なぜ日本の大手メディアの「報道ぶり」は台湾に及ばないのか…忖度も記者クラブもなく、ネットが報道をリードする台湾(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース

 

なぜ日本の大手メディアの「報道ぶり」は台湾に及ばないのか…忖度も記者クラブもなく、ネットが報道をリードする台湾

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現代ビジネス

小池百合子疑惑を書くことも出来ない大手メディア

 

筆者は長年、日本の大手メディアで仕事をしてきたのだが、最近の大手メディアの報道ぶりを見ていると、腹立たしいを通り越してあきれてしまうことが多い。 【写真】都知事選の政見放送を見て呆然…ここまで無秩序になった「歴史の必然」 典型的なのは選挙にかかわる報道である。7月7日に投票が行われた東京都知事選は、現職の小池百合子知事に対して無所属で立候補した蓮舫前立憲民主党参議院議員や石丸伸二前安芸高田市長らが挑戦する構図となっていたが、小池知事は不思議なことに都市部での街頭演説が非常に少なかった。自らの政見を多くの選挙民に直接訴える機会をなぜ自ら放棄するのだろうか。 そこで指摘されているのが、以前からくすぶっている「経歴詐称疑惑」である。最近では作家の黒木亮氏が、この問題についてシリーズで詳細な分析を行っているが(例えば、JBpress 2020年1月9日「徹底研究!小池百合子『カイロ大卒』の真偽〈1〉 『お使い』レベルのアラビア語」参照)、それ以前にもノンフィクション作家の石井妙子氏が「女帝」を2020年に上梓し、小池氏のカイロ大学留学時代の同居人の証言などをもとに「カイロ大学卒業」とする小池氏の履歴に疑念を示している。小池氏は、もし街頭演説を行った場合、この経歴詐称疑惑について聞かれることを懸念しているとの見方が一般的だ。 しかし疑惑を晴らすのは実は簡単なことだ。小池氏が記者たちの前で流ちょうなアラビア語で数分間しゃべるだけで、カイロ大学を卒業する能力があったのかどうかは明確になる。また、もし小池氏がきちんとカイロ大学を卒業したのであれば、カイロ大学留学時代の同居人は嘘をついていることになるのだから、記者会見で「あの人の言っていることのこことここが嘘です」と言えばいいのだし、謝罪と賠償金1円(あまり多額だとスラップ訴訟と思われる)を求める訴訟を起こしてもよいはずである。そうした手続きを一切行わず、記者の質問に正面から答えようとしない態度は、都知事の任にふさわしいのか十分議論されるべきだ。 こうした情報はネットでは山ほど流れているのだが、大手メディアでこの経歴詐称疑惑を本格的に取り上げる社は、少なくとも筆者は見た記憶がない。いったいなぜか? 各社がどこまで取材しているのは知らないが、事の重大性を考えれば、少なくとも「記者会見でこの問題を質問したところ、小池知事は○○と答えた(あるいは答えなかった)」ということは大した努力をしなくても記事にできるわけだし、記事にするのが当然ではないか。 筆者が予想する大手メディアの回答は、「選挙期間中なので、白黒はっきりしていない問題について取り上げるのは、選挙結果に影響を与える恐れがある」といったところだが、ではこの疑惑が表面化してからもう何年も経つのに、いままでなぜ沈黙を続けてきたのか? これが「忖度」でなくて何だというのだろう。

 

 

 

「世界報道の自由度」、台湾27位、日本70位

最近、他にも違和感を隠せない事案があった。今年4月の衆議院東京15区補欠選挙における、「つばさの党」による選挙妨害事件である。この事案も日常的にYouTubeにアクセスしている人なら、おそらく選挙期間中に知っていたはずだが、大手紙を読むだけの人はどうだったろうか。こうした行為を知らず、つばさの党に投票した人もいるかもしれない。 なぜ大手メディアは選挙が終わり、警察が動くまで沈黙を守っていたのか? これもおそらく大手メディアの“模範解答”は「選挙結果に影響する可能性がある」「つばさの党の売名行為を助長する恐れがある」といったところだろう。しかしあのような明々白々な違法行為に対し、メディアとして自らの責任で報道することができないのだとすれば、ジャーナリズム失格である。 国際メディアNGOの中にフランスに本部を置く「国境なき記者団」という組織があり、毎年「世界報道の自由度ランキング」を発表している。それによると、2024年版での日本の順位は180の国・地域の中で70位、ちなみに1位はノルウェー、2位はデンマーク、3位はスウェーデンと北欧が上位を占めている。 アジア太平洋で見ると、最も順位が上なのは島国のサモアで22位、続いて台湾が27位、フィジーが44位、トンガが45位、韓国が62位と言う具合で、日本を上回る国はかなりあって、台湾と韓国も日本より上位だ(Index | RSF参照)。

李登輝とともに始まった台湾の民主主義と報道の前進

最近の日本は、「男女格差」の世界ランキングで100位以下が定位置になりつつあるので(nippon.com「ジェンダーギャップ指数、日本は146カ国中118位―世界経済フォーラム : 政治分野は113位」 参照)、70位ならまだましな方と思う人もいるかもしれないが、報道の自由に関しては以前から“負け犬”だったわけではない。 例えば日本で民主党への政権交代が起きた2009年で見ると、日本は17位で台湾は59位、またその翌年の2010年は日本が12位で台湾は48位である。これが逆転したのは日本で自民党が政権を取り戻した翌年の2013年で、日本が53位に後退したのに対し、台湾は47位だった。そしてその後の10年あまり、日本はさらに後退し、台湾はさらに前進した。 台湾はもともと1949年に中国本土から逃げ込んだ蔣介石が「反攻大陸」を掲げる“中華民国”の独裁体制を構築し、1986年までは野党が存在しておらず、同年の民進党結成も「新規政党設立禁止」の掟(党禁)を無視して強行されたものだった。また、新規新聞の発行禁止令(報禁)が解除されたのは1988年で、それまでは国民党系の中国時報と聯合報が新聞市場を牛耳っていた。したがって、戦後まもなく自由選挙が行われた日本は、民主政治の観点ではもともと台湾のはるか先を行っていたのである。 その一方、独裁体制で抑圧されていた台湾人は、民主・自由・人権を求める強い思いを熟成させていき、経済発展が進む中でその要求を高く掲げ、自らの力で民主化を勝ち取った。もちろん台湾が中国の圧力を受ける中で平和裏に民主化への移行を実現できたのは、台湾に蔣経国、李登輝といった極めて優れた指導者がいたことも大きい。

