後に、洗礼を受けるとは知らずに、ドストエフスキー五大長編を!

 

1969年、70年・安保条約改正・学生闘争のまっ最中に。

政治・革命・テロ・『悪霊』から、読み始めて、のめり込んだ!

一気に、次々と、

 

時代が同じように感じられ、この先がどのようになるか、

大きな不安の中で、読んだ。

 

卒業のための必要な単位は取得済みで、

後は、卒業論文作成だけなので、時間はいくらでもあった・・・

 

 

 

「どんな時でも思い切り勉強していい」「作品の世界に入ってみて」と伝えたい。戦争のさなかで文学を読むということ。(文春オンライン) - Yahoo!ニュース

 

「どんな時でも思い切り勉強していい」「作品の世界に入ってみて」と伝えたい。戦争のさなかで文学を読むということ。

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文春オンライン

『ロシア文学の教室』(文春新書)

 ウクライナ戦争、イスラエルによるガザの攻撃。止まない戦争に心を痛め、こんな状況下で小説や本をどう読んだらいいのだろうと悩みを抱える人も少なくないかもしれません。戦争のさなかに文学を学ぶことにどんな意味があるのか? 社会や愛をどう語れるというのか? 読者を作品世界に誘う不思議な「体験型」授業を通じて、この時代を考えるよすがを教えてくれる青春小説にして異色のロシア文学入門、『 ロシア文学の教室 』(文春新書)が刊行されました。著者のロシア文学研究者・翻訳者にしてエッセイストの奈倉有里さんに本書誕生までのお話を伺いました。

 

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◆◆◆

青春小説にして異色のロシア文学入門の一冊が生まれるまで

――枚下先生という巨匠(マイスター)先生の不思議な「体験型」授業に導かれ、大学生の湯浦葵(ゆうら・あおい)や新名翠(にいな・みどり)といった主人公たちは19世紀ロシア文学の世界へとワープします。気づけばその作品の登場人物になって小説世界を体験し、元の教室に戻ってくるわけですね。読者は12回の講義を彼らとともに受けながら本書を読み進めていくわけですが、当時の時代状況が生き生きと浮かんできますし、その時代に生きることの喜びや悲しみや怒り、いろんな感情を追体験できるような魅力があります。なぜこのような小説の形でのロシア文学入門の一冊を書かれたのでしょうか。 奈倉 最初に企画をいただいたのが2021年の末のことでした。その後、ウクライナでの戦争が本格化し、社会状況が大きく変わっていくなかで、いま書けることは何だろうと考えたんです。大学で教えながら、学生たちはもちろん先生たちですらロシア文学をどう読んだらいいのかという悩みを抱えているのを目の当たりにして、ひょっとしたらこういう状況のなかで学ぶことを改めて考えてみるのも大事なことではないかと思ったんですね。  読んだ人が「どんなときでも勉強して悪いことはないんだ、思い切り勉強していいんだ」という気持ちになれるような本にしたくて、それを実現するためにこの小説形式が浮かび上がってきました。文学作品の紹介にはいろんな形がありますけれども、あらすじ的に紹介されると、小説のいちばん面白いところはなかなか見えてこないように思います。私自身、小説を読むことが好きで、作品の中に没入している瞬間というのはすごく幸せなんですよね。その感覚をそのまま伝えられたらと積極的に試みたのが、「中に入っていく」ということです。  主人公は画家になってみたり孤児になってみたり、あるいは女の子になってみたり、この世のものではない存在になってみたり、いろんな存在になって作品の中に入っていく。私自身、この本の登場人物たちにそんな体験をさせてみるのは実際にとても楽しい作業だったのですが、実際に私たちが小説を読むときにも、作品の中の誰かになってみることで、その視点から見えてくるものというのがあると思うんです。 ――文芸誌の「文學界」の連載時から大きく変わったのが、本書をめくってみてすぐに気づく横組みの註があることですね。註といえば巻末や章末にまとめて縦書きで付されるのが通常なので大変新鮮なのですが、筒井康隆さんの『文学部唯野教授』(岩波現代文庫)を参照されたとか。 奈倉 筒井さんの作品のようにこの本も書籍化するときに、いろんな楽しみ方ができる本になればと思ったんです。湯浦たちのストーリーを追うだけでも読めるし、もちろん原作を読んで授業に挑んでもいいし、あるいは註だけを拾い読みしてもいい。註はロシア文学に関係するものもあれば、その作家が影響を受けた他のジャンル、あるいは枚下先生が講義に持ってきた関連テーマにまつわるものなどさまざまです。註がなくても物語は成立するんだけれども、それ単体でも意味があって、読みたい本が増えるきっかけになってくれたら嬉しいなと。

 

 

 

プーシキン、ドストエフスキー、トルストイなど12作品

奈倉 この本は、19世紀ロシア文学作品をめぐる12回の授業という形で書きましたが、誰のどの作品を取り上げるかというラインナップは、私自身の授業のスタイルを下敷きにしているところもあります。授業で発表者がいる場合、学期の初めにあたる人は準備期間がどうしても短くなってしまうので短めの作品にすることが多く、回を重ねるごとに作品の長さを長くしたりするんです。

  それもあって、本の頭の方でとりあげたゴーリキー、プーシキン、あるいは

ドストエフスキーなどは短めの作品を、さらにいえば作家自身が若かった時代の作品を選んでいます。

 

 

