ウクライナはなぜロシアに侵攻し、イスラエルはなぜイラン国内で暗殺を行ったのか...ゼレンスキー大統領とネタニヤフ首相の「危険な賭け」の「恐るべき真意」(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース
ウクライナはなぜロシアに侵攻し、イスラエルはなぜイラン国内で暗殺を行ったのか...ゼレンスキー大統領とネタニヤフ首相の「危険な賭け」の「恐るべき真意」
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ガザ地区でのハマス掃討作戦を継続しているイスラエルのネタニヤフ首相と、ロシアによる侵略戦争に対抗しているウクライナのゼレンスキー大統領は、ここへきて、いよいよ危険な賭けに出たと見られる。それは、イスラエルはイランに対して、ウクライナはロシアに対して、ともに相手国が許容できないような軍事的挑発行動を発起した、という点においてである。 【写真】大胆な水着姿に全米騒然…トランプ前大統領の「娘の美貌」がヤバすぎる! この両首脳は、なぜこのような行動を起こしたのであろうか。 そこにはある戦略的な共通点があり、今後の世界情勢を左右すると憂慮される極めて危険な要素が内包されている。 両首脳の戦略はいかなるもので、今後どのように推移するのか、われわれは注意深くこれを見極めなければならない。
ネタニヤフ首相の狙い
イランは、自国内でハマスの最高幹部であるハニヤ政治局長が殺害されたことに関連し、イスラエルへの報復を宣言。ここ数日内にもこれが実行されるとの報道が伝えられている。イスラエル側は認めていないが、イランはこのハニヤ政治局長に対する攻撃はイスラエルによるものと断定しており、おそらくそれは事実であろう。イスラエルは、なぜイラン国内でこのような作戦を行ったのか。 ネタニヤフ首相は、イラン新大統領の宣誓式に招かれていたハマスの最高幹部に対してこのような行動を採れば、面子をつぶされたイランの最高指導者がどのような反応をするかは百も承知していたと思われる。したがって、イランのこのような報復宣言はイスラエルの予想通りであり、イランによるイスラエルへの軍事行動も想定内のことであろう。要するに、イランにこのような行動を起こさせるために実行した作戦行動だったと考えられる。 なぜならば、これは、イスラエルがイランを巻き込んで中東における戦火を拡大させることを狙って仕掛けられたものであり、ネタニヤフ首相は第5次中東戦争への発展も覚悟している可能性がある。仮に、このような事態になれば、米国やNATO(の少なくとも一部)の介入はもはや避けられない事態になるであろう。同首相はここを視野に入れている。 一方で、ネタニヤフ首相は、イランも米国もこのような事態は避けたいとの思惑では一致しているであろうと見越していると思われ、このような情勢判断がイランとのチキンレースを展開させるという強気の姿勢につながっているものと見られる。そして、その先には、結果的にイスラエルに有利な形での停戦につなげられるとの目算もあるのだろう。
ウクライナの奇襲攻撃
ウクライナは、8月6日にロシア西部のクルスク州に対して奇襲の越境攻撃を開始し、15日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナ軍がロシア・クルスク州の町スジャを制圧したと発表した。また、本作戦を指揮するシルスキー総司令官は、同軍はロシア軍の防衛網を破って35km前進し、82集落を制圧。面積にして(東京都の面積の半分以上に相当する)1150平方kmの地域を支配下に置き、スジャにはウクライナ軍の司令部を設置したと明らかにした。 また、14日のロシアなどの報道によると、クルスク州などロシア国内の8つの州においてウクライナ軍の無人機攻撃があった模様であり、ロシア独立系メディア、アストラによると、南部ボロネジ州の軍用飛行場で火災が発生したほか、ソーシャルメディアの報道では、ウクライナ国境から650km離れたロシア西部ニジェゴロド州サワスレイカの空軍基地にも攻撃があったとされている。 これらの奇襲攻撃は、ロシアのプーチン大統領にとって想定外の事態であったと見られ、6日のクルスク州に対する奇襲攻撃に対してプーチン大統領は、「大規模な挑発行為だ」として、「相応の報復を受けることになるだろう」と述べた。また、12日には、ウクライナ軍による越境攻撃で12万人以上のロシア人が避難したとの報告を受けて、プーチン大統領は、領内に侵入したウクライナ軍をすべて「駆逐」するよう軍に命じた。 しかし、現在までロシア軍は、ウクライナ領内に侵攻している部隊を一部転進させてクルスク州に進入しているウクライナ軍の掃討作戦を試みているようだが、作戦は思うようにはかどってはいないと見られ、ウクライナ軍はさらに前進を続けている模様である。