 

 

 

 

政治的成熟度と報道の自由の相関関係

筆者が北京に駐在していた1990年代前半、出張で北京に来た台湾の記者と話をする機会がよくあったが、当時、台湾人記者の多くは外省人だったこともあり、口を開けば李登輝総統(当時)の悪口を言っていた。数人の台湾人記者と話していてこの話題になったとき、筆者が「私は皆さんとは考えが違う。台湾の民主化に李登輝がなした貢献は大きいと思う」と述べたところ、一同シーンと静まり返り、1人も反論しなかった。 自分はその時は口にしなかったが、彼らに対しては「あんたらが総統を罵れる言論の自由は、李登輝が保証してくれたんじゃないのか? 蔣家独裁時代に総統に対して同じ批判ができたのか?」と問い詰めてみたかった。 とはいえ、根本的には台湾人1人1人の政治意識の高まりが決定的な作用を果たしたと思われる。台湾では、野党結成からわずか14年足らずのうちに政権交代が起き、その後も2008年と2016年に政権交代が起きている。その背景として、台湾人の飽きっぽい性格を指摘する声もあるが、本質的には「政治リーダーは自分たちが選ぶ。出来の悪い政権は、躊躇せず取り替える」といった主権者意識の強さが大きいと思う。 しかしこうした主権者が適正な選択を行えるかどうかについては、主権者に十分な情報提供が行われることが前提であり、「報道の自由」の重要性は極めて大きい。

台湾ではネットの特ダネを報道メディアが後追い

台湾で報道の自由度が高い1つの要因として、日本の大手メディアのように全社が「忖度」をするといった画一性がない点が挙げられる。台湾では政治勢力が国民党を中心に新党、親民党など中国との経済関係強化を重視する「藍派」と、民進党を中心に時代力量、台湾団結連盟など中国に飲み込まれないよう距離を保とうとする「緑派」の二極に明確に分かれている。そして大部分の大手メディアが、「藍派」に近い中天テレビ、TVBS、東森テレビ、中国時報、聯合報、旺報などと、「緑派」に近い三立テレビ、民視テレビ、自由時報などに分かれているため、相手側の政治リーダーの不祥事は遠慮せずに書くのである。 もう1つの要因は、ネットメディアの影響力の強さである。2010年頃から台湾ではネットメディアが雨後の筍のごとく誕生した。2009年に「新頭殻」(NewTalk)、2011年に農業と食品安全に特化した「上下游」、2013年に評論を中心とする「関鍵評論網」(The News Lens)、2014年に「風伝媒」、2015年に原発や労働問題などを扱う「焦点事件」と、本部が香港にある「端伝媒」、それに調査報道に特化した「報道者」、2016年に「信伝媒」と「上報」といった具合である。 日本でも同じころ、「東洋経済オンライン」、「NOBORDER」、「ハフポスト日本版」、「スマートニュース」そしてこの「現代ビジネス」もそうだが、様々なネットメディアが生まれた点は同じである。 決定的に違うのは行政権力や大手メディア側の対応である。

 

 

日本のネットメディアの多くからはこれまで盛んに「官房長官の会見に入れない」「東京電力の会見に入れない」などとする不満の声が出ていた。一方台湾では、行政院の会見にネットメディアが入れないことなどない。この違いはどこから来るのか? 一見したところ、日本政府や東京電力が悪いように見えるが、記者クラブ側が自らの特権を守るためにネットメディアの参入を妨害しているとの説もある。もしそうだとすればひどい話だ。そもそも、ネットメディアが会見に参加すれば、彼らは当局や大企業に対しより批判的な記事を書く面もあるのだから、大手メディアからすれば自分たちの報道の自由も広がると考えるべきではないのか? ネットメディアを阻害して既得権益を守ろうとするのでは、国民の知る権利に真摯に答えようという姿勢に欠けるのではないか?

 

 

 もう1点台湾と日本の違いを挙げると、台湾ではネットメディアの「特ダネ」をテレビや新聞がせっせと後追いすることだ。台湾では特に若者の間ではネットが主流メディア化しつつあるので、既存メディアが追いかけなければさらに見捨てられるばかりだし、既存メディア自体が日本よりもネット展開に本気で取り組んでいる。

 

 

 一方の日本では、先述したように

東京都知事の「経歴詐称疑惑」を延々とスルーし続けているのだから、

報道の自由世界ランキングが下がり続けるのもまたむべなるかな、である。

 

(注:都民は、既に、小池さんは嘘を言っていると思っているから、改めて暴露・追及する価値がない。

つまり、小池さんにとっては、「意味のない出来事」どうでもいい出来事なのである!)

 

 

 すでに報道の自由に関しては台湾にずっと先を行かれている日本だが、少なくとも台湾を全力で追いかける気持ちだけは、日本の大手メディアの記者たちに持ってもらいたいものである。

田 輝(ジャーナリスト・中国研究者)

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