ドイツはもうおしまいだ…フォルクスワーゲンが国内工場を閉鎖した「真の原因」(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース

 

ドイツはもうおしまいだ…フォルクスワーゲンが国内工場を閉鎖した「真の原因」

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現代ビジネス

スイスの「脱・脱原発」

ドイツ、ファルクスワーゲンの工場閉鎖反対運動 by Gettyimages

世界の原子力政策が、今大きな転換を迎えている。 スイスは2017年の国民投票で、原子力発電所の新設禁止を可決し、原発新設禁止は国是となっていた。だが、今年の8月28日に、アルベルト・レシュティ・エネルギー大臣は、地政学的緊張が高まる中で、エネルギー供給を強化するためには原発政策に関して見直しが必要になると語った。歴史的な大転換である。 【写真】えっ、まさか…全米が驚愕!カマラ・ハリスの衝撃的すぎる「ドレス姿」…! ちなみに予定通りに原発を停止していくと、必要なエネルギー量を供給できなくなることを懸念して、スイス政府は原発の稼働期間を延長する計画を昨年11月に発表していた。 スイス政府は、今年末までに「脱・脱原発」方針の原子力関連法案改正提案書を議会に提出し、来年この問題を議会で議論できるようにするとのことだ。だから現段階では一気に原発新設に向かって動いたとは言えないが、脱原発の流れに終止符を打ったのは間違いない。 なお、レシュティ・エネルギー大臣は、政策転換を図らないのは、将来世代から裏切りだとみなされかねないとも語っている。 スウェーデンでも大きな動きが起こっている。 スウェーデンは1980年に脱原発を宣言した、いわば「脱原発の先進国」だった国だ。このスウェーデンでも2022年9月の総選挙で左派政権が敗北し、中道右派連合の新政権が発足したことがきっかけで、原子力政策が大きく転換した。 もちろんこの背景には、ロシアのウクライナ軍事侵攻に伴って、安全保障政策、エネルギー政策の抜本的見直しが必要になったということが、大きな影響を与えている。 選挙翌月の2022年10月には、原子力発電関係の様々な禁止・制限事項(新たな場所での原子炉建設を禁止する、閉鎖済み原子炉の再稼働を禁止する、同時に運転できる原子炉は10基までとする)を撤廃すると、スウェーデン政府は決定した。そのうえで、2026年までに最大4000億クローナ(約5兆6000億円)の投資を行い、新規原子力発電所の建設環境を整えていくと表明した。

 

 

イタリアが求める競争力のある電力料金

イタリアでも大きな動きが起こっている。 イタリアが脱原発を決めたのは、チェルノブイリ原発事故が起こった翌年の1987年の国民投票で、1990年までにはすべての原発を停止するというものだった。その段階からイタリアは原発の廃炉作業に着手しており、イタリアは原発が稼働していないだけでなく、「廃炉先進国」とも呼ばれてきた。 その後2011年にイタリア政府は原発再開の是非を問う国民投票を行ったが、この投票の直前に福島原発事故が発生したことが災いし、国民の94%が反対する中で、原発再開は否決された。 こうなってはイタリアでは原発復帰はもう望めないのではないかとも思われたが、ロシアのウクライナへの軍事侵攻によってエネルギーコストが急上昇したことに、イタリア国民も耐えられなくなったのだ。 こうした国民意識の変化を受けて、メローニ政権は2023年5月に原発の活用を検討する動議を下院に提出し、原発再開に向けた政府の計画案の策定に動き出した。 そして今年7月17日に環境エネルギー省のジルベルト・ピケット・フラティン長官によって、小型原子炉(SMR)への投資ができるようにする法律が国会に提出され、2050年までにエネルギー消費量全体の最低11%、できれば22%を原子力で満たせるようにしたいという方針が伝えられた。 フラティン長官は、「太陽光・風力のような再生可能エネルギー技術は我々に必要なエネルギー安全保障を提供できない」とし、「クリーンエネルギーの持続性を担保するには原子力に電力供給の一軸を担わせなければならない」ことを強調した。そのうえで、「最新の原発技術がさまざまなレベルの安全性を持ち、家計や企業に(安価な電力供給という)利益をもたらすことを考慮する場合、原発に対する歴史的に長い国民的懸念も克服することができると確信する」とも語っている。 そして7月23日には、イタリアはフランスとの間で原子力利用の推進協力に係る覚書を交わした。原子力大国のフランスの技術力を借りて、イタリアは国内の原子力を再構築する方針なのだ。 そしてこの合意には、一見すると場違いなイタリア鉄鋼連盟も深く関わっている。競争力のある電力価格でないと、鉄鋼産業自体が生き残れなくなることが、その背景にある。

