日本語の起源と古代日本語

 

 

 

日本語の起源と古代日本語

2015/3/31 京都大学文学研究科(編)

2012年12月9日に開催された、京都大学文学研究科・文学部公開講演会
「日本語の起源と古代日本語」に基づく。
日本語は、系統関係の不明確な言語といわれている。
しかし国語学、比較言語学の専門研究者は、文法構造や音韻の比較から、
日本語を様々な言語や語族と関連づけようとしてきた。
日本語は、日本人はどこから来たのか。
そのルーツはどこにあるのか。
本書はこれまでの起源論を整理し、
新しい起源論の可能性を探ってゆく環境を整えることを目的とした、
日本語の起源に関する最新の研究成果である。

【目次】
序文(服部良久)

第1章 日本語起源論の整理(木田章義)
はじめに/
1 日本語の起源論争/
2 朝鮮語と日本語/3 アルタイ語/4 音韻対応以外の要素/5 モンゴル語と日本語/6 タミル語と日本語/
7 その他の言語との比較:(1)南島語/(2)ツングース語/(3)チベット語/(4)アイヌ語/
8 統計学的研究/9 類型学と遺伝学/
10 日本語の変化の速度
コラム 印欧語族/上代特殊仮名遣/アルタイ語族

第2章 私の日本語系統論――言語類型地理論から遺伝子系統地理論へ――(松本克己)
はじめに/1 類型地理論から探る言語の遠い親族関係/2 人称代名詞から導かれた世界言語の系統分類/3 言語の系統とその遺伝子的背景/4 東アジア諸集団におけるY染色体遺伝子系統の分布/5 太平洋沿岸系集団の環日本海域への到来時期
松本克己先生の「私の日本語系統論」に対するコメント(吉田和彦)

第3章 古代日本語動詞の歴史的動向から推測される先史日本語(釘貫 亨)
はじめに/1 動詞から動詞を作り、多くの要素から動詞を作る/2 動詞から形容詞を作る/3 動詞の形を変えずに形容詞を作る―動詞の形容詞的用法―/4 古代語動詞増殖と音声の関係/5 有坂法則とは何か/
6 古代日本語の歴史的変遷から推測される先史日本語

第4章 古代日本語のうつりかわり――読むことと書くこと――(大槻 信)
はじめに/1 読むこと/2 訓読と訓点/3 読むことと書くこと/4 書くこと/
5 和文体の成立/6 和漢混淆文/7 おわりに
 
==或る書評より
 手元にある『言語生活』326号(1979・2 筑摩書房)
 
対談 日本語系統論の問題点等を読み直させてくれたという意味で、勉強になった。問題点が多すぎて、どこから手を付けて良いやら方向性が見えない(この理由は、史前日本語の資料が殆ないから)。系統論からは、京都大をもってしても失格、空振りと言わざるを得ない。
 
以下、減点ポイント。
 ①第一章(表1)の起源論争は、アストンは解ったが、他は不親切。レプチャ語の安田徳太郎を欠いたのは失当。なぜなら、大野タミル語説と安田レプチャ語説(確かに言語学の学部学力の基礎もない安田の説明方法は私から見てもデタラメだが)は、南部と北部の違いだけだからだ。日本語をオーストロネシア系とアルタイ系との「混合物」と特徴づけた、ソ連モスクワ大のポレワーノフ説も丁寧に説明・整理して欲しかった。再出発とは言うが、もつれた糸を整理できてはいない(『言語』2001・2別冊 言語の20世紀101人 ポリワノフ(三谷恵子)参照)。ちゃんと整理してやった。後はネットで調べろでは、不親切極まりない。
 ②コラム、特に上代特殊仮名遣の整理は、系統論からすれば大問題だ。
 
 
上記『言語』別冊◆20世紀の言語学論争「上代日本語の母音の数」論争p108~p109(毛利正守)では、東京帝大の橋本進吉の8母音説に始まって、松本克己の母音三角形の構造からの5母音説、森重敏の乙類i「音節緊締」説(5母音)、服部四郎の6母音説、その後の森博達7母音説等の解説の方が解りやすい。松本説や服部説が、母音の数の不変・変化の期間を、千年単位で考えるのか、2千年単位または1万年単位で考えるのか?丁寧に説明して欲しかった。母音の数は系統論とは無関係とでも言いたいのか。

 ③akademic term(学術用語)の使用例の多さは、国語国文学専修の学生・院生にとってはウンザリだが、これは従来の言語学科と国語国文(日本語学)学科が縦割りのためで、執筆者の本田教授や松本先生の責任ではない。
 
尚、2章の執筆者松本克己は、論争5母音説の松本と同一人物。シカシ、多すぎる。その中で気になったのが、第3章 釘貫 亨の用語「先史日本語」だ。『時代別 国語大辞典 上代編』(1967・12 三省堂)では、6世紀以前の日本語を史前日本語(あるいは原始日本語)と言い、七世紀初頭から八世紀末に於ける日本語を上代語と定義している。福田良輔・北条忠雄も史前日本語といっているから、釘貫が置き換えたと推測するが、akademic termの置き換えは注記が必要だろう。
 

 ④話の長さが1万年単位で、日本列島が大陸と陸続きだった2万年・2,5万年前にさかのぼるのは(最終最大氷河期の民族の大移動の諸問題は、有益な本書を読んで、安田徳太郎のレプチャ語由来説の決定的な間違いを指摘するサイトにもたどりつけた。)、様々な民族移動モデルから複数(少なくとも3つ以上)の、かつ多層の言語の衝突が予想されるが、やはり具体的な研究の方向性は、見えてこない。
 
 
3章の釘貫論では、
8世紀上代語から9世紀京都中央語に移行する過程で、変化が起こった理由を、
奈良中央語(上代語)に内在した音韻体系の特徴を炙り出して
目から鱗が落ちるように見事に説明しているが、
では、甲乙表記違いが多数みられる万葉集巻十四東歌では、
子音・母音を含めてどのような音韻体系としてとらえるべきか。
 
先史日本語(この用語のイメージは、1万年単位以上と私は受け止めたが、)の特徴は
東国や東北地方まで及ぶと考えるのか?
直接聞きたいほどである。
 
初めの第1章に戻るが、
なぜアイヌ語起源説なのか?なぜタミル語説なのか?
なぜアルタイ語なのか?なぜ南島語説なのか?等、
各言語の変化と変化前の残存部分を、二者間の言語を比較しただけで
どうやって区別できるというのか
いつの時期のことを言っているのか?
 
 月はなぜ月になったのか?
(原始地球に地球外天体が衝突し、衝突のエネルギーと万有引力の法則で、
月は一方向だけを向いて地球の周りを公転し始めたモデルはNHKのBSでみた)。