【コラム】命令と統制のためにさらに悪化する北朝鮮経済
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北朝鮮指導部の最近発言からは経済状況の深刻性が如実にあらわれているが、政権の対応は状況をむしろ悪化させている。
今後10年間で毎年20カ所の工業工場を建設して地方経済を発展させるという「地方発展20×10政策」が代表的だ。今年1月、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は最高人民会議で「世紀的な落伍性を振り払い、中央と地方の格差を縮める」必要性があると演説した。 地方発展20×10政策は3つの問題がある。
第一に、経済条件ではない政治的命令で地方に工場を建設することはできない。一部の地域を除く多くの地方は、農業ならいざ知らず工場が入るような条件が整っていない。
第二に、複数の工場を同時に建設する資材や設備、人材が果たしてあるのかも疑問だ。2020年3月に建設に着手したが、まだ開院できていない平壌(ピョンヤン)総合病院の前轍を踏むのではないかと思う。
第三に、工場を建設しても効率的に工場を稼動できる原材料やエネルギーがあるのか分からない。大飢饉を招いた中国大躍進運動(1958~1962)のデジャブが見え隠れする。政策発表8カ月が過ぎた8月末に、金正恩は平安南道成川郡(ピョンアンナムド・ソンチョングン)と平安北道亀城市(ピョンアンブクド・クソンシ)を視察して大きな満足を表した。
しかし金正恩は、演説で軍が労働力を提供してはいるが20×10事業と農村住宅建設を同時に推進するのは難しいので、ひとまず工場に優先順位を置かなければならないと力説した。
地方住民たちはおそらく衝撃を受けただろう。北朝鮮の住宅不足は昨日今日のことではないが、金正恩が地方住民の安息の場所を用意する機会を木っ端微塵に吹き飛ばしたも同然だからだ。
このような状況であるにもかかわらず、金正恩は20×10政策をむしろ拡大するべきで、工場だけでなく現代的な病院に加えて今回新たに追加された科学技術普及拠点設立の重要性を持ち出した。
20×10政策の他にも北朝鮮政権は長らく市場が担ってきた住民食糧供給に対する統制権回復のために努力してきた。
2021年4月から市場でパンや麺の販売が禁止され、
2023年1月からコメやトウモロコシの販売も禁止された。
金正恩は8月の視察で地域ごとに穀物管理所の建設命令を改めて強調した。従来の施設補修のような消極的態度ではなく、新しい施設の建設を指示した。
北朝鮮政権は1990年代「苦難の行軍」以前に当局が食糧普及を主導して政治的力を握っていた時期に回帰することを願っているようだ。 だが、このような戦略には大きな落とし穴がある。
ロシアに対する行き過ぎた依存がそれだ。
集団農場の穀物をロシアから購入して、住民配給用食糧をロシア産として保存しているからだ。
だが、このような供給はウクライナ戦争が一旦終息すれば直ちに消えるだろう。
そうなれば北朝鮮政権は集団農場に対する穀物供給を維持することもできなくなり、食糧配給保存水準も否応なく落ちるだろう。
ウクライナ戦争の終息は思ったよりはやく突然やってくるかもしれない。
ロシアとウクライナが休戦協定を結ぶならの話だ。
北朝鮮の「金主(新興富裕層)」が敏感だといっても一日で供給ラインを一新することは無理だ。
したがって当局の穀物供給の中断とその後新しい市場が入るまで深刻な食糧不足が起きるはずだ。
専門家が指摘しているように、
北朝鮮の経済問題は
経済を自由化し、市場の自律に任せ、
外国人投資を誘致して工場を設立し、
これを通じて
最高の収益を追求する構造を通じてのみ
解決することができる。
全く経験のない新しい道でもない。過去、金正日(キム・ジョンイル)体制の北朝鮮で中国企業は織物工場など大規模雇用創出効果がある工場を設立して運営することができた。ここからもう一歩踏み込んで自由化のためには政治的統制をある程度あきらめるべきだが、金正恩体制では不可能そうだ。
北朝鮮政権は当局の命令と食糧供給統制権の確保を通した地方産業化を試みている。
だが、これは産業化とみるよりは統制権強化の試みだと判断するべきだ。
最近、金正恩の視察からも分かるように、創意的問題解決ではなく、
政権の一層強い過剰統制を通した問題解決を試みようとしている。
結果が良いはずがない。
これによる被害は、結局、そのまま北朝鮮住民がかぶることになるだろう。
ジョン・エバラード/元平壌駐在英国大使
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