なぜプーチンは“時間稼ぎ”するのか?現れては消える「停戦協議に応じてもいい」の裏にチラつく真の思惑 - まぐまぐニュース! (mag2.com)

 

なぜプーチンは“時間稼ぎ”するのか?現れては消える「停戦協議に応じてもいい」の裏にチラつく真の思惑

国際

2024.06.24

 

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6月19日、北朝鮮の平壌を24年ぶりに訪問したロシアのプーチン大統領。2国の間で戦略パートナーシップが締結されましたが、彼らの連携は国際社会にどのようなインパクトを与えることになるのでしょうか。

今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』

では元国連紛争調停官の島田さんが、

露朝による同盟関係の構築がアジア太平洋地域のみならず欧州に与える影響について解説。

さらに露朝の一連の動きに関して一切コメントを発表せず様子見に徹する中国の思惑を推測しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:国際協調の終焉と欧米の没落‐混乱極まる国際情勢

欧州も北朝鮮の核兵器の標的に。プーチンと金正恩が同盟締結で混乱の国際情勢

2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以降、しばらく続いたウクライナへのシンパシーと支援は、もう今では存在しません。

昨年6月の対ロ反転攻勢が失敗に終わったことを機に、欧州各国は国民の声に押される形で対ウクライナ支援を見直し、意図的な遅延が頻発する事態に陥りました。

それでも2025年や2026年というタイムスパンで“ロシアに抵抗できる武力を充実させる”という触れ込みで対ウクライナ支援を約束していますが、欧州からの支援が具体化して、ウクライナに届けられるまで、実際にウクライナ、特にゼレンスキー大統領が存続できるかが大きな課題です。

アメリカ政府の“選挙前最後の”大規模支援が届き始め、対ロ戦に用いられて一部地域の防衛に活躍しているようですが、ロシアに一方的に取られた東南部4州の奪還には至らず、戦況は膠着しているか、補給線を確保・強化したロシアに有利と言われていることで、次第に継戦意欲が低下してきている(士気の低下)と言われています。

そして戦争が現在進行形であるにもかかわらず、世界各地に足を運び、ウクライナを留守にしているゼレンスキー大統領の姿勢にも大きな疑問が投げかけられるようになってきています。

また6月15日から16日にスイス政府主催(開催地はスイス・ビルケンシュトック)で行われたウクライナ平和サミットも大失敗であったと言われていますが、その背景には、グローバルサウスの国々の表現を借りると、欧米諸国の仲良し国が集まって不在のロシアと不参加の中国を非難するだけの会議であり、当事者不在で本当に戦争を解決しようとしているのか疑問であったという評価が多く寄せられています。

それに加え、同時期に中国がぶつけてきた平和サミットの方がグローバルサウスの国々の参加を引き付け、「こうあるべき」という話ではなく、より具体的な施策が話し合われたという事実は、ウクライナとゼレンスキー大統領の集客能力・集金能力に大きな陰りが見えてきたことを示すと同時に、ウクライナ支援国と中ロのブロックの分断の鮮明化が進んでいることも示していると考えられます。

ウクライナへの侵攻を行ったロシアは、この戦争で軍事的にも人的にも、そして恐らく経済的にも大きな被害を発生させていますが、すでに兵力も軍事力も侵攻前のレベルを上回る状況になっているとともに、古い武器を引っ張り出して在庫一掃セールを実施しつつ、中国(先端技術と武器)やイラン(ドローン兵器)、そして北朝鮮(弾薬、砲弾など100万発以上)の支援を受けて補給態勢を充実させていて、戦争継続能力は整っていると分析されています。

 

そして通算5期目の政権をスタートしたプーチン大統領としては、

すでに2030年までのマンデートを確保しているため、

戦争の終結を急ぐ必要はなく、

逆に本来のゴールのために、

ウクライナとの戦争を目隠しと時間稼ぎに使えるという読みがあるようです。

 

 

すでに崩壊が囁かれる事態となっているNATO

ちなみに時折、現れては消える“停戦協議に応じてもいい”という提案は、当初からゼレンスキー大統領を相手にしておらず、アメリカの大統領(それがバイデンかトランプかは関係なく)に向けられており、「あくまでもロシアの条件を受け入れる場合のみ、停戦に応じる準備がある」と公然と発言し、それが受け入れられないことを分かっているがゆえに、さらなる時間稼ぎを行っています。

では何のための時間稼ぎなのか?

それはNATO諸国への心理的なプレッシャーと加盟国間の相互不信、そしてNATOの結束への疑念の増大です。

ウクライナ戦線を膠着させつつ、NATO加盟国にちょっかいをかけ、部分的な侵攻を通じて、性的な迫害などを通じてハラスメントを行い、その後、すぐに撤退して傷跡のみしっかりと残すという作戦を行うのではないかと、いろいろな話を総合してみています。

ターゲットとしてはバルト三国が最有力ですが、そこで「NATO憲章第5条によると、NATO加盟国への攻撃には集団的自衛権を発動するとあるが、果たしてNATOは一致団結して、ロシアに軍事的な報復を行うかを試す」狙いがあります。

