■1998年イエス来日譚(後編)
(1998年12月)
本稿はフィクションであり、実在する人物や団体などとは多分関係ありません。
登場人物:
◉知人のイエスファン某A氏
○某A氏の友人でイエス好きな業界通某B氏
再構成、注釈と文責:yffcyeshead
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◉次の10日は全員オフだったんですか?
○そうですね。
僕はビリーと原宿に買い物に行きました。
11日はバンドは午後ホテルを出て川口に向かったはずです。
9日の渋公もそうでしたけど、11日の川口も当日SOLD OUTになって後ろまでびっしり埋まって驚きました。
8日9日はイエスがいいショウをやったので翌日売りが凄かったみたいですよ。
それにパンフレットもめちゃめちゃ売れていたみたいだし。
◉そうそう、パンフレットは「売り切れにつき自宅へ郵送」とか出てたじゃない。
凄かったね。
この日の演奏もよかったしね。
○川口も良かったですね。
◉川口は終わったあとはどうだったの?
○リリアホール内のベニューのカレーでしたね。
◉次の12日は移動日だったんでしょ?
○本当は移動日だったんですが、もうちょっと東京で遊びたいという話になって13日の移動になったんです。
夕方にビリーに夕食でも食べない?って電話したんですよ。そしたらOKだったので六本木の□ティーに行ったんです。
そしてビリーといろいろ話して。
◉何か面白い話は出た?
○いろんな話が出たんだけど、これまでのいきさつを言ってましたね。
「KTA」の後リックが抜けてイエスは解散状態だったんですよ。
そんなときにビリーに「KTA2」のプロデュースの話が来てそれを引き受けた。
そして作業をしていたらスタジオにジョンがやって来て二人であーでもない、こーでもないとやっていると、スティーヴがやって来た。
そしたらビリーを真ん中に挟んでジョンとスティーヴの会話が始まった。
それで「じゃあ、もう一度一緒にやればいいじゃないか」ということになったらしいんですよ。
その後クリスとビリーで進めていたクリスのソロアルバムを新たにイエス名義で出そうということに話が進んで、ジョン、クリス、スティーヴ、アラン、ビリーで再びイエスをやろうよってことになったらしいんですね。
◉なるほどね。
じゃあ「KTA」の後に一度イエスは切れていたわけだ。
ほかに自分のポジションの話はしていなかった?
○せっかく「OYE」は殆どビリーとクリスで作ったのに、ライブではビリーの見せ場はあまりないね、と言ったら、「それは気にしてないよ。僕はこれでいいんだよ。僕は基本的に裏方だし、このメンバーの中で目立とうという気はないんだ。バンドが上手く行けばいいんだよ」って言ってましたね。
◉偉い。良いバンドには絶対そういう奴が一人必要なんだよな。
○ビリーはね「僕は誰にくっつくわけでもなく、中立の立場でメンバー皆を立てて、それでライブの時はステージ袖でギターを弾いているんだけど、実は皆が出してきたアイデアを僕がまとめているんだよ。バンドをまとめることが僕の仕事なんだ」って言ってましたね。
ビリーのことは以前から知っているし、何でも話してくれるし、とてもいい奴なんです。
◉そうか、ビリーって本当にプロデューサータイプなんだな。
イエスみたいなわがままなバンドに一番必要な人間だね。
○最初このツアーが始まる時、スティーヴは「ロンリーハートは絶対に弾かない」と言っていたらしいんですよ。
そこでビリーがスティーヴに「せっかくバンドとして新しくスタートするんだからロンリーハートもやろうよ。スティーヴが弾きたくないパートは全部僕が弾くから。スティールギターでも何でもいいからスティーヴのパートを新しく作ったらそれでイエスの新しいバンドサウンドになるんじゃない?やればきっと楽しくなるよ」って言ったらしいんですよ。
最初はロンリーハートを毛嫌いしてほとんど弾いてなかったスティーヴもツアーをやっているうちにどんどん楽しくなってきて自分のパートを増やしていったらしいんですね。
◉ビリーは大人だね。
さて13日は名古屋のステージということになるのですが。
○13日は仕事で行けなかったんです。
でもバックステージ・マネージャーのボブ・ダラスが名古屋は滅茶苦茶良いショーだったと言ってましたよ。
それは惜しいことをしたと思いました。
◉じゃあ14日大阪で再度合流?
