拡張する脳
2013/9/18 藤井直敬(著)
『つながる脳』(毎日出版文化賞受賞)から4年――。
脳やコミュニケーション研究に一石を投じた著者が開発した、
SRシステム。
「現実」と「代替現実」を視覚と聴覚を通じて自在に切り替え、
脳の反応を探り、目の前の「現実」を検証します――。
地位や立場など相手との関係性や状況で、脳は認識を次々と拡張していきます。
あなたの「世界」は、違う姿を見せ始めるのです。
(推薦の言葉・帯より)
石井裕氏共鳴! (MITメディアラボ副所長)
「時空間連続体視聴覚体験ハック▼ リアリティ再構築▼ コペルニクス的転回▼ 脳科学未踏峰連山へ」
山中俊治氏堪能! (デザイナー/エンジニア)
「私も脳科学者になりたいとさえ思わせてくれる。
複雑な脳を、複雑なままに観る脳科学の最前線。
そこから私たちの社会が見えてくる」
養老孟司氏納得! (解剖学者)
「『思い込み』が科学の対象になった。これまで哲学でしか扱えなかった抽象的な思考に、科学的な根拠が与えられるような気がする」「何度も実験できるということは、再現可能な何かがある」
著者について
藤井直敬 Fujii Naotaka
1965年広島県生まれ。東北大学医学部卒業。同大医学部眼科学教室にて初期研修後、同大大学院に入学、博士号取得。1998年よりマサチューセッツ工科大学(MIT)、McGovern Instituteにて研究員。2004年より理化学研究所脳科学総合研究センター象徴概念発達研究チーム副チームリーダー。2008年より同センター適応知性研究チーム・リーダー。
主要研究テーマは、適応知性および社会的脳機能解明。
主な著書に、『つながる脳』(NTT出版、第63回毎日出版文化賞受賞)、
『ソーシャルブレインズ入門』(講談社現代新書)など。
==或る書評より
自分はここにいて、見えてるものは確かに存在するという感覚を「現実感」と言う。
その確信が持てない疾病を「離人症」と言う。
しかし、「現実」の操作がSR(代替現実)システムにより可能となった。それは、視覚と聴覚を乗っ取るシステムであり効果は絶大である。
SRシステムは、「僕はウソつきですが、僕の話していることは全部ウソです」という、「ウソつきのパラドクス」の状況を実際に作ることが出来る。
そしてそれは、時間を超えるということであり一回性を何回も繰り返すことが出来るということである。
SRシステムには、過去と現在の映像のブレンド技術がある。過去と現在の映像の不透明度を操作して重ね合せる技術である。これにより過去映像のみ、現在映像のみ、あるいは現在4割・過去6割等が可能となる。見ている人はそれが過去の映像なのか、現在の映像なのか全くわからない。
また、SRシステムでは視点を色々な場所に動かしている自分自身や環境を見ている自分が、空間の一点に止どまるのではなく同時に散在しているという感覚、まるで神の視点を得たような不思議な感覚が生まれる。
それは、能に似ている。能は、人のメタ認知(知っていることを知っている。現実を疑う。自分自身を疑う。)機能を熟知した奥深い芸術である。
このように、「現実」を支えている土台は実は脆くて儚いものである。
著者は、今後仏教の「悟り」などの宗教体験も伝えることが出来ると考えている。
以上のようにSRシステムは、メタ認知等について新鮮な視点から考えさせることを孕んでいる。
SRシステムはもともとヒトの「メタ認知」や「社会性」を解明するための装置であった。
「社会性」についての著者の結論は、基本原理として先ず、「我慢」がありそれから「利他的行動や協調的行動」を身に付けたという考えである。
今迄言われてきた脳関係についての知見は、単純すぎるし美しすぎる。つまり、実際の脳とあまりに懸け離れていると言う。
細胞でも脳でも一個ではなく、オーケストラの如く関係し合っているという観点から研究方法をサーチライト型からバケツ型に変える提案がされている。これは、ハード・ソフトの進歩によりそれが可能な段階となったという認識による。
今後、「代替現実」は各方面に強いインパクトを与えるであろうことが窺えて刺激的であった。
つながる脳
2009/5/15 藤井直敬(著)
1965年生まれ。理化学研究所 脳科学総合研究センターにて適応知性研究チーム・チームリーダー、
著書に
脳科学の行く手には、大きな壁がある。技術の壁、スケールの壁、こころの壁、社会の壁である。
たちはだかる大きな壁に対して、脳科学者はどのように問題を解決しようとしているのか。
自由意志や社会的適応、ココロの理論、あるいは脳科学の実験環境や、話題のブレイン‐マシン・
インターフェイスなども押さえながら、「脳と社会」の関係性から脳の解明を目指す。
★第63回 毎日出版文化賞 自然科学部門 受賞★
★池谷裕二氏、茂木健一郎氏も絶賛★
閉塞の危機に瀕する脳科学。そこに立ち向かう熱い良心。
未来の脳研究界を着実に見渡したい人には必読の本だろう。
(池谷裕二)
ここには脳科学に関する「本当のこと」がある。
斯界の若きスターから繰り出される直球勝負。
真理探究への燃え上がる情熱。
とてつもない本が誕生した。
(茂木健一郎)
==或る書評より
実に面白い。
脳科学の現状の問題点を捉え解決しようとする過程が描かれている。
研究者視点である等身大の「研究」を知る事ができる数少ない本です。
壁を乗り越えようとしている人、壁から逃げようとしている人、壁を避けて通ろうとしている人、壁を壊そうとしている人、一読の価値ありです。
ある意味、実験室での実験を止めた研究とも言える内容は驚くべきもので、人の持つ社会性を脳科学的に実証しつつあります。
悪の構造とも言われるBase of Pyramidと呼ばれる社会構造がどうして存在しているのかも本書から明らかになります。
内容は量子論や行動経済学や社会学、脳科学のいずれかを大雑把にでも追っている人には非常に理解しやすい本です。
敢えて欠点を挙げるのであれば内容を平易にしようとするあまりに一般化しすぎており、一次ソースとしてのデータが明示されない点などがあります。
そこは筆者も冒頭や巻末で述べている通り、これは脳科学の啓蒙書なのです。
好奇心あふれる人にはお勧めの一冊です。
==或る書評より
近年数多く出版されている脳科学関連の本とは内容がかなり異なっていると感じました。
一般的に信じられている(実は誤って伝わっていることも多いのでしょうが…)情報の信憑性について議論するのではなく、
自身の研究内容をベースとした話の展開に終始されています。
これは、現在進行形で研究を続けられている方だからこそ可能な文章構成ではないかと感じられました。
内容に関しても、今までの本ではあまり紹介されていないような分野の研究の報告など、非常に新鮮に感じられました。
この分野で最先端の研究をされている筆者だからこそ書くことができた内容で、
その一部を垣間見ることができ、非常におもしろかったです。