スティーヴ・ハウの自伝より


ウェットンが去った(クビになった)後、エイジアには日本公演(ASIA IN ASIA)が控えていました。
ジェフとカールの三人で、どう対処できるのか?バンドはどう進むことができるのか?と話し合っていると、ウェットンの代役にグレッグ・レイクを示唆されて(マネージャーのブライアン・レーンからの提案だと思われます)、どうなるかみてみようということになったそうです。
もしグレッグがうまくフィットすれば、そのまま後釜に据えればよい・・・と。

しかしグレッグの起用には様々な問題があったようです。まずグレッグはバンドに対して主に金銭面で法外に贅沢な要求をしてきたそうです。結局受け入れたのは、迫るスケジュールのプレッシャーに負けた対価だったとハウは言います。

次なる問題はグレッグに合わせてキーを変えなければならなかったことで、特にハウ自身が一番苦労したことを細かく語っています。

さらに新人を入れたばかりの日本公演が録音され、撮影され、MTVで全米に衛星回線で生中継されることには「鋼の神経」が必要だったと振り返っています。


約三週間のリハーサルを「ヤマハ・ミュージック・センター」(三重県志摩市の合歓の郷_現在のネム・リゾート_のこと)で行なった時に、ハウはグレッグのマナーに良い印象を持たなかったようです。「偉大なシンガー、ベーシスト、ギタリストだけど70年代のロック・スターの態度だった」と述べています。

歌詞を忘れて何度も演奏を中断させても、彼をサポートするテクニシャンにメモを書けとか、あれこれ色々指図する尊大な態度がハウの気に障ったみたいです。
(結局グレッグは歌詞を覚えきれず、本番では当時まだ珍しかったプロンプターを使ったのは周知のとおりです)

バンドのメンバーは皆怒っていたけどサバイバルのためには耐えたり、時々「他人の癖」を楽しまなければならなかったと語っています。
よほど腹に据えかねていたのでしょう。
抑えた表現ながらグレッグの傍若無人ぶりが伝わってきました。彼が存命だったら抑えた表現でも書けなかったかもしれませんね。



公演はこれまでのことを考慮すれば一応無難に終了して、ハウは帰国しました。
すると帰国後間もなくグレッグが夜中の1時に電話してきたと言います。
「日本公演は良かった!一緒に曲を書いて、アルバムを作ろうじゃないか」
(グレッグの無神経ぶりを語っているエピソードですね)

翌日三人で話をしたら、カールはグレッグをバンドに入れたことを明らかに後悔していたそうです。カールはもっと早く分かるべきだったけど、実際にグレッグは窮地を救ってくれた。しかし再考すべき時だったと述べています。


マネージメントを通じてジョン・ウェットンの復帰が浮上し、三人は喜んで同意し、次作「アストラ」制作の為のリハーサルをロンドンで開始します。
マネージメントのオフィスで開かれたミーティングまでの二週間は順調に進んだと言います。

ミーティングに現れたウェットンは、ややナーバスに「スティーヴ、俺はもうお前とは仕事はできない」と発言。ハウは既にウェットンがジェフ、カール、マネージメントと話をつけていたことを知ります。
(ウェットンの復帰をお膳立てしたブライアン・レーンが陰で糸を引いていたと考えるのが当然ですが、ハウは本書で彼への批判を書いていません)

ハウは「じゃあ、これが最後だね?わかった、グッドラック」と言って出たそうです。
これ以上トラブルに巻き込まれなくてむしろラッキーだと自分に言いきかせるしかなかったけど、結局離脱して正解だったと語っています。

結局最初のエイジアはハウにとって幸福に始まり、悪夢に終わってしまったことがよくわかりました。
この間にスティーヴ・モーズやアラン・ホールズワースと知り合ったことが慰めだったようです。


以上がスティーヴ・ハウの視点からの事の顛末です。ASIA IN ASIAのビデオがいつまで経ってもDVD化されないのはハウもウェットンも望まなかったせいでしょうか。
ウェットンもレイクも亡き今、ハウさえその気になれば、そろそろチャンスかもしれません。でもハウは今でも望んでいないかもしれませんね。

そして21世紀になって再結成されたオリジナル・エイジアにハウが復帰した経緯や心境も気になるところです。
しかし2006年に再結成エイジアの提案を受けた時のことは、「やりたいと思った」、「過去のことは水に流して前に進むのがコンセンサスだった」と肩透かしの記述しかなくて、拍子抜けでした。



この本にはABWH、ユニオン、メンバーチェンジ、クリスとの確執など生々しい話が沢山あって、ネタに困りません。
しかし暴露本ではないので、彼の記録(日記?)に基づく正確なデータやイエスでの活動、家族のこと、交友関係や食事や精神的なことなど話題が多岐にわたった半生記になっています。

ライターが書いた本ではないので久々に興味深く読むことができる本でした。
興味のある方には一読をお勧めします。
どこか日本語版を出してくれないかな。



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