中国で「絶望」広がる…「生かさず殺さず」の地方や外資、習近平は完全に開き直った?三中全会決議文の驚愕の中身(JBpress) - Yahoo!ニュース

 

 

中国で「絶望」広がる…「生かさず殺さず」の地方や外資、習近平は完全に開き直った?三中全会決議文の驚愕の中身

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習近平国家主席は開き直った?(写真:新華社/共同通信イメージズ)

 中国で三中全会が終わり、7月21日に三中全会で採択した決議文「改革をいっそう全面的に深化させ、中国式現代化を推進することに関する中共中央の決定」が発表された。これは18日に発表されたコミュニケの元になるもので、習近平が第3期目にどのような政策をとるか比較的細かく示されてある。

 

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 全文を読んだが、全く救いのない、あまりにひどい内容だった。

それは単に私の感想だけではなく、中国A株の反応などをみてもうかがえる。

 

  前回の原稿でも触れたように、

この三中全会決議は

改革開放終了宣言だ。

あるいは一種の「中国経済死刑宣告」である。

 

  これからは、国有資本と国有企業をより優位に、より強くし、政府の市場コントロールを強化し、民営企業と人民から税金を搾り取る。「生かさぬように殺さぬように」と訳してしまいたくなる「放得活、管得住」という表現に、党の考えが反映されているように思う。  経済を含め、すべてを党中央が統一集中コントロールするという、十分に人々を絶望させる内容だった。  決議文は60項目あり、それぞれの分野の政策方針が示されている。一番ぞっとしたのが、地方財政と増税に関する部分だ。すでに企業から30年もさかのぼって消費税(ぜいたく品にかけられる付加価値税)などの徴収が行われるなどの事件が起きている。それがおそらく、地方政府に財政問題解決方法として、消費税徴収の権限を与える決定がこの三中全会でなされるだろうという予測をこのコラム欄でも紹介したが、その通りとなった。  【関連記事】 中国で相次ぐ巨額追徴課税で企業家パニック、日本企業も駐在員も危ない! 30年前の過少申告も摘発、その狙いとは…  その部分の決議文をちょっと長いが訳出してみた。

 

 

■ 決議文の地方財政と増税に関する部分(全文)

 

  (17)財税体制改革を深化する。予算制度を健全にし、財政資源と予算の統括を強化し、行政努力、政府信用、国有資源・資産から得られる収入はすべて政府予算管理に含まれるようにする。国有資本経営予算と業績評価システムを改善し、主要な国家重大戦略任務と基本的な民生のための財政の保障を強化する。  予算編成と財政政策におけるマクロ経済指導を強化する。公共サービスの効率管理を強化し、事前の効果に対する評価を強化する。ゼロベースで予算改革を深化する。予算配分の権限を統一し、予算管理の統一性と基準化を改善し、予算開示と監督システムを改善する。発生主義に基づく包括的な政府財務報告制度を改善する。  ハイクオリティな発展、社会の公平性、市場統一的な税制に健全に利するように税制の構造を最適化する。新しいビジネスモデルに適合した税制を検討する。税法の法定原則を全面的に実施し、優遇税制を規範化し、重点分野と重点リンクの支援メカニズムを改善する。直接税制システムを改善し、総合課税と分類課税を組み合わせた個人所得税制を完成させ、事業所得、資本所得、財産所得に対する課税政策を規範化し、労働所得に対する統一課税を実施する。税務行政改革を深化させる。  明確な権限と責任、調整された財源、地域的バランスを備えた中央と地方の財政関係を確立する。地方政府の自主的財力を増加し、地方税源を開拓し、地方税収管理権限を拡大する。財政移譲制度を改善し、特別財源の移譲をいっそう強化して基準化し、一般財源の支払いを増やし、市・県の財政権力の一致度を高める。  ハイクオリティ発展を促進するため、移転納付のインセンティブと制約メカニズムを確立する。消費税徴収の後方シフトと地方への着実な分権化を推進し、付加価値税(VAT)控除に対する税還付政策との抵当の連鎖を改善し、税収の分担割合を最適化する。都市維持建設税、教育付加税、地方教育付加税を地方付加税として統合することを検討し、地方政府に対し一定の範囲内での具体的な適用税率を決定する権限を与える。  地方政府による特例債の支援範囲を合理的に拡大し、資本調達に利用する分野、規模、割合を適切に拡大する。政府債務管理制度を改善し、全面的な地方債務監視監督制度と長期的な隠れ債務リスク防止・解決メカニズムを構築し、(土地転売・都市再開発による錬金術を支えてきた)地方融資プラットフォームの改革・転換を加速する。税外収入の管理を規範化し、税外収入管理権限の一部を適切に縮小し、実情に照らして地方による税外収入の管理を区別する。  中央政府の権限を適切に強化し、中央財政支出の比率を高める。原則として中央政府を通じて支出を取りまとめ、地方政府に委託されていた中央財政に関する権限を削減する。また、地方政府は違法に資金を手配してはならず、中央政府の権限行使の委託を受ける場合には、中央からの特別繰入金により財源措置を行う。