結論から申し上げると、発動には全会一致が条件となりますが、ロシアとも良好な関係を持つトルコの存在や、プロ・プーチン大統領のハンガリー、不可侵を水面下で交渉しているという噂もあるポーランドなどが賛成を遅らせる恐れが懸念され、結局、対応・発動が著しく送れるか、発動が出来ないという事態に陥るものと思われますが、それはロシアに面する中東欧・北欧の加盟国に「NATOは困ってもすぐには助けに来ない」という疑念を生じさせ、軍事同盟としての結束を乱す一因になるものと思われます。

そうなればNATOは有名無実化し、結局は機能しない代物というレッテルが押されることになり、もしかしたら離脱する国が出てくるようなことも考えられます。

そうなるともうプーチン大統領とロシアの思うつぼで、本格的な戦争を仕掛けずとも、NATOの東進を止め、かつ押し戻し、スタン系の国々も取り込んだうえで、それが新ソビエト連邦なのかプーチン・ロシア帝国なのかわかりませんが、大ロシア帝国の再興に向かうこともあり得ます。

エストニアやリトアニアの軍統合参謀本部議長やフィンランド、スウェーデンなど新規加盟国の軍のトップもNATOが動かない場合の国家安全保障について独自の議論を始めているようで、すでにNATOの崩壊が囁かれる事態です。

欧州にとっても他人事では済まない露朝の接近

そしてその恐れを拡大させたのが、プーチン大統領の大きな譲歩によって起こり得た北朝鮮との同盟関係の構築の存在です。

経済・安全保障面での協力を包括的に行う戦略パートナーシップの締結で、ロシアは北朝鮮からウクライナ戦争継続に必要な弾薬と砲弾を獲得し、見返りに北朝鮮が喉から手が出るほど欲しいロケット・宇宙技術を供与することで、相互依存関係の強化に繋がります。

同時に有事の際に相互支援を誓う条約を締結したことで、ロシアに対するいかなる攻撃も、北朝鮮による攻撃対象となり、日米韓による北朝鮮に対する軍事的な行動はすべてロシアの反撃の対象になるという解釈になれば、アジア太平洋地域の安定にも直接的な懸念となります。

これで日米韓(特に日韓)は容易に北朝鮮に手を出せなくなるばかりか、ロシアを刺激することもできないことになりますが、同時に欧州地域における対ロ攻撃が北朝鮮による対欧州攻撃にも繋がりかねないという新しい懸念が生じることになります。

拡大解釈すると、これまでニュースで見て太平洋湾岸国(日本、米国など)への警告と考えてきたICBMや核開発問題の矢が、今後、欧州にも向いてくることになると考えられます。

実際の北朝鮮のロケット技術、特に弾道ミサイル技術のレベルは不明ですが、ロシアの手が加わることで技術開発は一気に向上し、かつ命中精度も上がると思われることから、露朝の接近は欧州にとっても、ウクライナにとっても他人事では済まない国家安全保障問題になると言えます。

 

 

 

 

露朝の条約締結に「様子見」を決め込む中国の狙い

ところでロシアも北朝鮮も“同盟国”としてもつ中国はどうでしょうか?

今回のプーチン大統領の訪朝と様々な合意に対しては「あくまでも二国間の往来であり、中国がそれに対してとやかく言う立場にない」としていますが、その背後にはどのような思惑があるのでしょうか?

1つは今回のロシアと北朝鮮の合意内容は、欧米諸国とその仲間たちを刺激し、制裁対象になると予想されることからそれに巻き込まれることなく、中国独自の外交チャネルと手段を維持したいという思惑があると予想されます。

これにより、欧米諸国との折衝をロシア・北朝鮮対応を切り離すベースにでき、中国政府は独自の外交を行うというのが狙いと考えます。

 

 

しかし、中ロ間の絶対的な結束の存在も事実で、

先日の中ロ首脳会談でも(プーチン大統領の北京訪問など)確認されているように、

中ロともに相互に依存関係にあり、

それぞれに背中を預け合っている関係ですので、

ここに北朝鮮を巻き込んでおくことで、

より強固な態勢を北東アジア地区に構築できるという戦略と共に、

中国にとって必ずしも望ましいとは言えない北朝鮮の核開発にブレーキをかける権利を保持する

という狙いもあるため、

今回は一切コメントせず、様子を見守ることにしたと推測できます。

 

 

 

このような状況が様々な地域で同時に起こり、

それぞれが化学反応をする中、

中ロは

北朝鮮、シリア、イラン、レバノン、そして

パキスタンとスタン系の国々を纏め、

そこにトルコとのパートナーシップを加え、

独自路線を走るアフリカとラテンアメリカ諸国を巻き込んで、

非欧米型の緩いが崩れない体制を築き上げようとしているように見えます。

 

これが以前、国家資本主義体制のブロックと呼んだものですが、

この結束が広がっているのは確かで、

ここにインドが緩く結びつき、BRICSが拡大されることになると

(サウジアラビア王国は参加予定ですし、インドネシアも参加の意向)、

新しい国際秩序を生み出す大きな連帯が生まれることになるかもしれません。

 

予測不可能な国際情勢になってきていますが、

国家として存続し、それなりのプレゼンスを保つためには、

その場しのぎの対応に追われるのではなく、

長期的なビジョンを構築し、明示し、そして行動することが必要だと感じます。

まとまりのない話になってしまった気がいたしますが、

以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。

 

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年6月21号より一部抜粋。続きをお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)