三中全会閉幕、コミュニケ中身より気になる異例の周辺事態。習近平礼讃原稿を新華社が取り下げ、病気説も?(JBpress) - Yahoo!ニュース

 

三中全会閉幕、コミュニケ中身より気になる異例の周辺事態。習近平礼讃原稿を新華社が取り下げ、病気説も?

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中国共産党の第20期中央委員会第3回総会(三中全会)(写真:新華社/アフロ)

 中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議(三中全会)が北京で7月15日から4日の日程で行われ、「改革を全面的に深化させ、中国式現代化を推進する」というコミュニケを採択し18日に閉幕した。注目の三中全会コミュニケの中身は期待されたような具体的な経済刺激政策は皆無だった。 

 

【写真】三中全会に出席する習近平氏

 

 「中国式現代化」という習近平の造語を、鄧小平の「改革開放」の代わりに喧伝する、習近平の権威付けを狙った礼讃に終始する内容だった。本来昨年秋に行われるはずの三中全会が半年以上延期されたのは、共産党の直面する経済的困難を打開する政策方針をまとめるのに苦労したからだと思われていたが、結局、共産党中央は経済を放棄し、習近平の権威を強固にすることで、共産党体制維持を図る方向に舵を切った。  ところで、そんな残念な三中全会の中身よりも興味がそそられたのは、会期中に起きた異様な周辺事態である。そのことについて考えてみたい。  新華社が15日に配信した三中全会特別原稿「改革家習近平」が17日には取り下げられて「なかったこと」にされたのだ。指導者を賞賛する新華社記事が一旦配信されて取り消されることは非常に珍しい。  「改革家習近平」という記事の内容を簡単に紹介しよう。それは恥ずかしいまでの習近平礼賛記事、一種のごますり記事なのだが、ポイントは、改革家のイメージを鄧小平から習近平にすり替えることが目的のようなのだ。  いわく、  「習近平は鄧小平後の卓越した改革家である。彼らはよく似た使命を背負っている。つまり中国の現代化を実現させることだ。だが、両人が直面する情勢はまったく異なったものだ」  「鄧小平が改革開放に着手した1978年、中国の1人当たり国民総生産(GDP)は200米ドルに満たなかった。改革はほとんどゼロから始まった。2012年に習近平が中国共産党中央総書記に就任する頃には、中国は世界第2位の経済大国となり、1人当たりGDPは6000米ドルを超えていた。その一方で、かつての安価な労働コストなど、発展の恩恵の多くが失われつつあった」  「『簡単な、みんなが大好きな改革(のうまみの部分)は完了した。おいしい肉は食べ尽くされ、残っているのは噛み砕くのが難しい硬い骨だ』と習近平はかつて言った。習近平は前任者たちの栄誉に安住することを拒み、突進し続けた。過去10年間、中国は2000以上の改革プログラムを導入し、経済生産高を倍増させ、世界トップの経済成長エンジンとしての地位を維持した」  「海外世論は中国新時代の改革を『習式改革』と呼んでいるが、これは単なる(鄧小平の改革開放のような)『経済の変革』ではなく、改革の出発点が人民であり、着地点も人民である、という習近平の信念に基づくものである」・・・  鄧小平の改革は非常に簡単で、みんな大好きなうまみのある経済成長だった。習近平がこれから取り組むのは鄧小平のうまみのある改革の後に残った、困難な改革だ。だからこそ、本当に偉大な改革家は鄧小平ではなく、習近平なのだ、と言いたいわけだ。  だがこの原稿はすでに、新華社のサイトから取り下げられ、国内のインターネットニュースサイトでは読むことができなくなっている。私の探した限りでは香港文匯報の転載が唯一、今読める「改革家習近平」原稿だ。

 

 

 

