【米国最新情報①】国民の大多数は「トランプ関税」を支持していない。関税問題が大統領の足を引っ張るか?(中岡望) - エキスパート - Yahoo!ニュース
【米国最新情報①】国民の大多数は「トランプ関税」を支持していない。関税問題が大統領の足を引っ張るか?
中岡望
ジャーナリスト
「トランプ関税」による輸入農産物の価格上昇が消費者を苦しませている。トランプ大統領も、農産物に対するトランプ関税を中止すると発表。中間選挙ではインフレが共和党とトランプ大統領の逆風になる可能性が強い(写真:ロイター/アフロ)
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■トランプ関税は物価上昇を引き起こしている/■大多数の国民は「トランプ関税」を支持せず/■最高裁で問われる「トランプ関税」の合法性
■トランプ関税は物価上昇を引き起こしている
「トランプ関税」が始まってから9カ月経つ。関税引上げに伴う国内物価の上昇の影響が顕在化してきている。研究所の「タックス・ファンデーション」が11月11日に発表した調査報告「Trump Tariffs: Tracking the Economic Impact of the Trump Trade War」によれば、トランプ関税によって、2025 年に米国の平均世帯に1,200ドル、2026 年に 1,600 ドルの増税に相当する負担増を招く。同報告は「2025年11月17日時点で全輸入品に対する加重平均適用関税率は17.6% に上昇し、実効平均関税率は12.5% となる。これは1941年以来の最高水準である」と指摘している。
関税は輸入業者が政府に支払い、一部は価格転嫁され、一部は輸入業者が負担する。輸出業者が負担するものではない。関税による価格上昇分は、輸入業者が販売価格に転嫁し、最終的に国民が負担することになる。言い換えれば、関税引上げは国民にとって「増税」なのである。「トランプ関税」は、GDP比で0.52%(2025 年)の増税に相当し、1993年以来最大の増税になる。
トランプ政権が課した関税は、今後10年間で従来の計算方式で単純に計算すれば2.3 兆ドルの歳入を生み出す。同時に関税引上げはアメリカのGDPを0.6%押し下げると予測されており、経済への悪影響を考慮すると、関税による歳入は最終的に1.8 兆ドルに留まる。トランプ大統領は「関税収入を使って国民に“配当”を支払う」あるいは「国債を返済する」といった構想を示唆している。ただ、大統領が勝手に歳出を決める権限はない。単なる政治的な発言であり、もっと言えば思い付きにすぎない。彼は、常に根拠のない思い付きをいうので、用心して聞く必要がある。関税収入は連邦政府歳入の約2.7%にすぎず、所得税の代替や大規模な国民給付をすることは不可能である。
「トランプ関税」の物価に与える影響に関して、セントルイス連銀は、6月から8月の実際のインフレ率は2.86%であったが、「トランプ関税」のない場合は2.35%であったと推計している。エネルギー価格や食料価格の変動を除いたコアインフレ率は2.90%であったが、「トランプ関税」のない場合は2.49%に留まっていたと推計している。この推計結果に関してセントルイス連銀は「最近のインフレにおいて関税が意味のある影響があったことを示している。2025年6月から8月の期間において、トランプ関税はインフレの年率上昇の分の約0.5ポイント、およびコアインフレの約0.4ポイントを引き上げた」と説明している。
これは大きな比率には見えないが、多くのアメリカ人が購入する輸入品の価格は大きく上昇しており、日常感覚とはやや異なっている。特に輸入農産物の価格上昇は消費者を直撃しており、トランプ政権は農産物に対するトランプ関税を廃止せざるを得なかった。ハーバード・ビジネス・スクールのアルベルト・カヴァロ教授の調査によると、「追跡している35万点の商品のうち、輸入品の価格は3月以降およそ5%上昇し、国内品は2.5%上昇している。しかし、価格を2024年の関税導入前のデフレ傾向と比較すると、影響はさらに大きくなる。輸入品は6.6%高く、国内品もほぼ3.8%高くなっている」と指摘している(10月24日、「U.S. trade tariffs are increasing prices」)。
トランプ関税には経済的合理性がなく、時間が経つとともに、矛盾が露呈してくるだろう。同時に来年の中間選挙に大きな影響を与えることは間違いない。
■大多数の国民は「トランプ関税」を支持せず
多くの国民が「トランプ関税」の実態にやっと気づき始めている。