 

 

 

 

続々転換される原発政策

ベルギーは2003年に脱原発関連法を制定し、2025年までに原発の運転を中断する予定だった。だが昨年6月に原子炉2基の寿命を延長することを決め、脱原発にストップをかけた。 さらにベルギーは国際原子力機関(IAEA)と「原子力エネルギー・サミット」を共同開催する動きにも出た。この「原子力エネルギー・サミット」において、化石燃料の使用の削減、エネルギー安全保障の強化、持続可能な開発の促進という世界的な課題に対処する上で、原子力が果たす重要な役割が強調された。 ここで示されたメッセージは世界に向けて発信されたものだが、原子力政策の転換を図っていく上でのベルギーの国内対策の意味合いも強いものだったとも言えるだろう。 文在寅政権時代に脱原発路線に舵を切った韓国も、尹錫悦政権が誕生してからこの路線を撤廃し、2030年に原子力で少なくとも総発電量の30%を賄う方針を打ち出した。イギリスも2050年までに原子力発電容量を現在の4倍の2400万キロワットに増やして、国内需要の1/4を賄う計画を示している。

フォルクスワーゲン工場閉鎖の原因は

こうした中で、今でも頑なな反原発姿勢を変えていないショルツ政権のドイツは、世界の中で遅れを取っていると言っても過言ではない。 当然ながら、高い電力代は家計ばかりでなく、企業にとっても大きな負担になる。ドイツの電力料金は、2023年下半期の場合、原発比重の高いフランスと比べると、家庭用で概ね55%、産業用では80%も高い。 製造業が国を支えてきたドイツでは、このエネルギーコストの高さは致命的で、国内の製造業の空洞化が進むのは避けようがないだろう。 現にこうした中でフォルクスワーゲンが国内工場の閉鎖を検討していることが報じられた。 フォルクスワーゲングループのオリバー・ブルーメCEOは「欧州の自動車業界は非常に厳しく深刻な状況にある」としたうえで、「経済環境の厳しさが増す中、新たな競合企業が欧州市場に参入している。特に製造拠点としてのドイツは競争力の面でさらなる遅れをとりつつある」と語った。 欧州市場に参入している新たな競合企業とは、安価な電力料金に支えられた中国に製造拠点を持つ、BYDなどの中国企業やテスラのことだろう。 フォルクスワーゲンのドイツ最大規模のウォルフスブルク工場も、すでに採算レベルを下回っていることが指摘されている。 工場閉鎖とコスト削減方針は、当然ながら労働組合との軋轢を深めることになる。 労働組合のIGメタルは、フォルクスワーゲンの業績不振はずさんな経営管理によるものだと批判し、雇用を守るために闘うと宣言した。 おそらくこうした労働組合は、これまで優等生的なリベラル政策を支持し、脱原発にも賛同してきたのだろうが、そんなあり方が自分たちの生活基盤を破壊することにつながっていることに、今更ながら気づくことになったのではないか。 フォルクスワーゲンに限らず、ドイツにおいては製造業の国外移転が進んでいくのは確実だが、この中で従来リベラル政策を支持してきた人たちの意識が大きく変わっていくことになるのかは、注目しておきたいところだ。

 

 

 

 

ドイツの矛盾、製造業空洞化は不可避

なお、現在下野している保守政党キリスト教民主同盟(CDU)は、5月6~8日にベルリンで党大会を開き、「ドイツは今のところ原子力を放棄することはできない」とし、「第4世代・第5世代の原子炉」はエネルギー安定供給のために維持すべきオプションとされた。

 

 

これにより、脱原発を決めたメルケル路線から完全に決別した。

 

 キリスト教民主同盟の現党首のメルツ氏は、ドイツの歴史と伝統を重んじ、移民に対しても厳しい態度を示す保守本流の政治家で、エネルギー政策についても現実主義に基づくべきだと考えている。

 

 ただ、ドイツの場合には原子力の復活にはすでに高いハードルが設置され、来年秋の総選挙でキリスト教民主同盟が地滑り的勝利を収めても、原子力回帰はなかなか難しいのではないかと見られている。

 

 そもそも稼働を停止した旧原発の再稼働ができないように、現在のショルツ政権は、原発の冷却塔を相次いで爆破することまでやっている。

 

 したがってドイツが仮に原子力回帰ができるとしても、

新原発の稼働は早く見積もっても10年後にならざるをえず、

その間は原発の生み出す安価な電力をドイツが利用することはできない。 

 

こうした中でドイツ製造業の空洞化が進む一方、データセンターなどの拠点がドイツに設置されていかないことも、もはや避けられないだろう。

朝香 豊(経済評論家)

 

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