科学者が「不安」の正体を可視化...脳では一体何が起こっている? 治療への応用は?【最新研究】(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース

科学者が「不安」の正体を可視化...脳では一体何が起こっている? 治療への応用は?【最新研究】

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ニューズウィーク日本版

英ポーツマス大学は、脳波計を利用し、目に見えない不安を可視化した

不安は人類皆共通の感情だ hikrcn-shutterstock

これまで、不安とは、世界中で何百万人もの人々が日々経験しているが、「目に見える」ものではなかった。 【動画】正常な不安は?不安障害とは? しかし、英ポーツマス大学の科学者たちは、不安を可視化する脳スキャン技術を開発した。この技術は、不安の理解、診断、治療を改善することを目的としている。 従来の不安研究では「接近―回避型葛藤」、すなわち良い選択肢とあまり良くない選択肢を比較するような状況に焦点が当てられてきた。 しかし、今回の研究では、人が「勝ち目のない状況」、つまりどちらを選んでも悪い結果になるような二択に直面した際の葛藤、「回避―回避型葛藤」が、脳内でどのように不安を生じさせ、どのような経過をたどるのかをマッピングした。この不安は、より現実的な不安の状況を反映すると考えられている。

 

 

 論文著者で神経心理学者のベンジャミン・ストッカーは、

 

「不安は脳内でさまざまな形で現れる。

我々の研究は、どの選択肢もネガティブに感じられるような『勝ち目のない葛藤』に関わる状況に着目した。

この種の葛藤に対して脳がどう反応するのか、

リアルタイムで調べた最初の研究だ」と本誌に語った。

 

 「これまで誰も見たことがなかったような、不安に関わる複雑な意思決定が

脳内でどのように展開されるのか、初めて視覚的に捉えることができた」

勝ち目のない状況下では、脳に何が起こる?

この研究には18~24歳の若者40人が参加。

ジョイスティックを使って画面上の物体を避けるという、テレビゲーム形式の課題に取り組んだ。

 

課題には、比較的簡単に回避できる葛藤が少ないシーンと、

どちらを選んでも悪い結果になるような強い葛藤を惹起する難しいシーンが組み込まれていた。

 

 研究者たちは、脳波計を用いて参加者の脳活動を測定した。

「回避―回避型葛藤」の状況に脳波計を統合したのは、本研究が初だ。

 

 

 ストッカーは「脳波計は、痛みがなく非侵襲的でありながら、

脳の電気的活動を非常に効果的に記録できる手法である」と説明する。

実際の治療に使用するためには課題も

統計的に見ても結果は信頼性が高く、効果の大きさも一般的な基準を大きく上回っていた。

 

葛藤が弱い時と葛藤が強い時とでは、

脳の活動に明確な違いが現れていた。

 

 ストッカーは「現在の不安の診断や治療には時間がかかり、薬の処方も試行錯誤しながらということが多い。人によっては、どの治療も効かないこともある。

不安を伴う勝ち目のない状況で、

脳がどのように反応するかを理解すれば、

意思決定が困難になる根本的なパターンを特定できるようになる」と強調する。

 

 

 「脳のトレーニングや心理療法といった薬に頼らない新たなアプローチによって、不安が発生するパターンを狙い撃ちする道が開ける。例えば、ある人が自身の脳が不安のループに陥っていることを自覚し、不安が大きくなる前に対処できるよう訓練できるようになるかもしれない。このような新たな治療法は、脳波計と不安の神経的パターンを活用すれば実現可能だという好例だ」 一方、ストッカーは、個人差の考慮、技術やデバイスの信頼性の検証、そして脳の反応パターンがすべての人に明確に現れるとは限らないことなど、今後の課題も認めている。 実際、「今回の研究は、不安をより客観的に特定する方法に一歩近づくものだが、臨床的判断に代わるものにはならないだろう。診断を補助し、臨床医がすでに観察している所見を裏付ける『追加のツール』として最も有効に機能するだろう」とも述べている。 「しかし、脳の個人差を考慮に入れ、この問題に取り組むことを今後の研究で目指している」

今後の研究の行方は?

