欧州で広がる右派ポピュリズム、仮に米大統領選で勝利したトランプ氏と連携・連帯すれば世界は悪夢に(JBpress) - Yahoo!ニュース

 

欧州で広がる右派ポピュリズム、仮に米大統領選で勝利したトランプ氏と連携・連帯すれば世界は悪夢に

配信

JBpress

欧州議会の選挙結果はEU加盟国を当惑させた(写真:Robin Utrecht/ABACAPRESS.COM/共同通信イメージズ)

 欧州議会選では、移民排斥や環境問題への対応への疑問などを訴える右派ポピュリズムが躍進した。  EU各国は超国家機関であるEUで決められた法律に従わざるを得ない局面も多く、不満を抱える市民も多い。  今後、米大統領選で勝利したトランプ氏が欧州の右派ポピュリズムと連携すれば、世界は不安定化しかねない。  (山中 俊之:著述家/国際公共政策博士)

 

  【写真】欧州では台頭する極右政党と反極右の間でせめぎ合いがあちこちで起きている

 

 6月に実施された欧州連合(以下、EU)の立法権を担う欧州議会選の結果は、EU加盟国を当惑させるものであった。EU懐疑派で移民排斥や環境問題への対応への疑問などを訴える右派ポピュリズムの政党グループが躍進したからだ。  右派ポピュリズム政党躍進といっても、全議席のうちのいまだ2割程度に過ぎない(EU推進派の中道右派はここに含めない)が、EUの存在意義や基本方針自体に疑問を挟む勢力が伸長したことは、見逃せない事実である。  欧州議会は、行政府である欧州委員会から提出された法律案や予算案について議決を行う機関である(通常の立法府のような法案提出権はない)。今後のEUの法案や予算、欧州委員長などの選任に影響があるであろう。看過できない状況だ。  欧州議会では、各国から比例代表制の選挙で選ばれた議員が、自分の属する各国の政党が属する欧州議会での政党グループに属する。  議席が大きい政党グループは、EU推進派である中道右派の「欧州人民党」と中道左派の「社会民主進歩同盟」だ。これまで欧州議会では、中道右派や中道左派のEU推進の政党グループが大きな議席を占めてきた。  EUは、第2次大戦が欧州を破滅の淵に落としたことへの反省から、欧州の統合と協調を重要な基調にしてきた。ナチスを生んだドイツを欧州の中に取り込み、二度と戦争を起こさず、欧州全体の安定と繁栄をもたらすことが大事なテーマだ。  ところが、今回の選挙において、フランスの国民連合(RN)などが属する「民主主義とアイデンティティ」やイタリアのメローニ首相の所属政党、同胞などが属する「欧州保守改革」のような右派ポピュリズム政党グループが大きく伸びた。  英国のEU離脱という大きな衝撃が第一波とすると、EU懐疑派の右派ポピュリズムの伸長という第二波がEUを襲っているといってよい。

 

 

 

■ 根源にある「遠くで勝手に決めないでくれ」という反発  EUをヨーロッパの国が集まった国際機関のように考えると間違ってしまう。EUは、立法権、行政権、司法権を持つ国家を超越した組織だ。EUは、単に国家の寄せ集めというだけでなく、立法府、行政府、司法府の三権を有する国家機関に類似した超国家機関である。  EUで制定された法律や決定事項は、各国議会での法律化を経ることなく、EU域内に住む人々に直接適用されることもある。  日本に例えれば、仮に東アジア諸国連合(本部・シンガポール)というものが存在したとして、シンガポールの本部の立法府で決まった法律が日本国内でもすぐ適用されるようなものだ。  そのようなことが頻発すれば、「またシンガポールで新しい法律が決まって守らないといけないらしいな。日本の実情も知らず勝手に決めて」といった気分になるのではないか。  このように、EU諸国の市民は遠くブリュッセルなどで決められた法律に従わなければならない状況にある。そして、EUの決めた法律によって、移民増加や燃料高騰といった事態に直面しているEU諸国の市民が増えているのだ。

 

■ 反移民・反国際機関と反既得権が合致した右派ポピュリズム

 

