日中外交摩擦に異例にも沈黙を守る北朝鮮(辺真一) - エキスパート - Yahoo!ニュース

 

日中外交摩擦に異例にも沈黙を守る北朝鮮

 

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

 

 

 

金正恩総書記と習近平主席(朝鮮中央通信から)

 高市早苗首相の台湾有事に関する「一言」が日中の外交摩擦に発展しても韓国は日中等距離外交に徹している。仲裁するわけでもなく、完全に「高みの見物」だ。

 

 むしろ、中国が日本観光を規制したことによる反動で観光客の訪問先が韓国にシフトしたことで経済的には「漁夫の利」を得ているようだ。

 

 しかし、日中韓文化相会談に続いて年内に予定されていた日中韓首脳会談が流れ、来年1月開催の見通しも立たなくなったことから外交面ではその余波を深刻に受け止めているようだ。日中と足並みを揃え、北朝鮮に非核化を迫りたい韓国の外交構想に支障を来しているからである。

 

 その北朝鮮だが、奇妙なことに日中の外交紛争に沈黙を守り続けている。

 

 北朝鮮は中国とは半ば同盟関係にあり、9月初旬に「中国人民抗日戦争と世界反ファシズム戦争勝利80周年記念行事」に参加した金正恩(キム・ジョンウン)総書記は習近平主席との首脳会談の席で「我が国は今後も国家の主権と領土保全、発展利益を守るための中国共産党と中華人民共和国政府の立場と努力を全面的に変わることなく支持・声援する」と誓っていた。

 

 金総書記の発言どおりならば、北朝鮮は即刻、外務省スポークスマン談話や党機関紙「労働新聞」の論調を通じて高市首相を批判し、中国支持を表明しても不思議ではない。

 

 しかし、11月23日午後3時現在、この問題に関する北朝鮮独自の見解はゼロである。北朝鮮外務省のホームページにもこの件については全く触れていない。

 

 唯一、国営放送「朝鮮中央通信」だけが国際面にこれまで日中関連の記事を4本載せているが、どれも短く、中国外交部代弁人の談話の紹介に留めている。

 

 1本目は16日付の「中国外交部代弁人が日本に侵略歴史の反省を要求」の見出しの記事で、4本の中では比較的に長く11行あった。記事の中で「彼(中国代弁人)は少し前に日本の首相が台湾問題に関連して公然と挑発的な発言を行い、台湾海峡に対する武力介入可能性を暗示したことを問題視していた」と伝えていた。

 

 残りの3本は19日付の「中国外交部 日本の軍国主義復活を容認しない立場を強調」と題する記事と、20日付の「中国 日本の水産物輸入を禁止」の見出しの記事、それに21日付の「中国 日本は台湾問題で軽挙妄動しないよう要求」の3本で、8行、7行、7行と、いずれもベタ記事扱いになっている。

 

 こうした北朝鮮の対応は極めて異例である。

 

 それというのも4年前、バイデン米大統領(当時)が10月21日放送の米CNNの番組で

台湾が中国から攻撃された場合に「米国は台湾を守る責務がある」と語った時は

朴明浩(パク・ミョンホ)外務次官が翌日には

バイデン発言を批判する談話を発表していたからである。

 

 朴次官は「台湾の情勢は朝鮮半島の情勢と決して無関係ではない。

台湾問題に対する米国の無分別な干渉は朝鮮半島の危うい情勢緊張を一層促しかねない潜在的な危険性を内包している」として「我々は台湾問題に関連する米国の覇権主義的行為を朝鮮半島情勢との連関の中で覚醒を持って引き続き注視するであろう」と、米国に釘を刺していた。

 

 北朝鮮が今回、前回とは異なる対応をしている理由として考えられるのは

11月1日に韓国・慶州で行われた李在明(イ・ジェミョン)大統領との中韓首脳会談で

習近平主席が北朝鮮の非核化を議論したことへの「しっぺ返し」なのかもしれない。

北朝鮮は中韓首脳会談直前に朴明浩外務次官が声明を出して

「(北朝鮮の非核化は)数千回、数万回言っても決して実現できないバカげた夢だ」と

警告していたのに習主席は耳を貸さず、李大統領と北朝鮮の非核化についても話し合っていた。

 

 これは北朝鮮にとっては「背信行為」に等しい。

習主席が北京での金総書記との首脳会談で

「中朝は運命を共にし、互いに助け合う立派な隣であり、立派な友であり、立派な同志である。

中国の党と政府は伝統的な中朝友好を高度に重視しており、中朝関係を立派に守り、

立派に強固にし、立派に発展させる用意がある」と述べていたからである。

 

 どのような理由、事情があるにせよ、北朝鮮が中国の支援に回らないことは

日本にとっては好ましいことだが、

中朝間に「中朝友好協力及び相互援助」に関する条約があることは周知の事実である。

 

 その条約第2条には「一方が、第三国の国家又は国家連合から武力侵攻を受けて戦争状態になった場合、

もう一方は力を尽くして速やかに軍事的援助及びその他の援助を提供する」ことが謳われている。

従って、北朝鮮が「露朝包括的戦略パートナーシップ条約」に基づき

ロシアに派兵したように中国と日米が軍事衝突すれば

中国を側面、後方支援することは十分にあり得る話である。

 

 従って、日本が日米安保条約及び集団自衛権と

存立危機事態を盾に台湾有事に介入すれば、必然的に中国だけでなく、

北朝鮮とも日本海を挟んで交戦するリスクは極めて高い。

 

 国民の生命と安全と財産を守るにはどうすべきか?

高市外交は今まさに正念場に立たされている。

 

 

辺真一

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