■ 本来なら習近平が「大好物」の記事のはずが…  新華社が一度配信した記事を取り下げて、存在しなかったことにするのは、かなり異例な事態だ。新華社は中国共産党・国務院直属の組織であり、三大中央メディアのトップ。新華社の配信記事は、中共ハイレベルの意見そのものなのだ。習近平が指示を出さなければ、このような記事は配信されない。  だとすると、習近平も気づかなかった「政治的問題」が配信後に発覚したのだろうか。だが「習近平は鄧小平よりすごい改革家だ、鄧小平より難しいことに取り組んでいるのだ」という内容自体は、習近平がてらいもせずに言いそうなものだ。  この原稿が削除されたことについて、在米華人経済学者の程暁農がラジオフリーアジアに面白い見方を語っていた。記事が削除されたのは、この記事自体が「高級黒」(ハイレベルな皮肉)だからだ、というのだ。  「もし習近平がこうしたプロパガンダ調子の記事のマイナス効果を心配しないのであれば、自分で月桂樹の冠(勝者の証)をかぶって見せることも意に介さないもしれない。だが、現在問題なのは状況が全面的に混乱しており、それを習近平がどういじくりまわしても、解決はしないのだから、そういうタイミングで習近平をこんなふうにほめたたえるのは、習近平にしてみれば『高級黒』(皮肉、嫌み)だと感じただろう!」  習近平がやり遂げるように課せられた改革、鄧小平がやり残した「嚙みきれない硬い骨」の改革は、ひとことでいえば政治体制改革だ。だが、じつのところそれは習近平がやろうとしていることではない。習近平は政治体制的には毛沢東時代の個人独裁時代に回帰しようとしているのだ。  なのに、新華社の原稿では、開明派政治家の父親の習仲勲のイメージを重ねたりして、最終的には習近平の本心とはずれた印象になっていることに、読み返してみて気付いた。それが、むしろ嫌みや批判であると受け止めた、というわけだ。  あるいは新華社の配信したこの記事を受けた中国国内外の世論が、習近平を冷笑する形で広まったことで、習近平もようやく、こういう礼賛原稿が恥ずかしいと気付いたのかもしれない。あるいは、党内の鄧小平に心酔する主流中央委員、官僚たちが三中全会会議中に、鄧小平の改革をたやすいことだと言わんばかりのこの原稿に強い反発を示したのかもしれない。  中国共産党常務委員たちの現在の分担に照らし合わせると、こうした官製メディアのプロパガンダ原稿の責任を負っているのは党内序列五位の蔡奇だ。習近平を改革家だというイメージで宣伝政策をうったのは、蔡奇のアイデアだと推測されている。蔡奇に対する党内の反発がこの記事をきっかけに三中全会で表面化し、取り下げられたという見方もある。

 

 

 

 

■ 「習近平が会議中に脳卒中で倒れた!?」という噂  もう一つの異例の周辺事態は、「習近平が三中全会の会議中、卒中で倒れた」という噂が駆け巡ったことだった。15日の夜あたりに、ネットで「筆頭株主のおじさん(叔二)が、株主総会中で卒中で倒れた」という謎のメッセージが中国のSNS上で散見された。それが18日になって、「習近平が三中全会中、卒中で倒れた」という具体的な噂になっていた。  在米の元中国人記者の趙蘭健が某紅二代(共産党幹部の子弟子女)から、そう聞いた、と発言したことがSNSで広まったのだった。これが事実かどうかは、私には裏はとれない。  18日にコミュニケが発表されたのだから、三中全会が無事終了したことは間違いない。だがCCTVの18日夕方のニュースで三中全会が閉会しコミュニケが採択されたことを伝えるニュースで使われた映像は、閉会式の映像ではなかった。確かに習近平が演説している様子の動画ではあるのだが、それはおそらく会議1日目の場面であり、なぜ閉会式の映像を流さないのか、と噂になった。  それで新華社の「改革家習近平」記事の取り下げ事件と相まって、なにか三中全会中に異例の事態がおきたのではないか、という憶測が広がったのだ。