○そうですね。
大阪は最高に良かったですよ。
◉らしいね。
ところでジョンが大阪のMCで「2000年にまた来るよ」って言っていたらしいんだけど。
○言ってましたね。本当に来れるのかな。
◉もう次回作はプロデューサーにブルース・フェアバーンを迎えることが決まっているらしいじゃない。
1月から録音に入るとか。
○そう、ビリーがエンジニアをやるとか言ってましたね。
でも今の段階では確定的なことは何もわかりませんね。
◉14日のアフターはどうだったの。
○イゴールが突然「今日は最終日だからスタッフを労わなければならない」とか言い出して、誰から聞いてきたかわからないけど「□ッグ・アンド・□イッスルというところでパーティーやろう」ということになりました。
アイリッシュパブみたいな店なんですけど、みんなでそこに飲みに行ったんですよ。
そしたらその店でクリスがいきなりキレたんです。
◉えーっ!
○ツアーの最後にやっちゃいましたね。
クリスって低血圧でいつもケータリングのドリンクに薬を混ぜて飲んでいるんです。
そのドリンクって紙コップに入っているんですけど、それ持って店に入ったら店の女の子に「店内で紙コップは困りますので帰るまで預かるか、店のグラスに移します」って言われてそのドリンクを取り上げられたんですよ。
そしたらいきなりクリスが立ち上がって、「俺のドリンクを持っていくな!」って馬鹿でかい声で叫んで、もう完全にキレてましたね。
いきなり店内の会話はなくなってシーンとするし、店の女の子は泣くし、もうどうしようかなって感じでしたよ。
(当時のクリスの風貌は女の子じゃなくても恐ろしいからそりゃ泣きますわな)
◉そりゃどうも災難で。ご愁傷さま。
○そんなこんなでみんな疲れちゃって。
ジョンが先に帰ると言い出して一緒にタクシーに乗って「1月からレコーディングやるの?」って聞いたら「わかんないな。もう僕は歳を取りすぎちゃったから。老兵は死なず、ただ消え去るのみだよ」なんて言い出して。
どこまで本気かわからないけどそんなこと言ってましたよ。
◉ふーん。
○それでホテルに着いたらクルーがそこのバーで飲んでいるっていうのでジョンもそこで一緒に飲みだしたんです。
そのうちみんなも帰ってきて、またバーで合流しました。
そうしたらクリスがニコニコしながらやってきて「俺のドリンクを持っていくな」だって。
「そりゃーないだろう」ですよね(笑)
それとこの飲み会にはビリーとスティーヴは参加しなかったんですよ。
◉なんで?
○特にスティーヴは飲み会には全く参加しませんでしたね。
ベジタリアンで孤高の人っていう感じですよ。
◉石焼きステーキのときはスティーヴはどうしていたの?
○ひたすら野菜ばかり食べていたらしいですよ。
◉あれ、昔リック以外はみんなベジタリアンだと聞いていたけど。
スティーヴ以外はみんな肉食に戻っちゃったの?
○みんな戻ってますね。
でもスティーヴだけはいつも凛としてますよ。飲み物もオレンジかアップルジュースだし。本当に職人でマエストロという感じですね。
15日に皆は関空から帰国したんですけど、スティーヴだけは英国便が取れなくて一旦帰京して16日に成田から帰ったんです。
それで僕はスティーヴと一緒に東京に帰ったんです。
◉新幹線の中でスティーヴと語らったの?
○ええまあ。ソロアルバムのこととか色々楽しくお話しました。
9日渋谷と大阪のソロはすごく良くて感動したと言ったらとても喜んでくれました。
スティーヴは英国人らしいというか紳士という感じの優しい喋り方をするんですが、一方でちょっと神経質というか繊細な感じを言葉の端々に感じましたね。
だから僕も言葉を選んで喋りました。
そしてスティーヴが離日してすべて終了しました。
◉お疲れ様でした。
今日は時間を割いていただきありがとうございました。
次回もあればがんばってください。
○あればいいですね。
(了)