「プーチン訪朝」「ロ朝軍事同盟」に中国はどう反応したか…? 外交部報道官のあまりにそっけないコメントの真意とは(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース

 

「プーチン訪朝」「ロ朝軍事同盟」に中国はどう反応したか…? 外交部報道官のあまりにそっけないコメントの真意とは

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「プーチン訪朝」に対する中国の反応

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 中国という国は、自国の周辺で世界が注目する外交イベントが行われると、おおむね次の4通りのいずれかの反応を見せる。第一に、そのイベントを大仰に称賛する。第二に、逆に非難の声を上げる。第三に、淡々と事実だけを報じる。そして第四に、まるで何事もなかったかのように無視する。この4通りのうち、どんな反応を見せるかによって、中国の思惑やホンネが透けて見えるというわけだ。

 

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 何の話かと言えば、習近平主席の「無二の盟友」として知られるロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、先週6月19日に北朝鮮を、続いて20日までベトナムを訪問した一件だ。プーチン大統領は5月7日に大統領5選を果たし、同月16日と17日に、まず中国を訪問。そうして「中央」を固めた上で、今回は、その「周辺」の友好2ヵ国を歴訪したのである。  結論を先に言えば、「プーチン外交」に対する中国の反応は、第三のパターンだった。つまり「感情のこもっていない報道」に終始した。以下、詳細に見ていこう。  まず、プーチン大統領がモスクワを発った18日、中国外交部(外務省)の定例会見で、日本の共同通信記者が、この一件について質問した。この日、第34代外交部報道官に就任して、ちょうど3ヵ月が経った林剣(りん・けん)報道官とのやりとりは、以下の通りである。 ---------- 共同通信記者: ロシアのプーチン大統領が、今日(18日)の午後、平壌を訪問し、北朝鮮への国賓訪問を行う予定だ。あなたは、ロシアと北朝鮮が良好な関係を保持している現状を、どう思うか?  林剣報道官: 以前、関係する問題に回答したことがある。それは、ロシアと朝鮮の間の双方の往来だ。 ----------  何とそっけない! 2日後の20日午後の中国外交部会見でも、韓国の聯合通信記者が、この一件について質問した。その時、プーチン大統領は北朝鮮訪問を終えて、ベトナムを訪問中だった。林報道官は、その二日前よりは長めに回答した。 ---------- 聯合通信記者: 二つ質問したい。第一に、北朝鮮とロシアが昨日、「全面的戦略パートナーシップ関係条約」に署名した。条約の中の規定では、締約国の一方が侵略を受けた時、もう一方は即刻、あらゆる手段を用いて軍事的及びその他の援助を提供するとなっている。中国は、この新条約が朝鮮半島とユーラシア地域の平和と安定に、どのような影響をもたらすと認識しているか?  第二に、昨日、ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が、会談を行った。その後に述べたのが、ロシアと北朝鮮が軍事上の提携を進め、国連安保理は北朝鮮に対する制裁を改めないといけないということだった。ロシアとともに国連安保理の常任理事国である中国は、このプーチン大統領の立場をどう評するか?  林剣報道官: まず第一の問題について、われわれは関連報道を注視している。ただ、これは北朝鮮とロシアの間の双方の事柄であり、評論はしない。 朝鮮半島の問題について、中国の立場は一貫している。朝鮮半島の平和と安定を維持、保護すること、朝鮮半島問題の政治的解決の進展は各方の共同利益に合致することを、終始述べている。各方が建設的な努力を行うことを希望する。 第二の問題について、ロシアと北朝鮮の協力は、二つの主権国家の間のことであり、中国は関係する状況を掌握していない。原則としては、朝鮮半島に関わる問題においては、制裁や圧力一辺倒では問題の解決にはならない。政治的な解決が唯一の糸口だというのが、中国側の認識だ。 ----------  以上である。映像も見たが、2日前より少し丁寧になったものの、やはりそっけない感じは否めない。

 

 

 