■ 習近平の2つの健康不安説  習近平が健康上の問題を抱えていることは本当らしい。2つの説があって、一つは文化大革命時代に下放されたときに事故で頭にけがをし、その後遺症で脳動脈瘤を抱えている、という説。もう一つが糖尿病を患っているという説。あるいは両方だ。  習近平は西洋医学、西洋医薬が好きではなく、もっぱら中医に処方された煎じ薬を愛用しており、会議の場で習近平の前に置かれる2つの茶杯の1つは漢方薬の薬湯である、らしい。日本の医薬品が習近平の症状によく効くと聞き、部下たちが習近平に勧めたら、日本の薬は絶対飲まない、と言われたとか。  脳動脈瘤も手術で治るのだが、手術を怖がって受けたがらないとか。そういう噂話も聞いたことがある。中国の権力者にとって健康アピール、壮健アピールは重要で毛沢東は長江で水泳をするパフォーマンスをよく行った。だが、習近平は健康に自信がないので、コロナ蔓延中は慎重にマスクをして、あまり人とも会おうとしなかった、という。  党大会や全人代など長丁場の会議で、パワフルに演説したりするためにも体力、健康が重要だ。三中全会の目的が、習近平権威の確立であったとしたら、もしその会議で、健康上の理由で一時的でも退席したなら、それは習近平の権威付けの失敗、といえるかもしれない。  事実かどうかは別として、こういう噂を中国人民がSNSで拡散していることの背景に、習近平権威に対するそこはかとない反発があるやもしれない。  三中全会コミュニケの中身を改めてみると、欧米と異なる発展モデル「中国式現代化」を推進して建国80年目の2029年まで改革の任務を完遂させることを掲げている。これは習近平は2027年の第21回党大会後も最高指導者で居続けることが前提の新たな目標であり、さらに 2035年までに、ハイレベルの社会主義市場経済体制を全面的に完成させるとしている。  中国式現代化という言葉が22回も繰り返され、改革開放は4回しか言及されなかった。習近平のスローガン「中国式現代化」という言葉を、鄧小平の改革開放に上書きするのが狙いだろう。改革と言えば今まで鄧小平の改革開放を意味したが、これからは改革と言えば習近平の「中国式現代化」だと言いたいのだ。  だが多くの中国人は、習近平のいう中国式現代化の本質が「反改革」であることに気づいている。

 

 

 

 

 

■ 失われた共産党への信頼回復を狙う  「改革家習近平」原稿に話を戻すと、習式改革という言葉が使われ、「マルクス主義が新しい時代と中国の現実に合わせてつくり直され、中国の優れた伝統文化と融合させたものだ」「だから改革は新たな哲学的意義を帯び、制度構築に高度に重点を置いているのが特徴だ。制度や仕組みの根深い問題をより重視しているため、規則やシステムを構築するために多くの作業が行われてきた」と解説されていた。つまり、習近平の改革とは、習近平のルールと規律による統制の強化であるということでもある。  中国式現代化とは、経済のうまみは失われたなかで、習近平の厳しいルール規律で統制を強化し、中共・習近平の指導地位は堅持する、ということ。鄧小平時代に夢みた豊かな改革開放時代よ、さようなら、貧しく厳しい習近平専制時代に備えよう、と人民にはっきりと自覚させるのが今回の三中全会の最大の目標であったと言えるかもしれない。  国際メディアの多くは三中全会のハイライトは、習近平3期目がどのような経済政策を打ち出すかということだと信じていたようだが、今回、それは見事に裏切られたのだ。

 

 ■ 中国で流行している「ゴミの時間」

 

  最近中国で流行している言葉に「垃圾時間」(ゴミの時間)というのがある。黙って何も考えず、抵抗せず、やり過ごす無為な時間という意味だが、これから始まる新たな専制時代への心構えの含みがある。

 

  みんな理解していることは、

この三中全会によって、習式改革、

中国式現代化という名の専制強化の新たな段階がスタートするのだ。

 

「改革家習近平」の異様な習近平礼賛記事と、

それを翌日に削除する異例の措置や、

習近平卒中の噂の背景には、習近平専制におびえる党内外の心理、

習近平がある日突然、いなくなればいいのにという願望が反映されていると思う。

 

 

 

  福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト 大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。

福島 香織

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