【百年戦争】
林房雄の「大東亜戦争肯定論」がある。この本は「本当のところあの戦争は一体何であったか」を振り返っているものだ。
林はあの戦争を幕末から続く「東亜百年戦争」の最終戦であったととらへる。

百年といふ長さも世界史の中で「植民地の時代」から考へれば、滑稽な長さと思ふ者はいないだろう。
アジア・アフリカにおいてそれぞれの悲惨な「百年戦争」を戦わなかった国はなかった。

如何に絶望的な戦であったかは、一応の勝利を収めたのはエチオピア戦争と日露戦争だけだった事で解る。
日本は百年戦争を例外的に善戦したが、本当の意味で敵を退けた事は一度としてない。

この間に日本が見事「敵側」の一員になれたとしても、「世界」はそれを決して認めないし許さなかった。
昭和10年前後の欧米による日貨排撃を見ても、白人社会が如何に根強く白人以外を受け入れないかが解る。

林房雄が著書の中で述べる。『「東亜百年戦争」はそもそも始めから勝ち目のない抵抗である。しかも戦わなければならなかった。そして日本は勝った。何という「無謀な戦争」をわれわれは百年戦って来たことか!』

百年戦争の始まりは、英国艦隊による薩摩砲撃「薩英戦争」であり、この翌年の「馬関戦争」である。
二つの「日本史」上の出来事に、われわれは「世界史」に出てくる欧州諸国の姿を見る事ができる。

それはほんの数十年前に印度人達を大砲につめて吹き飛ばした人々の姿である。
清の人々に麻薬を売りつける事を「国家事業」としてきた人々の姿である。
その血塗れの刀を突き付けられとところに「攘夷」の声も起こり「開国」と「文明開化」の必要も生じたのである。

攘夷と文明開化とは相反する主義主張ではなく「東漸する西力」の脅威への認識であった。
この一事の中に「東亜百年戦争」といふ悲劇の本質がすべて含まれている。

以上「からごころ」長谷川三代子著より

続いて「頂門の一針 6770号」より転載します。

【弊害通達廃止 防衛省の前例】    【阿比留瑠比の極言御免】 

 陸上自衛隊幹部らが集団で靖国神社に参拝したことが、部隊としての宗教施設参拝を禁じた昭和49年の事務次官通達に抵触するかどうか調べていた防衛省は、通達違反ではなかったと結論を出した。

 そもそも内閣法制局でもない防衛省が、「信教の自由」を定める憲法20条の解釈に踏み込むような通達を出す方が異例だろう。木原稔防衛相が1月30日の記者会見で、通達改正に言及したのも当然だといえる。 

[安易に自由制限]

 「およそ30年前に策定された非常に古いもので、それ以降、信教の自由や政教分離についての判例もいくつか出ている。そういった積み重ねも踏まえ、必要に応じて改正を行うべきだ」

 この件に関しては、小沢慶太記者が1月27日の本紙政治面で「自由意思による参拝をも委縮させるような通達はむしろ廃止すべきではないか」と書いていた。

 また、31日の正論蘭では岩田清文元陸上幕僚長が靖国参拝する自衛官の思いについて、「共通して、いざという時は身をもって国防の責任を果たすとの強い思いが根底にある」と指摘するほか、こんな自身の心情も吐露していた。

「我々(われわれ)自衛官と同じ『国のために命を懸ける』との志を持たれていた先人が祀(まつ)られる靖国に自分の死後もありたいと思っていた」

 こうした「思想・良心の自由」(憲法19条)に基づく慣習的行為すら、安易に制限を加えようとする発想の方がよほど危険である。

 それでも朝日新聞は30日の社説「靖国参拝 組織性は否定できない」で、こう書いていた。

 「旧軍との『断絶』をどう考えているのか。疑問を持たざるを得ない」

「航空安全祈願がなぜ靖国神社でなければいけないのかもよくわからない」

 「戦後、平和憲法の下で再出発した自衛隊に、歴史への反省を疑わせるような振る舞いがあってはならない」

 朝日の理屈でいえば、戦後に連合国軍総司令部(GHQ)に新憲法をもらって再出発した日本は、戦前の日本とは「断絶」しているのだから、朝日が好んで追及する戦争責任も問えないことにならないか。なぜ靖国かが本当に分からないのなら、岩田氏に取材してみたらいかがか。

[猛反発の「言論統制」]

 ともあれ、小沢記者の通達廃止の提言に付言すれば、防衛省の事務次官通達の中には11年前に廃止になったものもある。平成22年11月の民主党の菅直人政権時、防衛省が出した自衛隊行事での民間人による民主党政権批判を封じる通達がそれである。

 航空自衛隊の航空祭で、自衛隊を支援する民間団体の会長が「まだ自民党の内閣の方がまともだった。一刻も早く菅政権をぶっつぶして、自民党政権に戻しましょう」とあいさつしたことが「極めて不適切だ」として、参加を控えさせることも含めた政治的発言制限の通達を出したのだった。

 これには当然、自衛隊やOB組織、そして自民党などの野党側から「言論統制だ」と猛反発が起きた。翌23年2月に6野党が通達撤回要求で一致したのを受けて、菅政権側は3月に各部隊に行事での民間人あいさつの内容を提出するよう求めていた文書課長連絡を廃止した。

 そして政権交代し安倍晋三内閣となっていた25年2月、通達は廃止された。前例はあるのだから、木原氏には自衛隊を差別するかのような古びた通達については、改正であれ廃止であれ速やかに実行に移してもらいたい

(産経新聞論説委員兼政治部編集委員)
☆☆☆☆☆☆☆  松本市 久保田 康文   産経新聞令和6年2月1日号採録