 

 

 

 

■ 中央政府は地方を「支配はするが救済はしない」  これを地方の権限が拡大して中央の権力が弱まったと読み解く人がいるかもしれないが、最後に中央財政の権限を適切に強化すること、と強調してある。地方融資プラットフォームや中央プロジェクト名義で独自に資金を調達して事業を行うことを規制しており、中央による統一集中支配強化の方向性と合致した政策だ。  支配はするが救済はしない。地方の財政破綻問題については、中央は中央が徴収権を独占していた消費税や都市建設税や地方教育税など一緒に地方付加税として地方政府に徴収権を移譲するので、自分たちで何とかせよ、と突き放したということではないか。  三中全会では「規範」という言葉が26回ぐらい出てくるが、文脈からみるに、これは規制、統制というニュアンスで、地方の税収管理、税外収入の管理も中央の規制、統制は強化される。  つまり、徴税権は与えるので、民営企業と人民から搾り取れ、一方で地方政府が財源を自由に使うことは許さず、厳しく中央が監督する。人民から搾り取る増税の憎まれ役は地方政府に任せるが、その財源の使い方について自由度は低くなるのだ。  そうなれば、おそらく地方経済はさらに悪化する。地方が独自の判断で行っていた民営企業誘致のための税制優遇なども見直され、実質の増税宣言だから人民の可処分所得が減り、消費需要も低下する。改革開放以降、地方にも登場しはじめた中間層はこれで絶滅させられ、等しく貧しい社会主義時代の回帰が加速するだろう。  この方向性は外国企業、外国資本も無関係ではない。決議文を見てみよう。

 

■ 中国が世界のルールメーカーに

 

  (26)外資・対外投資管理システム改革の深化。

 

 

市場主義、法治主義、国際化を重視した一流のビジネス環境を構築し、法律に従って外国人投資家の権利と利益を保護する。外資を奨励する業種を拡大し、外資参入のネガティブリストを合理的に削減し、製造業における外資参入の制限を完全に撤廃する措置を実施し、電信、インターネット、教育、文化、医療などの領域で秩序ある拡大を促進する。

 

外国投資促進のための制度的メカニズム改革を深め、外資系企業に対し要素取得、資格許可、基準設定、政府調達の面で内国民待遇を保証し、産業チェーンの上流下流へ協力支援を支持する。駐在員の入国、居住、医療、支払い、その他の生活の利便制度を改善する。対外投資を促進・保障する制度メカニズムを改善し、対外投資管理・サービスシステムを改善し、産業チェーンのサプライチェーンにおける国際協力を促進する。  この部分だけを読んで、習近平は対外開放を促進する方向に政策転換したといいだす人もいそうだ。だが、中国の特色ある社会主義法治体系の改善に関する部分を続けて読んでほしい。

 

 

