NHK番組から生まれた、「宗教とは何か」を考えるための4講義【別冊NHK100分de名著】 - Yahoo! JAPAN

 

 

NHK番組から生まれた、「宗教とは何か」を考えるための4講義【別冊NHK100分de名著】

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NHK番組から生まれた、「宗教とは何か」を考えるための4講義【別冊NHK100分de名著】

「宗教による被害」や「宗教二世のこころの問題」「宗教と政治の関係」などが社会を揺さぶっている昨今。「宗教」という問題を長らく真正面から見つめてこなかった私たちは、この状況にどう向き合っていけばよいのでしょうか?

2024年初にNHK Eテレで放送され話題となった「100分de宗教論」。その出版化である『別冊NHK100分de名著 宗教とは何か』では、釈徹宗さん・最相葉月さん・片山杜秀さん・中島岳志さんという4人の論者が、4冊の本を起点に、多角的な視点で宗教をとらえ、「信じること」について解明していきます。

今回は「100分de宗教論」制作統括である秋満吉彦さんに、この番組と書籍制作への思いを伺いました。

私たちから決して遠い存在ではない「宗教」

 この一年半ほど、「政治と宗教の関係性」「宗教二世の問題」「世界を覆う宗教対立の深刻さ」等々、たびたび報道される「宗教の問題」に心を揺さぶられていました。「私たちにとって宗教ってそもそも何なのだろう?」……この原点を確かめずして「宗教の問題」の解決の糸口はつかめないのではないか。そう思ったのが、この本のもとになった「100分de宗教論」の企画発案のきっかけです。

 ごく私的な話を書くことをお許しください。発端は、一九九〇年代末。熱烈に応援していたアニメ映画監督が批判に晒されていました。今で言う「炎上」に近いことが起こっていました。この監督を尊敬するあまり、同時期に批判を始めたファンの友人たちと激しい口論になりました。「あんなに一緒に応援していたのにどうして?」「悪いところばかり粗さがししているのではないか?」……私の憤りはとまりません。今、冷静に振り返ると、友人たちの批判も筋が通っていたのですが、熱烈にその監督を支持していた私は、友人たちの言動が裏切り行為のように思えたのです。

 

 なぜあそこまで意固地になってしまったのか。その理由が深く腑に落ちる経験がありました。今から七年ほど前、あるトークイベントで

『予言がはずれるとき』(フェスティンガーほか)について、宗教学者の釈徹宗さんと語り合ったときのこと。「煙草を吸う・吸わないという日常的なレベルの選択にも、一般の宗教と相通ずるような心の動きがあるんですよ」と言う釈さんの言葉に救われるような思いがしました。

 

番組でも紹介した「認知的不協和の理論」。

「煙草は体に悪い」という事実は、「煙草を吸いたい」という思いとの間でズレを生む。そんな認知的不協和を解消すべく、私たちは不都合な情報から眼をそらしたり、都合のよい情報だけを集めたりする。それは、人間であれば誰一人として逃れることができないメカニズムであり、決して否定すべきことではない。

 

要はこのメカニズムが暴走しないよう、上手に折り合いをつけていくことが大事なのだ……そんな分析が、若き日の私自身が置かれていた状況を浮かび上がらせてくれて救われましたし、

宗教を求めるという心のありようが、実は日常の行為と地続きであることを理解させてくれました。

 

 

 このときつかんだ実感を含めて「宗教の本質」に迫る番組を作りたい。今回、数多くの方々のお力を借りて、本書のベースになった番組「100分de宗教論」を実現することができました。緻密な構成と演出で問題をクリアに浮かび上がらせてくれたディレクターをはじめ、番組制作チーム、関係者全員にももちろん感謝したいと思いますが、何よりも感謝したいのは、私自身も気づけなかった「宗教の本質」を掘り起こしてくれた出演者(本書の執筆者)の方々に対してです。

 先に触れた

『予言がはずれるとき』を解説してくれた釈徹宗さんをはじめ、

優れた宗教的な人格が人々にどれだけ大きな影響を与えるのかを

『ニコライの日記』から読み解いてくれた最相葉月さん、

日本の戦中、戦後に、宗教的なものがどれほど大きなインパクトを残していったのかを

杉本五郎の『大義』を通して語ってくれた片山杜秀さん、

宗教対立をほどいていくヒントになる「宗教多元主義」の可能性を

遠藤周作『深い河』から掬い上げてくれた中島岳志さん。

 

どの視点も、これまで数多く制作されてきた宗教関連番組がもちえなかった斬新で奥深い内容で、私自身も驚きの連続でした。

 現代を代表する一級の表現者や知性の持ち主による知の饗宴が、こうした形で一冊の本『別冊NHK100分de名著 宗教とは何か』として結実することは、何よりの喜びです。番組の限られた時間ではどうしても入れることのできなかった新たな論点も追加されて、より奥深い世界を味わえる本になっていると確信しています。「私たちにとって宗教は決して遠い存在ではない」……この本が、読者の皆さんに、そんなことを感じてもらえるようなきっかけになってくれれば、と願ってやみません。

NHKエデュケーショナル 美術教養グループ
「100分de名著」プロデューサー 秋満吉彦

◆『別冊NHK100分de名著 宗教とは何か』より(「はじめに」から抜粋)
◆脚注、図版、写真、ルビ、凡例などは記事から割愛している場合があります。
※本書は、2024年1月2日にNHK Eテレで放送された「100分de宗教論」の内容をもとに、新規取材などを加えて構成したものです。

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