  レーガン米大統領、サッチャー英首相のように、これまでも右派に属する政治家が国際政治に大きな影響力を行使してきた。ただ、これら右派と現在の伸長している右派ポピュリズムが大きく異なる点は、EUを含む国際機関への不信だ。  そもそもポピュリズムとは、既存の政党・政治家や富裕層など既得権益者を攻撃して人気を得る政治手法を指す。右派に限るものではなく、ラテンアメリカではバラマキ型の大きな政府志向で国民の支持を得ようとする左派ポピュリズムが政権を握っていることも多い。  右派ポピュリズムは、EUなどの国際機関の活動に否定的であり、自国第一を極端な形で主張する。すべての国家が自国第一の主張を極端に主張すると国際社会は不安定化する。  右派ポピュリズムといっても、日本的な感覚でとらえないことだ。日本では、右翼というと街宣車で何か叫んでいる変な人たちといった形で、半ば色眼鏡で見てしまいがちだ。  しかし、移民問題や環境問題で揺れる欧州をはじめ世界では、移民排斥を訴える右派ポピュリズムは議会で一定の議席を有し、与党第一党になることもある。  実際にイタリアのメローニ氏は、時にファシストとも同列に扱われたが、同氏の政党「同胞」は政権与党になり首相を務めている。オランダで第一党になった自由党党首のウィルダース氏は、コーランを禁止することにも言及している。議会で中枢を占めて政策を決定することもあることに留意すべきだ。

 

 

■ トランプ氏との協力が生み出す恐ろしく不安定な国際社会

 

  欧州議会における右派ポピュリズムの伸長は、今後の展開にどのような影響を与えるのだろうか。  移民・難民受け入れや気候変動問題など環境問題に対する取り組みが後退する可能性はある。  政党により温度差はあるが、移民・難民を極力入れないという点が右派ポピュリズムの一丁目一番地だ。政権についたイタリアのメローニ首相がアフリカなどからの不法移民の規制強化に乗り出しているのはその一例だ(もっとも、同首相は労働力不足を補うために合法移民は受け入れを拡大している)。  これまで緑の党に投票してきたが、燃料の値上がりへの反発から右派ポピュリズム政党に投票した人もいる。これまで地球環境問題への取り組みを先導してきたEUの関心・関与が低下する可能性がある。  私が注目するのは、世界的な右派ポピュリズムの連携・連帯である。  右派ポピュリズム政党に属する政治家は、ロシアのプーチン大統領に親近感を覚える人も多い。ロシア第一主義で強権的に国内外の反対勢力を抑え込む政治姿勢が共感を生むのだ。

 

 

  ハンガリーのオルバン首相はその典型で、EU加盟国でありながらウクライナ侵攻後のロシアとも関係も良好に保っている。

仏RNのルペン氏もプーチン大統領に対して親近感を持っていることを隠さない発言が目立つ。

 

  そのため、

EU内部に親ロシア派が伸長する可能性がある。

結果的に対中政策も軟化する可能性がある。

 

 

  今年11月の大統領選で米国のトランプ氏が大統領に当選し、欧州の右派ポピュリズムの動きに乗っかってきたらどうなるだろうか。実際に、ハンガリーのオルバン首相は今年3月の訪米の際に、現職のバイデン大統領には会わずにトランプ氏と会談をした。現職首相として外交上極めて異例のことだ。

 

  想像するだけでも恐ろしく不安定な国際社会が待っている。  世界における右派ポピュリズムの伸長は、企業にとってもリスクマネジメント上の重要なテーマになっていることは間違いない。

 

 

 

  山中俊之(やまなか・としゆき) 著述家/芸術文化観光専門職大学教授

 

  1968年兵庫県西宮市生まれ。東京大学法学部卒業後、1990年外務省入省。エジプト、イギリス、サウジアラビアへ赴任。対中東外交、地球環境問題などを担当する。首相通訳(アラビア語)や国連総会を経験。外務省を退職し、2000年、日本総合研究所入社。2009年、稲盛和夫氏よりイナモリフェローに選出され、アメリカ・CSIS(戦略国際問題研究所)にて、グローバルリーダーシップの研鑽を積む。  2010年、企業・行政の経営幹部育成を目的としたグローバルダイナミクスを設立。累計で世界96カ国を訪問し、先端企業から貧民街・農村、博物館・美術館を徹底視察。ケンブリッジ大学大学院修士(開発学)。高野山大学大学院修士(仏教思想・比較宗教学)。

 

 

ビジネス・ブレークスルー大学大学院MBA、大阪大学大学院国際公共政策博士。京都芸術大学学士。コウノトリで有名な兵庫県但馬の地を拠点に、自然との共生、多文化共生の視点からの新たな地球文明のあり方を思索している。五感を満たす風光明媚な街・香美町(兵庫県)観光大使。神戸情報大学院大学教授兼任。  著書に『世界94カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)。近著は『世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ』(朝日新聞出版)。

山中 俊之

【関連記事】

最終更新:

JBpress