《イチからわかる》中国の“シーレーン”確保で日本の物流が揺らぐ?商社の「インテリジェンス」部門で30年活躍したプロが解説(東洋経済オンライン) - Yahoo!ニュース
中国の“シーレーン”確保で日本の物流が揺らぐ?商社の「インテリジェンス」部門で30年活躍したプロが解説
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これまで米国を中心に安定を保っていた世界の海に、中国が進出しつつある(写真 : Scharfsinn/PIXTA)
米国が孤立主義的な傾向を深め、同時に中国が勢力を拡大するなか、世界情勢は大きな岐路に立たされている。 大きな変化のひとつが「海」を巡る動きだ。中国は、南シナ海だけでなく、世界のあらゆる海で覇権を狙っている。 2025年10月に刊行された、世界の“これから”が対話形式でわかる最強の入門書『海外経験ゼロの私に、世界と経済をイチから教えてください!』より、一部を改変・抜粋してお届けする。
【写真で分かる】商社勤続30年、世界77カ国を巡ったプロと学ぶ、世界の“これから”がわかる「最強の入門書」
先生 トランプさんが米国の大統領にふたたび就任して以来、米国の同盟国の多くは、自分の国はもっと自分で守れ、ということで、防衛費の増額を強く求められています。
陽菜 それで日本の防衛費も急増しているのですね。他にも世界の軍事面で注目すべき変化はあるのでしょうか? 先生 中国や新興国の動きもあわせて考えると、非常に重要なことがあります。「シーレーン」の防衛です。 陽菜 シーレーン? 先生 国際貿易に使われる世界の主要な航路です。船舶が安全かつ効率的に航行できることが求められます。 陽菜 なるほど……。 この「シーレーン」と、米国の行動の変化、さらには世界の枠組みの変化はどう関係しているのですか?
■米国中心の“海の秩序”が揺らいでいる
先生 世界中のシーレーンを、守ってくれていたのが米国です。 米国は世界中の国々と貿易を行っているので、このシーレーンが脅威にさらされると、自国の経済に支障をきたすからです。その防衛のために、米国は最強の海軍を世界中に展開しています。これができるのは米国だけです。 陽菜 米国が守ってくれているのであれば安心ですよね。あっ、でもそうじゃなくなるってことですか?
先生 すぐに大きな変化が起こることはないかもしれませんが、トランプ関税のような自国第一主義の政策が強まれば、今後は米国が直接関わる貿易も減るかもしれません。 そうなると、米国が世界中のシーレーンを守る必要性も下がります。 陽菜 たしかに、自国に関係のないところまで守ることはなさそうです。 先生 一方、トランプ大統領は、パナマ運河を米国に寄こせとパナマ政府に強く要求しています。 やり方は乱暴すぎますが、これは、米国にとって最も重要なシーレーンであるパナマ運河の安全航行を確保しようという強い意志のあらわれです。
陽菜 なんだ、トランプ大統領も、シーレーンの安全を維持しようとしているじゃないですか。 先生 でも、注意してください。パナマ運河は米国に地理的に近く、太平洋と大西洋を結ぶ、米国にとっての最重要地点です。米国の地理的条件は非常に恵まれていますが、ここは数少ないアキレス腱の1つです。 陽菜 米国にとって、パナマ運河はただのシーレーンではない、と。 先生 そうです。例えば、日本のシーレーンにとっては重要な南シナ海での中国進出について、トランプ大統領はパナマ運河と同じくらい真剣に考えるでしょうか?
陽菜 うーん、どうでしょうか。少なくとも日本にとっては重要ですよね。 そうか、もしそうだとすれば、日本の近海は日本が自分で守れ、となることもあるということですね。 先生 その可能性はじゅうぶん想定できます。 先生 また、シーレーンは、米国のみならず世界中の国にとって重要です。特に、世界との貿易を拡大させている中国や新興国にとってはなおさらです。 陽菜 中国も世界中のシーレーンに影響力を高めようとしている、ということでしょうか?
■世界中で港湾の確保を進める中国
先生 はい。南シナ海はその代表例ですが、その他にも、世界中の港湾に中国系企業が出資を行い、そのネットワークを強化しています。
陽菜 港湾に出資? 何かよいことがあるのでしょうか?
先生 もちろん、出資ですから、その港湾の運営から収益が見込めます。 ただ、それ以上に重要なのは、その港の運営を仕切ることで、例えば中国関連の船舶を優先するなどして、中国という国全体の物流コストの削減や効率化を図ることができるということです。ネットワークが拡大すれば、その効果はさらに大きくなります。
陽菜 なるほど。出資している企業だけでなく、国として大きなメリットがあるのですね。
先生 いざというときには、中国船は通す、敵対国の船は通さないといったことで、相手の国の貿易にも影響を与えることもできます。 パナマ運河の出入り口にある複数の港にも中国系企業が出資していて、このことに対する危機感が、トランプ大統領の「パナマ運河を寄こせ」という発言につながったとも言われています。
陽菜 港湾って、誰でも自由に使えるもんだと思ってましたが、
どこが保有しているかも重要なんですね。
そして、この港湾ネットワークを中国は世界中に広げている、と。
先生 大きなところでは、
ギリシャ、スリランカ、パキスタン、ペルー、タイ、アフリカのジブチなどの港に中国系企業が出資しています。
オーストラリアの北部にあるダーウィン港も、
2015年に中国企業が地方政府から99年間のリース契約で運営権を取得しました。
オーストラリア政府は、安全保障上の観点から、中国側に契約の解除を求めていますが、中国側は当然反発しています。
陽菜 そうなんですね。中国の港湾ネットワークがこんなに広がっているとはまったく想像もしていませんでした。
もし米国が、周辺地域など、自国に関係するシーレーンだけに注力するようになれば、
中国にとってはますます、海外のネットワークを拡大するチャンスになりますね。
先生 中国も、自国から遠く離れたシーレーンを守れるほどの海軍力はありません。
遠くの海は中国系企業による港湾ネットワークで、
周辺の海は軍事力で、支配力を強めていくのだと思います。
陽菜 そうなると、何か起こった場合に、
日本の船がいつも使っているルートや港を急に使えなくなったりするのでしょうか?
先生 そのリスクは高まります。シーレーンを取り巻く状況が大きく変わると、
特にこれまでシーレーン防衛を米国に頼っていた日本などの同盟国は、大きな影響を受けます。
ビジネスの面でも、常に世界のどこでも安全に輸送できるという前提が崩れます。
そういった想定で、原材料や製品の調達や販売などの物流ルートを見直していく必要が出てくる可能性もあります。
陽菜 日本国内でも、物流って重要な問題と思ってましたが、
これが世界となると、さらにこんなに話が複雑になるんですね。
先生 シーレーンの安全確保を含め、日本の防衛には
米国の力が欠かせないという状況は大きく変わらないと思いますし、変えることも難しいです。
ただ、どこまで米国に依存するかなどについては、議論の余地は大きいと思います。
武居 秀典 :国際情勢アナリスト
