「現在のウクライナ戦争でも顕著」 「日ソ戦争」を出版した岩手大准教授麻田雅文さんが指摘するロシアの「戦争の文化」(西日本新聞) - Yahoo!ニュース

「現在のウクライナ戦争でも顕著」 「日ソ戦争」を出版した岩手大准教授麻田雅文さんが指摘するロシアの「戦争の文化」

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西日本新聞

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麻田雅文さん

 旧ソ連が日本に宣戦布告した1945年8月8日からの約3週間、

両国軍は200万を超える兵力を動員して満州や朝鮮半島、南樺太などで激しい戦闘を続けた。

シベリア抑留や引き揚げの悲劇など断片的に語られてきた終戦前後に光を当て、

後の冷戦世界を決定づけた「日ソ戦争」として捉え直した。

 

  麻田雅文著「日ソ戦争」 

 

 対立の背景には米ソの駆け引きがあった。

45年2月、米英とソ連の首脳はソ連のヤルタで戦後処理について会談し、

ソ連は参戦の見返りに大筋で合意。

最高指導者スターリンは利権拡大の野心に燃え、独ソ戦で国民が疲弊する中で中立条約を破棄して対日戦を推し進め、圧倒的な戦力で弱体化した関東軍を制圧した。

 

  前線の関東軍は日ソ戦の開戦をほぼ正確に予測し東京の大本営に伝えたが、警告は軽んじられた。

 

「大本営は作戦部門と情報担当が別。作戦を立てる人が上で現場の情報を受け流した。現場と指揮部門の乖離(かいり)は、今も散見される問題です」

 

 

  執筆にあたり日米露の資料を駆使した。ロシアの国防省中央公文書館所蔵の関東軍文書はソ連軍が戦利品にした文書で、関東軍の武器や兵力などを詳細に把握できた。日本の防衛省防衛研究所では関東軍が玉音放送を聞いた後も戦闘を続けたことを裏付ける記録も発見し、本書に盛り込んだ。

 

  日ソの戦いをめぐり、日本では軍人のシベリア抑留や引き揚げ女性への性暴力などがトラウマのように語り継がれている。

 

敵の人権を顧みず、支配地の人々を連行する戦い方について

「ロシアが各地で繰り返す『戦争の文化』で、

現在のウクライナ戦争でも顕著です」と指摘する。

 

 

  1980年、東京都生まれ。

曽祖父が終戦直前、宮崎県高原町で米軍の機銃掃射に遭い死去したと知り、戦争を考え始めた。

学習院大、北海道大大学院でロシア史を専攻し、現在は岩手大准教授としてアジアの近現代史を教える。

 

本書は16年に出版した「シベリア出兵」(中公新書)と対になるよう書いた。

 

  日本では8月15日を「終戦の日」とするが、降伏文書に調印したのは45年9月2日。その間にも日ソ戦で多くの軍人と民間人の犠牲があった。「記憶の風化にあらがいたい。戦争の語られ方についても、今後研究の範囲に入ってきそうです」 (平原奈央子)  (中公新書・1078円)

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