲法への自衛隊明記は実現していない。そこでしびれを切らした元空将が本欄で声を挙げられた。恥ずかしく、申し訳なくてならない。

 織田氏は現在、ある大学で安全保障の講義を担当しており、その講義を受けた学生の、国のために戦うと答える比率が顕著にアップしている。その素晴らしい講義を紹介したSNSに対し、若者に命を粗末にしろと教えているなどと見当外れの批判が起きていると聞き驚いている。今現在わが国の安全が守られているのは自衛隊員が命をかけ神聖な任務を果たしているからだ。そのことを知ったら元空将の講義を批判することなど恥ずかしくてできないはずだ。

 繰り返すが、自衛隊員は今この時も命をかけ、わが国を守る崇高な任務にあたっている。本当に命がけだから毎年、殉職者が出ている。私は数年前まで防衛省オピニオンリーダーを拝命し、自衛隊殉職隊員追悼式に参席していた。幼い子を残して殉職した隊員はじめ、任務で殉職された英雄が毎年いることをよく知っている。
[今年前半に改憲発議を]

 岸田文雄首相は、自身の任期内に憲法改正を実現すると公言している。自民党は1)自衛隊の明記2)緊急事態対応3)合区解消・地方公共団体4)教育充実─の4項目の改正案を提示しているが、最初の憲法改正発議に何を盛り込むのかまだ結論を出していない。

 私はここで声を大にして1)を絶対に外してはならないと言いたい。国連安保理常任理事国ロシアがウクライナへの侵略戦争を起こし、残虐なテロ攻撃に対してイスラエルが自衛権を行使している。中国共産党政権は台湾への武力行使の準備を進めている。台湾有事が日本の有事ならば、現行憲法下で最初の防衛出動、自衛隊による武力行使があり得る。戦死者が出ることは避けられない。

 そのことを承知の上で自衛隊員は日夜、訓練を重ねている。それなのにわが国憲法ではいまだに「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」という否定文だけが書かれ、自衛隊について一言も触れていない。憲法学者の多数は自衛隊違憲論を主張し、一部の教師らが教室でそのような内容を教えてさえいる。

 命がけの仕事をする彼らに報いる道は名誉を付与することだ。最初の憲法改正発議で自衛隊を憲法に明記することを避け、今後も命をかけて国のために働けと命令するのであれば、あまりに自衛隊員に失礼ではないか。まず声を挙げるべきは元自衛官ではなく、われわれ民間人だ。政治家は自衛隊明記の憲法改正発議を今年前半にぜひ実現させてほしい。国民は国民投票で通す戦いに臨む覚悟はできている。(にしおか つとむ)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆  松本市 久保田 康文  産経新聞令和6年2月8日号採録