  (37)渉外法治建設を強化する。渉外立法、執法、司法、守法、法律サービス、法治人材育成の任務メカニズムを一体にして打ち建て推進する。渉外法律法規の体系と法治実施体系を改善し、法の執行と司法に関する国際協力を深める。裁判管轄権について当事者が合意し、法に従って域外法を適用することを選択するなど、対外民事法律関係の司法裁判制度を改善する。国際ビジネス仲裁・調停制度を改善し、国際一流の仲裁機関・法律事務所を育成する。国際的なルール作りに積極的に参加する。

 

 

 

  この渉外法治建設については、それなりに中国取材を続けてきた人ならば、その目的と意味が分かるだろう。習近平の最終的目的は新たな国際社会の枠組みの再構築を中国主導で行うこと。そのためには中国がルールメーカーにならなくてはならないと考えている。

 

  今の国際法、国際基準、国際秩序は欧米の価値観が中心だが、

習近平はそれを

中国の価値観、中国の秩序を中心としたものに変えていこうとしている。

それで、今中国は渉外立法に取り組んでいる。

 

 

 

  【関連記事】 中国が仕掛ける「法律戦争」、日本人はいつ逮捕されてもおかしくない! 超法規的「法治国家」の世界標準化という謀略  中国企業の中国人企業家が海外で腐敗や機密漏えいなどの罪を犯したときに国境を越えて適用できる法律と、財新などのメディアは解説する。だが、一部では外国籍法人や外国籍企業幹部にも適用されるという見方も出ている。たとえば、中国企業が海外に進出して外国法人化した企業や、中国企業に雇われた外国人経営者や商務弁護士なども適用対象だという。

 

 

 

 

 

■ 完全に開き直った習近平

 

  何が言いたいかというと、中国共産党に忠誠を誓い、中国のルール、価値観、秩序に従った外国企業、外国人には対外開放の果実、内国民待遇を与えるが、それは中国人と同様、中国共産党の支配、管理、コントロールをおとなしく受けることが条件となる。国際ビジネスルールは中国が新たにつくり、それに従えば、中国でビジネスをしてもよい、ということだ。  そういうやり方で中国市場にアクセスしたとして、本当に外国企業にとって利益につながるか。かつて国際社会で勇名をはせた著名中国人民営企業家の今のみじめな境遇を少し調べてみてほしい。  こうして一つひとつ三中全会で打ち出された政策を読み解くと、90年代から2000年代に国際社会が夢見た中国の自由主義化時代、高度経済成長時代が完全に終わり、長い経済低迷時代、スターリン時代のソ連のような恐怖政治と搾取の冬の時代が来た、という感じがする。  さらに嫌な感じなのは、この決議文で、習近平の固有名詞がこれまでのこの種の決議に比べて極端に減っているということだ。2万2000字あまりの決議文の中に習近平の名前は4回しか出てこない。  つまり、こうした決定は、習近平が独断で行ったのではなく、党中央として採択したのだ、ということを強調するようにも読み取れるのだ。これは、習近平がごり押しで決めた政策がすべて失敗しており、習近平が急に自信を失って、自分の名前をこうした決議文にちりばめるのが恥ずかしくなったのだ、という見方をいう人もいる。  だが、逆にいえば、この決議文による政策を進めて、どのような地獄が起きても、その責任を習近平は取る気もない、という開き直りともとれる。いずれにしろ、なんら希望が見いだせない三中全会決議文であった。

■ 日本政府は頭がおかしいのではないか  ところで、そんなふうに、多くの華人、ビジネスマンや投資家が絶望感に襲われているとき、三中全会が終わったタイミングで、日中がワクチン開発協力で合意したという発表があった。私は、日本政府は頭がおかしいのか、と思ったものだ。  もし仮に、この合意が、2023年3月に中国でスパイ容疑で逮捕され、起訴され拘留中のアステラス製薬幹部の裁判の行方など「人質外交」の影響を受けたものであったら、日本はすでに、この中国の恐怖時代の支配下に入りつつある、ということではないだろうか。日本の今後にも、言い知れぬ絶望を感じてしまうのであった。  福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト 大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。

福島 香織

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