初期作品を読んでみるというのはその作家を知っていくうえで重要な作業で、導入としてもおすすめなんです。

ドストエフスキーと言えば『カラマーゾフの兄弟』のような長篇作品が有名ですけれども、

長篇をとりあげるとドストエフスキー作品だけで『ドストエフスキーの教室』が一冊書けてしまって

『ロシア文学の教室』ではなくなるので、

そこは遠慮して短めの作品にしておきました(笑)。

『白夜』はドストエフスキーの初期の中篇作品で、

後期の円熟期に大長篇を書くそのスタート地点ともいえる作品になります。

 

  それに対して講義のいちばん最後に持ってきたのはトルストイの『復活』で、この作品を最後にすることは当初から決めていました。トルストイの長編にはほかに『アンナ・カレーニナ』や『戦争と平和』もありますが、『復活』はトルストイがおじいさんになって大作家になってから書かれた晩年の作品です。19世紀ロシア文学をとりあげた12回の講義は基本的にはわりと時代順になっているわけですが、『復活』は1899年の作品なので、まさに19世紀の最後の作品になるわけです。  他にもゴンチャロフの『オブローモフ』、ツルゲーネフの『父と子』、ゴーリキーの『どん底』のようにその作家の代表作と言える作品をとりあげつつ、いちばん有名ではない作品も入っています。 ――アレクサンドル・ゲルツェンは私自身も初めて読む作家でした。『向こう岸から』が書かれた時代状況とウクライナ戦争の始まった2022年以降の時代状況とが重ね合わせて読み解かれていくのも大変印象的ですね。 奈倉 唯一小説ではない作品ですね。本の中でも書きましたが、ゲルツェンの作品はドストエフスキーがものすごく真剣に読んでいたり、トルストイもゲルツェンに言及していたり、そもそもゲルツェンがロンドンで発行した新聞『鐘』を作家たちがみんな夢中で追っていたり、この時代の文学を考える上で欠かせない存在です。19世紀のロシア文学は、時代の最先端の思想と切っても切り離せないものなので、この時代の思想家たちと文学の関係を見せたかったという思いもあります。

 

 

 

戦争の時代に愛を考える

――また、この作品のサブテーマとして「愛」ということがありますよね。『向こう岸から』も流刑地とモスクワで手紙を交わし合う崇高な愛が書かれ、『白夜』には章タイトルにあるように「孤独な心のひらきかた」とでもいう愛の形があり、『復活』で描かれるような生き方や人生が問い直されるようなスケールの大きな愛もありますね。 奈倉 戦争の存在が非常に大きくなっていくなかでどう書こうかと考えて思い出したのが、ロマン・ロランの『ピエールとリュース』という小説でした。第一次世界大戦の時代が描かれた作品ですが、戦争が長引いていく時代にあって、恋愛や愛というものが大事なものになる瞬間を捉えているんです。  私自身が若い頃に非常に好きだった作家のうちの1人はトルストイで、だからこそロシア文学を研究しているんですが、もう一人がロマン・ロランです。この本の主人公の湯浦葵(ゆうら・あおい)がよくロマン・ロランのことを語るのは私自身が投影されているところもあるかもしれません。 ――最後に、本の表紙に使われている作品が大変印象的です。奈倉さんご自身が選ばれた1枚ですが、どんな作品でしょうか。 奈倉 少年が何か教室に入りたそうにしている。でもよく見ると、彼の手はごつごつして大人のようで、苦労している様子がわかります。着ている服もボロボロです。ニコライ・ボグダノフ=ベリスキーという画家による1897年の作品ですが、非常に貧しい出身で学ぶことに強く憧れていた自身の姿を投影しているとも言われています。少年の後ろ姿から教室の中の温かい雰囲気を羨ましく思う様子、勉強したいと思う気持ちが切実なものとして感じられてすごく好きなんですね。  たまにロシア文学とはどういうものかとか、19世紀ロシア文学にはどんな特徴があるのかという質問をされることがあって、もちろん何かある特徴を言うことは可能なんですけれども、どうも包括的にまとめることは難しいように思います。それよりも、この表紙の絵のように「ぜひ作品の世界に入ってみてください」とお伝えしたい。枚下先生も講義の最後の方になるとちょっと名残惜しそうなんですね。だからあえて閉じてはしまわないような書き方をしたつもりです。この「ロシア文学の教室」に入ってみてください、そして思い切ってその先にあるそれぞれの作品の世界に入っていただけたら嬉しいです。 <著者プロフィール> 奈倉有里(なぐら・ゆり) 1982年東京都生まれ。ロシア文学研究者、翻訳者。ロシア国立ゴーリキー文学大学を日本人として初めて卒業。著書『夕暮れに夜明けの歌を』(イースト・プレス)で第32回紫式部文学賞受賞、『アレクサンドル・ブローク 詩学と生涯』(未知谷)などで第44回サントリー学芸賞受賞。他の著書に『ことばの白地図を歩く』(創元社)。訳書に『亜鉛の少年たち』(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著、岩波書店、日本翻訳家協会賞・翻訳特別賞受賞)『赤い十字』(サーシャ・フィリペンコ著、集英社)ほか多数。 <イベント情報> 【6/30 (日)】奈倉有里『ロシア文学の教室』刊行記念イベント  1日限りのリアル「ロシア文学の教室」! https://aoyamabc.jp/collections/event/products/nagura-0630

文春新書編集部/文春新書

 

 

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