フランス人記者が感じる「ひらがな」のすごさとは? 日仏の小学校の「国語の授業」の違い(AERA with Kids+) - Yahoo!ニュース

 

フランス人記者が感じる「ひらがな」のすごさとは? 日仏の小学校の「国語の授業」の違い

配信

AERA with Kids+

写真はイメージ(GettyImages)

 日本で2人の息子を育てるフランス人記者の西村カリンさんは、子どもを日本の公立小学校の学校公開に参加して、驚いたことがたくさんあったといいます。また、日本とフランスの小学1年生の科目で特に大きな違いを感じたのは「国語」、つまり日本語とフランス語の授業だそうです。西村カリンさんの著書『フランス人記者、日本の学校に驚く』(大和書房)からお届けします。 

 

 

【写真】意外!ノルウェーの食卓の「定番」はこのカンタン食材

 

■学校公開で驚いた! 全クラスが同じペースで進む

 

  日本の学校公開のシステムはすばらしい。その数日間に何度も足を運べるし、自分の子のクラスだけでなく、ほかのクラスを見に行くこともできる。ふだん学校で子どもがどのように勉強しているか、どの場所に座っているか、友達はどこにいるか、クラス全体の様子はどうか、先生はどんな授業をしているか。これらを間近に見ることができる貴重な機会だ。  息子のクラスでは担任の先生がおもしろい授業をしていた。そこで、1年生のすべてのクラスを見学してみた。すると、ある現象に気がついた。どのクラスもまったく同じペースで進んでいたのだ。全クラスが5分の差もなく、同じ内容、同じタイミングで授業をしている(最近は例外もあるそうだが)。1学年に4クラスあったら、1クラスを5分見て、次のクラスを5分見たら、ストーリーがつながるといった具合だ。

 

  わたしが見たのは算数の授業だった。黒板に書いてあった引き算の例も解決する方法も、全クラスまったく同じ。教科書の開いたページも同じだ。先生は変わっても、学ぶ内容は変わらない。先生の態度や言葉には違いがあるものの、同じ授業を受けられるのだ。おそらく先生たちの間で「同じペースでやりましょう」と相談しているわけじゃないだろう。あくまで学習指導要領に沿って授業しているのだ。  誰に教わっても平等に授業を受けられるのは、よいことだ。親たちも全クラス同じペースで授業していることは学習に遅れがなく、安心することだろう。

 

 ■フランスでは教科書と関係ないことも学ぶ

 

  ただ、わたしには違和感があった。全クラス同じということは、つまり「余白」の部分がないことを意味する。「理解していない子が数人いるから授業を止めて、1週間後にもう一度やろう」とはならないはずだ。

 

 

 もしフランスの学校だったら、絶対に同じ内容にはならなかったと思う。わたしは自分が受けた小学校の算数の授業をよく覚えているけれど、先生によって教える方法が違っていた。足し算・引き算を教えるとき、小学2年生の先生はアメ玉を使っていた。「10個のアメを持っていて、1人の友達にあげたら、手元には何個残る?」と質問する。具体例があると、子どもはすぐに理解するのだ。また、算数の専門講師だった他の先生はお金を使って計算させていた。  教科書にある例ではなく、それぞれの先生が考えた例を使うため、おのずと授業はクラスによって変わる。

 

 

もちろんフランスにも学習指導要領はあるし、1年生を終えるまでに達成すべきゴールはある。

でもその道のりは決まっていない。先生が授業をアレンジし、

教科書とは関係のないことも学ぶ。

教科書を使わない先生もいる。

 

 

 ■「ひらがな」は非常に優れた文字

 

  フランスと日本の学校の小学1年生の科目で、最も違いが大きいのは国語の授業だろう。

つまり、フランス語と日本語の授業だ。

 

  日本の公立小学校へ通う息子の教室の壁には「勉強のルール」のポスターが貼ってある。

 

そこに、「漢字がわからなければ全部ひらがなで書いてもいい」という一文があった。

 

 

これは日本語の特徴をよく表している。

何かを書きたいと思ったとき

「漢字がわからないから」とあきらめてしまったら残念だが、

「ひらがなでもOK」だったら書ける。

 

  ひらがなは非常に優れた文字だ。

発音がわかれば、漢字を知らなくても文章を作れるのだ。

子どもたちは、4歳頃から手紙を書ける。

フランス人の4~5歳の子がフランス語を読んだり書いたりすることは稀だ。

 

だからこそ、日本語とフランス語を同じように教えることはできないだろう。

 

日本では正しく覚えることを重視している。

フランスでは正確さはもちろん重要だが、自分で表現することを重視している。

 

漢字はくり返しくり返し手で書いて覚える

小1では1日4文字のペースで学び、1年間で200文字を学ぶ。

なかなか速いペースだ。

そして小学校を卒業するまでに2000文字というように、具体的な目標によって学習が進む。

 

  ちなみに、大人になってからの漢字学習は、子どもの頃とは別のアプローチが必要だ。

「この漢字を30回書いてください」と言われたら、とても我慢できない。

大人の漢字学習のポイントは、なんといっても必要性だ。

わたしも自分の住所は引っ越し当日に漢字で書けるようになった。

書く必要に迫られたらすぐ覚える。

必要ないと思ったら一向に覚えられない。

だから今もほとんどの漢字は読めるしパソコンでは書けるけれど、手では書けない。

 

 

■「表現」を大切にするフランス語の授業

 

  フランス語の場合、アルファベットは26文字しかなく、カタチも難しくない。普通の子だったら10回くらい書けば覚える。

ただし

アルファベットの組み合わせで発音が変わるため、

単語として覚えなければならない

したがって、フランス語を書くには、

たくさん文章を読んでたくさんの単語に触れる必要がある。

本を読むことこそ勉強なのだ。

 

  またフランス語は文法がややこしい

「あなた」と「わたし」で動詞の書き方が違うし、

主語は1つか複数によって動詞も形容詞も変わるし、過去形は4種類あるし、女性名詞と男性名詞もある。

よって、国語という1つの授業でくくらず、

書く授業、読む授業、文法の授業などと細かく分かれている。

詩の授業もあり、ここで表現することを学ぶ。

 

(注:日本では、千年も昔の「古文」を習う。古代中国語「漢文」も習う。日本語で用いるから。)

 

  日本では表現を学ぶ機会が比較的少ないと感じる。演劇をとり入れた授業もあるけれど、表現するのとは少し違う。人前で何かを発表することには違いないが、日本で演劇といえば覚えたセリフをくり返すことだからだ。自分の意見を作文し人前で発表する機会はフランスのほうが多いだろう。

 

  だからフランスの授業はすばらしい、と言いたいわけではない。フランスでは自分で考えて表現することを重視する一方で、それにつまずく子もいる。表現することを重視しすぎると、基本的な知識がないまま成長していく子がたくさん出る。

 

  フランスの言語学の専門家によると、

小学校を卒業してもフランス語を正しく読めない子どもが12~15%もいる

また、概ね読むことはできるものの

正確に意味をつかめない17歳~18歳の子どもの割合は10%を超えているともいう。

ある程度、ベースの知識があってこそ、表現の幅は広がるのだ。

西村カリン

【関連記事】