<ロシア攻勢の原因はどこにあるのか>ウクライナの挽回に必要なのは兵士増強とアメリカの一手(Wedge(ウェッジ)) - Yahoo!ニュース

 

 

<ロシア攻勢の原因はどこにあるのか>ウクライナの挽回に必要なのは兵士増強とアメリカの一手

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(artas/gettyimages)

 ワシントンポスト紙コラムニストのマックス・ブートが、ロシア軍が5月10日に突如としてハリキウ州に侵攻を開始した事態について、その成功の背後にある要因を分析する論説‘Why Russian troops are suddenly able to advance toward Kharkiv’を5月15日付け同紙に書いている。要旨は次の通り。  ロシア軍はハリキウ州で予想されていなかった越境攻撃に出た。ほんの2、3日でロシアの約5つの大隊がほぼ5マイル侵攻し、相当数の村を奪取し、開戦以来最速かと思われるロシア軍の進撃にウクライナ軍は動揺をきたすこととなった。  何故、ロシアはこの突如の成功を手にしつつあるのか? その説明は、ロシアの軍事的な力量およびウクライナと米国の失策の組み合わせにある。  ロシア軍は、開戦当初以降、その戦闘のパーフォーマンスを改善した。彼等は戦場の条件に適応しつある。  ウクライナのドローンや砲撃に容易に標的とされる戦車や装甲車両に頼るのではなく、オートバイで迅速にウクライナの防衛線に向けて進撃している。ウクライナのドローンとロケットによる攻撃を電子戦システムで妨害する一方、滑空爆弾でウクライナの防衛線を粉砕している。  他方、ウクライナ軍は米国の支援が長期間遅延したことで酷く苦しめられた。砲撃ではロシア軍に対し10対1で劣勢に立たされ、防空兵器は払底した。前線の兵に十分な防空支援を与えられかったことは、ロシアが初めてその航空戦力を相当程度まで使うことを可能にした。  ロシアは、米国がロシア領内の軍事目標を米国の武器で攻撃することを禁じていることにつけ込むことも出来た。この制限が、僅か2、3マイル先に集結しつつあるロシア軍を攻撃することを不可能にした。

 ウクライナ政府も、軍を増強することと防御陣地を固めることに甚だしく手間取ったことにより、ロシア軍の進撃を可能にした。ロシアがウクライナとその周辺で兵力を50万近くに増強したのに対し、ウクライナは前線に約20万を有するに過ぎない。ウクライナのマンパワーの不足はかねて明らかだったが、議会がようやく新たな動員法を可決したのは4月である。  また、ウクライナはその国境と前線の要塞化に甚だしく遅れをとった。これがロシアの進撃を可能にしつつある。  3月にゼレンスキー大統領は3列の防御線を1200マイルにわたって要塞化するとの計画をやっと発表した。これらの防御線は構築されつつあるが、本来、何カ月も前に構築されているべきものだった。  ウクライナにはこれらの挫折から立ち直る時間はまだある。新たな要塞化とさらなるウクライナ兵の動員が、米国の武器弾薬の大量の流入と相俟って、ロシアの進撃を止め、戦線を安定化するはずである。もし、バイデンが米国の武器でロシア領内の軍事目標を攻撃することに対する制限を解除すれば、大きな助けとなろう。しかし、情勢は差し迫っている。

 

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プーチンがハリキウを選択した理由

 5月10日、ロシア軍は奇襲を開始し、ベルゴロド州から防御が全く手薄なハリキウ州との国境を越えて、15日には国境から5キロメートルのウォウチャンスクに達し、また、リプツィ(ハリキウはリプツィから砲撃の射程内となる)に向けても軍を進めているようである。この論説は事態がここに至った背景を的確に描写している。  ロシアがハリキウ州を選択した狙いについて、記者に問われたプーチン大統領は、ウクライナの越境攻撃からベルゴロド州を守るための「緩衝地帯」を作ることだと言及した――ベルゴロド州はウクライナのドローンやミサイルによる攻撃、あるいはウクライナを拠点とする民兵の越境攻撃に晒されて来た経緯がある。  ハリキウ市の奪取がロシアの目標となるかを記者に問われたカヴォリ北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍最高司令官は、侵攻したロシア軍にはそのような戦略的ブレークスルーの達成に必要な兵力と技量は備わっていないと応答した。しかしながら、ウクライナは急ぎドンバスその他の地域から兵力を廻してハリキウ地域の防衛に当たらざるを得ず(現にドンバスの兵力を割いているようである)、ウクライナの少ない兵力は更に薄く伸び切ることを強いられ、今後の戦局に重大な影響を及ぼすであろう。

 今後について、この論説は、前線の要塞化を急ぎ進め、動員によってウクライナ兵の増強を進めれば、米国の武器弾薬の流入と相俟って、ウクライナが立ち直る時間はあると書いているが、論説の末尾の一文は何やら不吉な印象を与える。

米国の政策変更の必要性

 緊急に必要とされることは、この論説もその必要性を強調しているが、米国の武器でロシア領内を攻撃することを禁ずる使用制限を米国が解除ないし緩和することである。米国の規制はロシア領内に聖域を作り出し、ロシアはウクライナの攻撃を怖れることなくハリキウ州への越境攻撃に先立ち地上軍を国境の反対側に集結させることができたことを意味する。  ロシアは地上軍の侵攻に先立ち、ロシアの空域から爆撃機で滑空爆弾(この爆弾は安価でありながら大変な脅威のようである)を投下して地上作戦を支援することが出来たが、ウクライナは米国のパトリオットでロシアの爆撃機を迎撃することが禁じられていたことになる。  第三次世界大戦を引き起こすロシアによるエスカレーションを防ぐというのが米国による使用制限の政策の根拠であるが、如何にも馬鹿げている。少なくとも、この政策の緩和は工夫可能と思われる。  5月3日、キーウを訪問した英国のキャメロン外相は英国の武器をどう使用するかはウクライナの判断だと表明した。米国を説得出来る外国があるとすれば、英国であろう。

岡崎研究所

 

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