北朝鮮とロシアの「軍事同盟」の中身

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 6月19日にロシアと北朝鮮が締結した「包括的戦略的パートナーシップ関係に関する条約」の全文23条は、翌20日に北朝鮮側が公開した。もしかしたら非公開の付属文書もあるのかもしれないが、とにかく本文は公開した。その前文では、以下のように高らかに謳っている。  〈 朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦(以下「双方」)は、歴史的に形作られた朝ロ親善と協調の伝統を保全し、未来志向の新時代の国家関係を構築しようという共通の志向と念願から出発する。そして両国の国民の富興と福利を目指して、双方の間の包括的戦略的パートナーシップ関係を発展させることが、両国国民の根本的な利益に合致し、平和と地域及び世界の安全と安定の保障に寄与するだろうと確信する。国連憲章の目的と原則、その他の公認された国際法の原則と規範に忠実であるだろうと確信している。  覇権主義的な企図と、一極世界の秩序を強要しようとする策動から、国際的な正義を守っていく。国家間の誠実な協調、相互利益の尊重、国際問題の集合体的な解決、文化と文明の多様性、国際関係において国際法を優位に置く多極化された国際システムを樹立していく。共通の努力によって、人類の存在に脅威を与えるあらゆる挑戦に対処しようとする志向を確信している。  同志的で親善的な両国関係を公にして、すべての分野での協調を拡大強化させていく。朝ロ関係を地域と世界の平和と繁栄を主動する公の水準に引き上げることを志向しつつ、以下のように合意した 〉  北朝鮮もロシアも、国連や西側諸国から制裁を受けている身だが、「我らこそは正義なり」という開き直りぶりである。途中に書かれた「覇権主義的な企図と、一極世界の秩序を強要しようとする策動」は、主語が省略されているが、当然アメリカだろう。  そして、この条約の第3条と第4条には、次のように明記されていた。  〈 第3条 双方は、公表された地域と国際的な平和、安全を保障するため、相互に協力する。双方のいずれか一方に対する武力侵略行為が強行される直接的な脅威が醸成された場合、双方はいずれか一方の要求によって互いの立場を調節し、醸成された脅威を除去する協調を相互に提供するための可能な実践的措置を合理的な目的で、相互協商の通路を遅滞なく稼働させる。  第4条 双方のいずれか一方が個別的な国家もしくは国家群から武力侵攻を受け、戦争状態に入った場合、他方は国連憲章第51条と、朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦の法に準じて、遅滞なく自国が保有しているあらゆる手段で、軍事的及びその他の援助を提供する 〉  このように、北朝鮮とロシアの軍事同盟的な内容になっているのだ。実際、金正恩委員長は、首脳会談後の会見で「同盟関係」と述べていた。  第4条で、「ともに戦争する」とはなっていない。これは、北朝鮮が現在、ロシアに武器を提供しつつも、ウクライナと直接交戦はしていないように、将来的にアメリカが北朝鮮を空爆したりしても、ロシアがアメリカと直接は戦争しないことを担保しているのかもしれない。  だが中国にとってみれば、自国の西側にある大国(ロシア)と、東側にある「属国」のように考えている小国(北朝鮮)が、このような「物騒な条約」を結んでしまったのだ。いくら中ロ朝に「アメリカへの対抗」という共通目的があるとはいえ、手放しで喜ぶわけにはいかないだろう。  それは例えば、仮に中国とベラルーシが、このような条約を結べば、ロシアが喜ばないのと同様だ。だから上述のように、林剣報道官は「とぼけて」いるのである。

 

 

中国が意識し恐れていること

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 この新条約締結に関する中国国営新華社通信の報道も、漢字にしてわずか46文字だった。  〈 タス通信の報道によれば、ロシアのプーチン大統領と金正恩朝鮮労働党総書記・国務委員長は、19日に平壌で、全面戦略パートナーシップ条約に調印した 〉  新華社通信は、自社の平壌支局があるにもかかわらず、わざわざ「タス通信の報道によれば」と、他人事のように報じた。もっとも同日(19日)深夜には、もう少し詳細に報じている。  〈 (前略)プーチン大統領は金正恩総書記との会談後に述べた。ロ朝が調印した「全面戦略パートナーシップ条約」は、両国の協力関係を新たなレベルに引き上げる画期的な文章だ。条約の中では、締約国の一方が侵略に遭った時は、もう一方が援助を提供すると規定されている。  プーチン大統領は述べた。安全問題と国際的な議題日程は今回の会談で重要なポジションを占めた。ロシアは「全面戦略パートナーシップ条約」を根拠に、北朝鮮と軍事技術協力を発展させていく可能性を排除しない。この条約の意義は大きく、将来のロ朝関係の基礎となるものだ。(以下略) 〉  一方、CCTV(中国中央広播電視総台)は、ロシア外務省のザハロワ報道官の言葉を引用して報道した。  〈 ロシア外務省のザハロワ報道官は発表した。ロシアのプーチン大統領の北朝鮮訪問は、西側諸国の激烈な反応に遭っている。ザハロワ報道官は言った。ロシアはアジア太平洋の一部分であり、ロシアはこの地域で自己の政策を制定する権利を有している。ザハロワ報道官は強調した。NATO(北太平洋条約機構)のメンバーと較べて、アジアの国はさらに責任感ある態度で、目下の国際関係を構築する措置を取ったのだ 〉  このように、ロシアは北朝鮮問題に関しても、NATOの存在を意識していることが分かる。ただ、ロシアが意識(敵視)しているのは、主にウクライナ戦争でウクライナを支援するNATOである。  これに対し中国も、別な意味でNATOを意識している。それは例えば、昨年、NATOがアジアで初めてとなる東京事務所を開設しようとした時に猛反発したことに表れている。「NATOがアジアにやって来る」ことを恐れているのだ。その意味では、明らかに中国は「ロシアと北朝鮮の側」に立っている。  「NATO対策」の延長として、中国が現在、熱を入れているのが、中朝国境のいわゆる「図們江開発」である。5月16日にプーチン大統領が訪中した際に発表した「中ロ共同声明」(正式名称は「中華人民共和国とロシア連邦の国交樹立75周年の際の新時代の全面戦略パートナーシップ関係を深化させることに関する共同声明」)の第3項に、次のような一文をさらりと入れた。  〈 双方は朝鮮民主主義人民共和国とともに、中国船が図們江を経由して海洋に航行できるようにする事柄について、建設的な対話を展開していく 〉  これはすなわち、中国の人民解放軍や海警局が切望している「日本海ルート」の開拓である。現状、中国の国境は、日本海の手前15kmほどまでしかなく、ロシアと北朝鮮の協力がないと日本海へ出られないのだ。

