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【舛添直言】ネタニヤフらの逮捕状請求に米国が猛反発、大国に翻弄されるICCは「戦争犯罪の追及」を貫けるか(JBpress) - Yahoo!ニュース

 

【舛添直言】ネタニヤフらの逮捕状請求に米国が猛反発、大国に翻弄されるICCは「戦争犯罪の追及」を貫けるか

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2023年10月7日、イスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相と会談したブリンケン米国務長官(Haim Zach/Israel Gpo/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)

 国際刑事裁判所(ICC)検察局は、5月20日、イスラエルのネタニヤフ首相やハマスの政治指導者イスマイル・ハニヤらに対して、戦争犯罪容疑で逮捕状を請求した。そのことの意味と問題点を考えてみたい。

 

  【写真】国際刑事裁判所(ICC)のカリム・カーン主任検察官

 

■ 米国はICCへの制裁も示唆

 

  ICCのカリム・カーン主任検察官は、昨年10月以降にガザにおいてイスラエルが行ってきた市民や援助要員への攻撃、食料・水道・電気などの遮断は、「戦争犯罪」と「人道に対する犯罪」に当たるとした。そして、ネタニヤフ首相とヨアブ・ガラント国防相に対して、「刑事責任を負うと信じられる合理的な根拠がある」と主張した。  また、ICCは、ハマスに対しても、市民を虐殺し、人質にとった疑いで、ハニヤと軍事部門トップのモハメド・デイフ、ガザ地区指導者のヤヒヤ・シンワルの3人に逮捕状を請求した。  これらの検察局の請求に対しては、予審裁判部が逮捕状を発行するかどうかを24日に決める。逮捕状が発行されると、容疑者が加盟国に入国すると逮捕されることになる。  今回のICC検察の決定に関しては、ネタニヤフは「馬鹿げた告発だ」と反発し、テロ組織のハマスとイスラエル国家とを同一視するのは問題であり、イスラエルの自衛権を否定するものだと批判した。  アメリカもイスラエルの主張を支持している。バイデン大統領は、イスラエルの行動はジェノサイドではないとし、ICCの主張を拒否した。ブリンケン国務長官は、「ひどく誤った判断だ」として、ICCに対する制裁の可能性についても検討すると言及した。

 

 

■ 割れる各国の対応、日本は沈黙

 

  米議会でも批判が強まっており、下院のマイク・ジョンソン議長(共和党)は、ICC処罰のため、制裁を含むあらゆる選択肢を検討すると述べた。米議会では、ICCに制裁を科すための法案が、少なくとも2件提出されている。  共和党のチップ・ロイ議員(テキサス州選出)が提出した「非合法裁判対策法案」は、ICCが「アメリカとその同盟国の被保護者」に対する裁判を中止しないかぎり、その裁判に関わるICC関係者のアメリカ入国を阻止し、保持しているアメリカのビザを剥奪し、国内での財産取引を禁止するという内容になっている。  また、民主党のグレッグ・ランズマン議員は、今回のICC決定について、「緊張と分裂をさらに煽り、反イスラエルの陰謀を助長し、最終的にはICCの信頼性を損なうだけだ」と述べている。  アメリカやイスラエルはICCに加盟しておらず、イスラエルが関与するガザ紛争に対しては管轄権がないというのが両国の見解である。イギリスも、今回のICCの判断は戦闘停止や人質の解放に役に立たないとして反対している。  これに対して、フランスやスペインはICCの決定を支持している。また、BRICSの南アフリカも同様の立場を表明した。  日本やドイツは、明確な立場を表明していない。

 

 

■ ICCとは

 

  ICCは、1998年7月17日、ローマで開かれた全権大使会議が「国際刑事裁判所ローマ規程」を採択し、2002年に発効し、2003年3月11日に設立された常設の裁判所である。本部はオランダのハーグにある。  2019年3月現在、締約国は123カ国である。アメリカ、ロシア、中国は加盟していない。加盟している日本は、最大の分担金拠出国(2023年の分担率は約15.4%、分担金約37.5億円)であり、これまでも齋賀富美子(任期2007~2009年)、尾崎久仁子(任期2009年~2018年)、赤根智子(任期2018~2027年)の3判事を輩出している。今年3月には赤根が裁判長となっている。  その職務は、集団殺害(ジェノサイド)犯罪、人道に対する罪、戦争犯罪に関わる「個人」を訴追することである。ICCは、法的にも機能的にも国際連合から独立しており、国連の一機関ではない。  ICCは国内裁判所を補完する裁判所であり、関係国に捜査・訴追を真に行う能力や意思がない場合にのみ管轄権を有する。