ストッカーによると、次のステップとして、不安を軽減する薬物の効果と今回の脳パターンとの照合を行い、より大規模で多様な集団に対して研究を実施する予定であるという。 「長期的には、こうしたパターンが確立されれば、どの治療法が最も効果的かを特定する助けになったり、治療がうまくいっているかどうかを追跡したりする手段にもなり得る。さらに、将来的には小型の脳波計が心療内科や行きつけの診療所などで使用され、不安のパターンを診断の裏付けとして活用できるようになる可能性もある」とストッカーは述べた。 「それが実現するにはまだ時間がかかる。しかし、この研究は、不安をより個別的かつ精密に理解・管理するための重要な一歩だ」 【参考文献】 Stocker, B., Moore, R., & Lockhart, T. (2025). EEG theta and alpha biomarkers during an avoid-avoid conflict task: Links to anxiety. International Journal of Psychophysiology, 215.

ハンナ・ミリントン

「勝ち目のない」状況下では、被験者の脳に特有の活動パターンが見られた。

脳の右前頭葉領域において「シータ波」と呼ばれる脳波の活動が高まることが確認されたのだ。

また、状況のストレス度や対処の難易度に応じて、他の脳領域も活性化したという。

 

 

 研究チームは、こうした脳波のパターンが、不安に関連する葛藤の証となる可能性があると考えている。 ストッカーは「不安の処理中にどの脳領域が働いているかだけでなく、それらの領域同士がどのように連携しているのかを明らかにすることができた。勝ち目のない状況の処理は、単一の脳領域だけで完結するものではなく、複数の領域が協調して取り組んでいるのだ」と述べた。

 

 

 

実際の治療に使用するためには課題も

統計的に見ても結果は信頼性が高く、効果の大きさも一般的な基準を大きく上回っていた。葛藤が弱い時と葛藤が強い時とでは、脳の活動に明確な違いが現れていた。 ストッカーは「現在の不安の診断や治療には時間がかかり、薬の処方も試行錯誤しながらということが多い。人によっては、どの治療も効かないこともある。不安を伴う勝ち目のない状況で、脳がどのように反応するかを理解すれば、意思決定が困難になる根本的なパターンを特定できるようになる」と強調する。 「脳のトレーニングや心理療法といった薬に頼らない新たなアプローチによって、不安が発生するパターンを狙い撃ちする道が開ける。例えば、ある人が自身の脳が不安のループに陥っていることを自覚し、不安が大きくなる前に対処できるよう訓練できるようになるかもしれない。このような新たな治療法は、脳波計と不安の神経的パターンを活用すれば実現可能だという好例だ」 一方、ストッカーは、個人差の考慮、技術やデバイスの信頼性の検証、そして脳の反応パターンがすべての人に明確に現れるとは限らないことなど、今後の課題も認めている。 実際、「今回の研究は、不安をより客観的に特定する方法に一歩近づくものだが、臨床的判断に代わるものにはならないだろう。診断を補助し、臨床医がすでに観察している所見を裏付ける『追加のツール』として最も有効に機能するだろう」とも述べている。 「しかし、脳の個人差を考慮に入れ、この問題に取り組むことを今後の研究で目指している」

今後の研究の行方は?

ストッカーによると、次のステップとして、不安を軽減する薬物の効果と今回の脳パターンとの照合を行い、より大規模で多様な集団に対して研究を実施する予定であるという。 「長期的には、こうしたパターンが確立されれば、どの治療法が最も効果的かを特定する助けになったり、治療がうまくいっているかどうかを追跡したりする手段にもなり得る。さらに、将来的には小型の脳波計が心療内科や行きつけの診療所などで使用され、不安のパターンを診断の裏付けとして活用できるようになる可能性もある」とストッカーは述べた。 「それが実現するにはまだ時間がかかる。しかし、この研究は、不安をより個別的かつ精密に理解・管理するための重要な一歩だ」 【参考文献】 Stocker, B., Moore, R., & Lockhart, T. (2025). EEG theta and alpha biomarkers during an avoid-avoid conflict task: Links to anxiety. International Journal of Psychophysiology, 215.

ハンナ・ミリントン

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