 

 

 

中国にとっての最悪な展開は

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 新華社通信は結局、プーチン大統領の訪朝と訪越に関して、7人もの記者と編集者が連名になった論評記事を出した。かなり長文なので、要旨のみ箇条書きにする。  ・今回プーチン大統領は、2000年に次ぐ24年ぶりの訪朝であり、昨年9月(ロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地)に続く金正恩委員長との会談だった。 ・また大統領として5度目(2001年、2006年、2013年、2017年、2024年)の訪越だった。 ・ウクライナ戦争が激化してから、プーチン大統領は旧ロシア地域以外をほとんど訪問しなくなった。その意味で、今回の訪朝と訪越は、両国との関係をさらに高いレベルに引き上げるものだった。 ・同時に、西側諸国がロシアを国際的に孤立させる計画が挫折失敗したことを示すものだった。 ・ベトナムはロシアと、経済貿易投資、インフラ建設、交通運輸、観光、人文交流など、多くの協力の空間が広がっていると見ている。 ・ロシアにしてみれば、ベトナムとの「友好関係基本原則条約」締結30周年にあたり、象徴的な意味を持つ。同時に、ロシアに対する封鎖や制裁に加わっていないベトナムは、地政学的に貴重な存在である。 ・ロシアとベトナムは、最も切迫した両国の貿易における銀行決済問題についても話し合った。昨年の両国の貿易額は36億ドルに達し、前年よりも2.3%増加した。  以上である。ベトナム政府の発表によれば、ロシアとの今年1月から5月までの貿易額は、前年比51.4%増の19.6億ドルに達した。内訳は、輸出が44.7%増の9.6億ドルで、輸入が58.4%増の10億ドルだ。  おしまいの部分の「最も切迫した両国の貿易における銀行決済問題」というのは、ロシアとの貿易にドル決済ができなくなっていることへの対処だろう。昨年、中国側統計で2401億ドルにも達した中ロ貿易においては、IMF(国際通貨基金)の通貨バスケットに入っている国際通貨・人民元での決済が幅を利かせている。だが、ロシア・ルーブルもベトナム・ドンも国際通貨にはなっていないため、決済通貨の問題が起こってくるのだ。  先週、ロシアとベトナムの関係について、東南アジアを担当する日本外務省関係者に聞いたところ、興味深い見解を示した。  「西側諸国が眉を顰(ひそ)める中で、ベトナムがあえて今回、ロシアを呼び込んだ理由の一つは、『やっかいな隣国』中国を牽制するためと見ている。フィリピンと中国とのセカンド・トーマス礁を巡る衝突を、日々間近で見ているベトナムとしては、南シナ海で中国と同様の衝突を起こしたくない。そうかといって、南シナ海の自国の権益を中国に奪われるわけにはいかない。  そこでベトナムが辿り着いた『知恵』が、ロシアを呼び込むことだった。ロシアとともに油田の開発を行えば、中国は横暴な行為に出てこられないというわけだ。だから今回も、エネルギー協力を前面に押し出し、計11件もの協力文書に調印したのだ。前世紀に日本、フランス、アメリカ、中国など並みいる大国と戦ってきたベトナムは、まさに、竹のようにしなやかな外交を行う」  確かにベトナムは、ロシアと共同で南シナ海の油田開発を行っている。日本経済新聞(2019年2月7日)は、次のように報じている。  〈 ベトナムとロシアの合弁石油会社、ベトソフペトロはベトナム南部の南シナ海で原油生産を開始した。2032年までに10億ドル超の国家収入に貢献するという。ベトナム国営石油会社系のPVEPとロシアの合弁会社であるベトソフペトロがベトナム南部の沖合160キロメートルにある海底油田で原油生産を始めた。近隣にはベトソフペトロが運営する国内最大規模のバクホー油田があり、効率的な生産が可能という。産油量は当初1日当たり230バレル超を見込む。(以下略) 〉  先月には、ベトソフペトロが南シナ海で新たに2層の油田を発見したというニュースにも沸いた。

 

  話を中国に戻すと、プーチン大統領の今回の訪朝及び訪越を、決して手放しで喜んでいるわけではない。

  そうかといって、中国にとって最悪なのは、11月にアメリカ大統領選でドナルド・トランプ前大統領が勝利し、米ロが和解に進むことだ。いわゆる「逆ニクソン」(1972年にリチャード・ニクソン政権下で米中が電撃和解したように、米ロが電撃和解すること)である。

 

  そうした中で今回は、できる限り静観し、11月のアメリカ大統領選を待とうということだろう。

 

(連載第733回)

近藤 大介(『現代ビジネス』編集次長)

 

 

 

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