エコノミスト/YouGovが11月17日に発表した調査結果が、そのことを物語っている。
国民の最大の関心はインフレであり、
2026年11月に実施される中間選挙の最大の焦点になる
ことは間違いない。
また、2020年の大統領選挙での
トランプ勝因の最大の理由は、インフレであった。
同調査は
「国民は一般的に外国との貿易に対して好意的な見方をしており、
多くの人が外国製品に対する関税引き上げには反対している。
トランプ大統領の関税引上げの結果、
国民の4分の3は物価が上がったと感じている」と指摘している。
貿易を増やすべきだという回答は42%、
減らすべきであるというのは11%であった。
27%は現状のままでよいと考えている。
これは国民の多くが、自由貿易を望んでいることを示していると言える。
過半数(55%)は、外国との貿易は国民にとって「かなり」または「やや」良い影響を与えると考えている。
悪い影響を与えていると考えているのは15%に過ぎない。
11%は影響がないと考えている。
関税に関しては、外国製品に対する関税引上げを望む国民はわずか13%に過ぎない。関税引き下げを望む人は47%、現状維持を望む人は24%である。こうした結果を見ると「トランプ関税」は、国民の支持を得ているとは思えない。
トランプ大統領の関税により、アメリカ人の4分の3近く(73%)は商品の価格が上昇したと回答している。そのうち「大幅に上がった」と答えた人は40%、「やや上がった」は33%であった。物価が上がったと答えた割合は、民主党支持者92%、無党派72%、共和党支持者56%である。トランプ大統領を圧倒的に支持している共和党支持者も「トランプ関税」の影響を受けている。
■最高裁で問われる「トランプ関税」の合法性
11月5日に最高裁は「トランプ関税」の合法性に関する口頭弁論を行い、トランプ大統領の関税権限に関する訴訟の審理を始めた。この訴訟の中心的な争点は、トランプ大統領が「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に基づいて広範な関税を課したことが、大統領権限の逸脱にあたるかどうかである。もし最高裁が「トランプ関税」は大統領権限を逸脱すると判断すれば、政府は徴収した関税を返還しなければならない。この問題に関して、国民はどう考えているのか。
YouGovの調査では、国民の多く(42%)は、最高裁は「トランプ関税」を合法と判断すると予想している。25%が違法と判断すると答えている。一方で、「トランプ関税」を廃止して欲しいと答えたのは49%で、維持してほしいと答えたのは33%であった。
最高裁の判決に関しては、関税廃止を望む人々の間では予想が分かれる。35%は、最高裁は関税を維持すると予想している。38%は廃止すると予想している。最高裁の判決予想は完全に割れている。関税維持を望む人のうちの67%は維持されると予想し、14%は廃止されると考えている。
最高裁が政治的な配慮をせず、法理論だけで判断すれば、「トランプ関税」に違法判決が下るだろう。ただ最高裁の9名の判事のうち6名が保守派で、うち3名はトランプ大統領が任命した判事である。合法との判決が下る可能性もある。それと判決の時期がいつになるかだ。最高裁の審理は10月から6月の期間に行われる。過去の例を見ると、多くの最重要裁判の判決は6月末に出ており、おそらく今回も同じ頃に出されると予想される。その結果は、中間選挙の結果を決める重要な要因のひとつになるだろう。
最近、トランプ大統領とトランプ大統領を支える
MAGAグループの間に亀裂が生じ始めている。
MAGAグループの中核である白人労働者は低所得層であり、
インフレ高進の影響を直接受ける。
時間が経ち、「トランプ関税」の影響がより顕在化してくれば、
「トランプ関税」がトランプ大統領の足を引っ張る
という皮肉な現象が見られるかもしれない。
ジャーナリスト
1971年国際基督教大学卒業、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、東洋経済新報社編集委員を経て、フリー・ジャーナリスト。アメリカの政治、経済、文化問題について執筆。80~81年のフルブライト・ジャーナリスト。ハーバード大学ケネディ政治大学院研究員、ハワイの東西センター・ジェファーソン・フェロー、ワシントン大学(セントルイス)客員教授。東洋英和女学院大教授、同副学長を経て現職。国際基督教大、日本女子大、武蔵大、成蹊大非常勤講師。アメリカ政治思想、日米経済論、マクロ経済、金融論を担当。著書に『アメリカ保守革命』(中央公論新社)など。contact:nakaoka@pep.ne.jp
