前回は、営業成績ごとに区分した営業員のアクションの差異があることと、そのアクションを研究した論文を紹介しました。そして、営業力は科学できる!というメッセージを送らせていただきました。
今回は、営業力に欠かせない信頼関係構築の話題に入りたいと思います。
「ん?今更、信頼関係構築ですか。」と思った方がいるかもしれませんが、信頼関係構築が重要なのです。当たり前すぎて、忘れていたかもしれませんが、多くの企業が今や保有しているITシステムCustomer Relationship Management(CRM: 顧客関係管理)は重要なのです。
一般的には、営業員の方々は、目の前の契約を獲得することを念頭に、あるいは会社から指示されるから義務と捉えて、CRMを活用されていることが多いのではないでしょうか。このブログを読んだ後は、少し前向きに顧客関係を考えてもらえるならば、嬉しいです。
先達の研究を確認すると、営業活動には、信頼関係構築が非常に重要だと述べています。
例えば、山内(2016)は、営業活動において信頼関係を構築することが最も重要な活動の一つであり、B2Bビジネスにおいては、「企業に対する信頼」、「マーケティングに対する信頼」、「個人に対する信頼」が信頼関係を構成していると詳述しています。
Phillip & Armstrong(2014)は、企業間取引(B2B)では単発の取引ではなく、長期にわたる相互利益をもたらす関係の構築が重要視されると述べています。
黒岩・水越(2018)も、信頼関係が構築され維持されると、顧客は優先して信頼している企業の製品やサービスを購入し、継続的な取引になると指摘しています。
実際、B2Bアプリ企業で優秀な営業成績を納めてきた現役営業マン6社6名に、「良い営業成績を残すために、どれほど顧客との信頼関係構築が重要なのか」インタビューをしたところ、全員が信頼関係の重要性を認識しており、また営業活動の中で意識的に信頼関係を構築するよう努めているとの回答でした。
図表1:インタビュー回答者の営業成績
企業 |
回答者 |
過去の個人の営業成績 |
A社 |
I氏 |
5年連続110%以上成長 |
B社 |
J氏 |
6年連続110~130%目標達成(転職あり) |
C社 |
K氏 |
10年目標達成(転職あり) |
D社 |
L氏 |
10年 110~130%目標達成(転職あり) |
E社 |
M氏 |
10年連続目標達成+105%以上成長 |
F社 |
N氏 |
10年連続目標達成・継続成長(転職あり) |
一部の回答を抜粋すると、以下のようなコメントがありました。
- 特に初回訪問で信頼を得るようなアクションをしているが、契約後も、この関係構築ができるように工夫している
- 特にキーマンとの信頼関係が重要
- できない営業は一時的な契約を得られても、関係が構築できず、継続的な契約に繋がり難い
- 販売することが目的。手段として、信頼関係の構築をしている
- 営業サイクルの前半にこの関係構築ができるかできないかが、できる営業とそうではない営業で差が出る
全員が信頼関係構築を非常に重要視しており、意識して行動していることがわかります。
それでは、信頼関係構築がどのような実務的効果をもたらすのか見ていきましょう。
効果は4つあり、①意思決定期間の短縮、②リピートと顧客紹介、③取引の継続、④収益の向上です。
① 意思決定期間の短縮
商品購買の最終段階では、顧客は購買決定が本当に正しいのであろうかという再確認がはいり、その際に、以下3点が論点になると言われています。
• 製品への疑念:顧客の望む品質や機能を満たしているのか。営業マンや会社は誠実に購買後のフォローをしてくれるか
• 価格抵抗:商品の値打ちと価格が対応しているのか
• 顧客の現在の購買パターン:現在使用している商品の方が良いのではないか。使用する製品が変わると業務状況に大きな変化が起きるのではないか
以上3点の阻害要因は、売り手への信頼関係があれば、顧客の利益に反する行動を売り手は取らないだろうという期待感から解消しやすくなります。
② リピートと顧客紹介
顧客企業の方針、競合状況、商品の使用状況の変化は購買決定に影響を及ぼしますが、信頼が高まると対応が容易になると言われています。加えて、状況の変化をキャッチし、変化に応じた新しい提案が可能になり、新たな契約や既存製品の追加契約に繋げやすくなります。
さらに、信頼関係が構築されると、信頼関係の構築ができている顧客から新しい顧客を紹介してもらえる連鎖が起きます。
これは、顧客企業Aが顧客企業Bを紹介してくれるということもあれば、顧客企業A内で、異なる部署の新しいコンタクト先を介してもらえるということも同様です。
③ 取引の継続
マーケティングの考え方に、1:5の法則がありまずが、新規顧客との契約は、既存顧客との契約の5倍のコストがかかるということを表しています。営業も同様であり、既存顧客に取引を継続してもらうことはコスト節約につながります。
信頼関係を構築することは、長期的なロイヤリティを生み出し、既存顧客がある特定の売り手との継続取引を好む傾向にあります。
④ 収益の向上
信頼関係が構築された企業間では、売り手の収益性が高くなるという傾向にあります。長期的関係が構築されることから、顧客から安定的な収益を上げていくことができ、顧客は競合企業の商品やサービスを検討せず、優先して自社の製品やサービスを購入する傾向にあることに起因していると考えられます。
このように、信頼関係構築の効果は大きく、先にインタビューしたB2B型アプリ提供企業に勤める優秀な営業員は、これらの効果を獲得する行動をとっていると考えられます。
次回は、B2B型アプリ提供企業における、信頼関係構築の営業について、ご紹介します。
引用/参考文献:
PhilipKotler, Armstrong Gary. (2014). コトラーのマーケティング入門 第4版.
稲水伸行, 鏑木幸臣. (2018). データから見えてくる日本の営業. 一橋ビジネスレビュー,
36-49.
黒岩健一郎, 水越康介. (2018). マーケティングをつかむ. 千代田区: 株式会社有斐閣.
山内孝幸. (2011). 営業研究に関する一考察. 阪南論集 社会科学編.
山内孝幸. (2016). 営業における信頼概念に関する考察. 阪南論集 社会科学編 第51巻第 2 号, 26-32.
田村正紀. (1999). 機動営業力 スピード時代の市場戦略. 日本経済新聞社.
福田康隆. (2019). THE MODEL. 株式会社翔泳社.
余田拓郎, 首藤明敏. (2013). 実践B2Bマーケティング 法人営業成功の条件.
東洋経済新報社.