■実は意外にプログレ



Artist : Roine Stolt

Title : Fantasia

Year : 1979


ロイネ・ストルトが22歳のときにリリースしたファースト・ソロアルバムです。

曲作りは勿論、ギター、キーボード、ベース、ドラムス、アレンジ、プロデュースと、既にこの頃からストルトは、マルチな才能をいかんなく発揮しています。


手元にあるのは、ボーナストラック3曲を追加して1992年にリリースされたストルトの手によるリマスターのスウェーデン盤CDですが、マーキーが日本盤(輸入盤国内仕様?)も出しているようです。このCDには、マーキーが日本の独占ディストリビューターになったと書かれています。

しかしその後30年間再発はされていません。


録音はストルトがカイパを辞めた頃*の197812月から19796月にかけて、カイパのリハーサルスタジオでTEAC8チャンネルテープレコーダーを使って、ホームレコーディング的に行われています。

*ストルトは79年5月のカイパライヴまで勤め上げて脱退

しかし特にベースギターの低音が非常に良く録れています。


カイパMats Lindberg(ベース)、Håkan Hultman(ドラム)、や現在もTFKに参加しているサムラのHans Bruniusson(パーカッション)、さらにPer Andreasson(キーボード)、Janne Åhman(ヴォーカル)らが参加しています。


このあと、当時まだ15歳だった弟のマイケル(ベース)、Håkan Hultman(ドラムス)、 Per Andreasson(キーボード) Hans Bruniusson Trettioåriga KrigetRobert Zima(ヴォーカル)らと「FANTASIA」という名前でストルトはバンドを結成して活動しています。


FANTASIAはスウェーデン国営放送のラジオコンサートをはじめ、いくつかのライブを行なっていますが、1982年頃に、脱退したPer AndreassonHans Bruniussonに代わって、ギターにThomas Arnesen(元Panta Rei)を迎え、よりギターポップなロックユニットになりました。


Din Cigarett」と「Ända Mot Ända」という曲でマイナーヒットを飛ばしたそうですが、大きなブレイクには至らなかったようです。

FANTASIA1983年まで多くのライブを行いましたが、レコード会社からのサポートが得られずに解散してしまいました。



ロイネ・ストルトはその後、1985年にアルバム『Behind The Walls』、1989年にアルバム『The Lonely Heartbeat』、更に「STOLT」というバンド名義でシングルを複数枚リリースしています。

このうち『The Lonely Heartbeat』のみがCD化されています。



さて内容ですが、バラエティに富んでおり、インスト曲が多めです。

当時流行りだったフュージョン風味の曲も何曲かありますが、後の作風を彷彿とさせる曲も収録されています。

そしてヴォーカルはすべてスウェーデン語で歌っています。


Track List

01. Nytt Blod(新しい血)

グルーヴ感のある明るいフュージョントラック。ストルトのギターも明るく鳴っています。

ストルトのヴォーカルがクレジットされていますが特徴ある彼の声はよく聞こえません。


02. Som Svalor Mot Skyn

(空を背景にしたツバメのように)

落ち着いた男女ヴォーカルの静かな曲。楽器はストルトが全部ひとりで演奏しています。


03. Samhällets Olycksbarn

(社会の不幸な子供たち)

冒頭のSEが後のTFKを彷彿とさせ、TFKサウンドの萌芽を感じさせる曲。


04. Dödens Ansikte(死の顔)

静かなマイナー調の導入部から始まるメロディアスなプログレ曲。最初期のTFKと共通するサウンドが色濃く匂います。

ストルトはギターのほかムーグソロも披露しています。


05. Café Caruso(カフェ・カルーソ)

静かな導入部から始まる、これもTFK的なインスト曲。

女声ヴォーカルがクレジットされていますがバッキングSEとして使われています。

ストルトはキーボードとアコギをプレイ。

チューブラーベルズの音も入っています。

エンディングは優しい音色です。


06. Continental Carneval

(コンチネンタルカーニバル)

グルーヴィーで当時流行ったフュージョン風味の軽快で明るいインスト曲。

まるで当時の日本のフュージョンバンドそっくりのサウンドです。


07. Silversurfaren(シルバーサーファー)

グルーヴ感あふれるベースリフで始まるインスト曲。

当時流行りのクラヴィネット・サウンドも。

ストルトのキーボードが主役ですが、ブルージーなギターソロもちょっぴり聞けます。


08. Grodballetten(カエルのバレエ)

ギターとドラムで幕を開けるシンフォニックなプログレインスト曲。

ストルトのエモーショナルなエレキギターソロが登場します。

中間部にアンドレアソンのシンセソロとブルニウソンのシロフォンのアクセントも。


09. Giganternas Kamp(巨人の戦い)

こちらもインスト曲。

ドラムとベース以外のキーボード、ギター、パーカッションはストルトの演奏です。

ボレロ風のリズムに乗ってストルトのスイープするギターが聞けます。

終盤はシンセとギターでストルトの「ひとりインタープレイ」も。

ハモンドとメロトロンの音もよい感じです。


10. Järnhästen(鉄の馬)

本編最後の曲もシンフォプログレのインスト曲。ストルトのキーボード、ギター、グロッケンの演奏にマッツのチューブラーベルズを追加。

現在のTFKよりむしろプログレ的です。


BonusTrack

11. Kinesmarknad(中国市場)

サックスから始まりますが、フュージョン的というよりは、むしろTFK的なスケール感があるインストアンサンブル。

ギターソロも聴けるのが嬉しい。


12. Mr. Evergreen

(ミスター・エヴァーグリーン)

ギターが主役のちょっぴりフュージョン味のインスト曲。

ブルニウソンのマレットが面白いアクセントを生んでいます。


13. Lejonhjärta(ライオンハート)

ギター、キーボード、ドラムス、パーカッション、ベース、ヴァイブス、すべてストルトが演奏するインスト曲です。

メロディアスなプログレサウンドの曲で、ギターももちろんよく聞こえます。

ドラマチックなエンディングも完璧です。

リメイクしてTFKのアルバムに入れて欲しいくらい良曲です。



ストルト目線で聴くと、自分は本作の少し前に出たカイパの『ソロ』(1978)より出来がよいアルバムだと思います。

本作リリースの後、ストルトが一度はポップな路線に行ったのが不思議なほど、意外にプログレ味の効いた魅力的なアルバムです。

TFKとストルトのギターのファンなら一聴の価値ありです。



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