 

管轄権が行使可能なのは、

(1)締約国が事態をICC検察官に付託した場合、

(2)国連安保理が事態をICC検察官に付託した場合、

(3)検察官が自己の発意により予備的検討を行った後、予審裁判部が捜査開始を許可した場合

の3ケースである。

 

ただし、(1)と(3)の場合、(1)犯罪の実行地国が締約国、(2)犯罪の被疑者が締約国の国籍を有する者、(3)非締約国が裁判所の管轄権の行使を受託する場合にのみ管轄権の行使が可能である。  これまでICCが管轄した案件を見ると、2011年2月に国連安保理決議に基づいてリビアに対する捜査が開始され、6月にはカダフィに対して逮捕状が請求されている。これは、ICCに託された管轄権行使の典型例である。  今回のガザ紛争に関しては、イスラエルはICCに加盟していないが、パレスチナは加盟している。そこで、ICCが管轄権を有し、捜査する要件は満たされている。

 

 

  しかし、アメリカのような未加入国からすれば、そもそもICCの存在そのものが問題なのである。たとえば、5月21日のアメリカ上院外交委員会の公聴会で、ブリンケン国務長官に対して、共和党のジェイムズ・リッシュ議員は、ICCが「独立した合法的で民主的な司法制度を持つ国の事情に、首を突っ込む」ことに対処する法案を支持するかどうかと質問している。

 

 

 2020年3月、ICCは、アフガニスタン紛争に関する米軍の戦争犯罪疑惑について捜査を進める判断を下したが、トランプ政権は猛反対し、ICC職員に制裁を科した。アフガニスタンはICCに加盟しており、ICCの管轄権の対象地域である。  2022年3月には、ロシアのウクライナ侵攻に伴う戦争犯罪、人道に対する犯罪について、ICCはプーチン大統領とマリア・リボワ・ベロワ大統領全権代表(子どもの権利担当)に逮捕状を発行した。ロシアもウクライナもICCの未加入国であるが、ウクライナはICCの管轄権を受託しており、それがICC検察官の捜査につながったのである。  アメリカは、このときにはICCの決定を支持しており、二重基準だという批判も起こっている。ロシア内務省は、ICCに反発し、カーン主任検察官を指名手配した。

 

 ■ 戦時国際法、戦争犯罪とは

 

  戦時国際法(近年は「国際人道法」と呼ぶのが一般的だが)は、武力紛争の危険から民間人などの非戦闘員を保護するためのものである。紛争当事者は、民間人や民用物への被害を最小限に抑える努力が求められる。  戦時国際法に違反する軍隊構成員や文民については、交戦国は戦争犯罪人として処罰することができる。具体的には、禁止された武器の使用や捕虜の虐待である。それに加えて、20世紀になって、平和に対する罪、人道に対する罪も処罰されることになり、戦争指導者が対象となった。第二次世界大戦後のニュルンベルク裁判や東京裁判がそうである。  しかし、このような戦争犯罪対象の拡大については、ニュルンベルクや東京での裁判が戦勝国によって行われたことから、その公平性に大きな疑義が持たれた。国際連合そのものも戦勝国による「国際クラブ」であり、敗戦国は除外されていたのである。  ニュルンベルク裁判や東京裁判のようにアドホックに設置される裁判と異なり、常設の裁判所としてICCが設立されたのである。  ウクライナ戦争、そしてガザでの戦争が続く中で、非戦闘員の保護、捕虜虐待の禁止のように慣習法的にも定着したルールは守る必要があるが、戦争指導者への責任追及などは容易に結論を出せる課題ではない。勝者の論理、力の論理が支配する世界は終わらない。

 

 

  【舛添要一】国際政治学者。株式会社舛添政治経済研究所所長。

参議院議員、厚生労働大臣、東京都知事などを歴任。

 

『母に襁褓をあてるときーー介護 闘いの日々』(中公文庫)、『憲法改正のオモテとウラ』(講談社現代新書)、『舛添メモ 厚労官僚との闘い752日』(小学館)、『都知事失格』(小学館)、『ヒトラーの正体』、『ムッソリーニの正体』、『スターリンの正体』(ともに小学館新書)、『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(インターナショナル新書)、『スマホ時代の6か国語学習法!』(たちばな出版)など著書多数。YouTubeチャンネル『舛添要一、世界と日本を語る』でも最新の時事問題について鋭く解説している。

 

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