「核の脅しを含む」ロシアの対応
このような中、11日には、ロシアが占拠しているウクライナ南部のザポリージャ原発で火災が発生した。これは、「場合によっては同原発を破壊することも辞さない」ことを暗示した、ロシアによる示威行動と思われ、ある意味での「核の脅し」ともいえよう。 もとより、ロシアは本年5月にウクライナに隣接する南部軍管区においてベラルーシも交えて戦術核兵器の使用を想定した演習を実施しており、その際、ロシア国防省は、「非戦略的核兵器の戦闘に向けて、関係する部隊と装備の即応態勢を整える目的で実施した」と発表し、今後の戦況次第では、戦術核の使用も辞さない姿勢を露わにした。 この演習後の5月31日には、ロシアの前大統領で安全保障会議副議長のメドベージェフ氏が、プーチン大統領の思いを代弁する形で、ロシアがウクライナに対して戦術核兵器を使用する可能性に言及したのは脅しではないと述べ、米国を始めとするNATO諸国をけん制している。
ゼレンスキー大統領の狙い
結果的に、今回のウクライナの奇襲作戦は成功した形となり、プーチン大統領はイランと同様にメンツをつぶされた形となった。
これによって、兵力の増強のため、さらにロシア国内で大幅な兵力の動員が求められるようになれば、プーチン大統領に対する国民の不信感や不満が一気に膨れ上がり、その立場が危うくなりかねない。
今回のウクライナによるロシア侵攻後の8月11日に行われた、ロシアの主要な世論調査機関である「世論調査財団」の調査によると、ロシア当局(軍や治安機関)の対応に「憤りを感じた」と回答した人は7月28日に18%だったのが25%に増加した。これは、23年6月に民間軍事会社「ワグネル」を率いてプリゴジン氏が反乱を起こした直後の26%に次ぐ高さである。
また不安が広がっていると答えた人の割合も、ウクライナによる侵攻前から侵攻後の1週間で39%から45%に増加したとのことである。
ロシアの軍事ドクトリンでは、核などの大量破壊兵器で攻撃された事態のほか、たとえ他国による通常兵器による攻撃であっても、ロシアが「国家存続の危機」に立たされた場合、核攻撃を行う権利があると規定しているが、
プーチン大統領は、この戦争によって自らの政権存続が危うくなれば、少なくとも戦術核を使用する可能性はあるだろう。
そうなれば、米国やNATOの介入は避けられない事態となる。
ゼレンスキー大統領は、イスラエルのネタニヤフ首相と同様に、これを視野に入れている。
そして、このような事態を何としても避けようとする、米国はじめNATO諸国に揺さぶりをかけることを意図して、彼らの支援離れやウクライナが不利な形での停戦が進められることの無いように、ロシア領土の一部に侵攻するというプーチン大統領への挑発行動に踏み切り、新たなカードを手に入れようとしているのであろう。
カギを握る11月米大統領選の行方
イスラエルのネタニヤフ首相も、ウクライナのゼレンスキー大統領も、共通して意識しているのは、米国をしっかりとこの二つの戦争から逃れないように自国に惹き付けておくということであろう。しかし、これは一歩間違えば、これらの戦争に米国が巻き込まれるということでもある。これは極めて危険なことである。 二人は、11月に行われる米大統領選挙も見据えているに違いない。 共和党の大統領候補者であるトランプ氏は、自分が大統領になれば、この二つの戦争は「必ず終わらせる」と公言している。しかし、それはウクライナにとっては、決して望まない形によるものかもしれない。 民主党の大統領候補者であるハリス氏は、7月に米国を訪問したネタニヤフ首相に対して、「この戦争を早期に収束させるよう迫った」とされ、会談後の記者会見では、ガザで起きている苦難に「沈黙するつもりはない」と述べている。 これら次期米大統領候補の言動が、今回のような両国による挑発行為の引き金になっている可能性もある。 挑発されたイランとロシアは、今後どのような対応をとってくるだろう。それによっては、米国も極めて深刻な判断を迫られる可能性がある。 未だ、情勢は流動的である。今後の推移を注意深く見守りたい。
鈴木 衛士(元航空自衛隊情報幹部)
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