金与正「ロシアへの兵器輸出」完全否定はプーチンに“使い捨て”された北朝鮮の恨み節(JBpress) - Yahoo!ニュース

 

金与正「ロシアへの兵器輸出」完全否定はプーチンに“使い捨て”された北朝鮮の恨み節

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金与正朝鮮労働党副部長(写真:朝鮮通信=共同)

 金正恩(キム・ジョンウン)委員長の妹で、北朝鮮の事実上のナンバー2である金与正(キム・ヨジョン)党副部長が、また吠えた。今度は、日本に関することではなくて、「盟友」であるはずのロシアに関することだ。

 

  【写真】昨年9月13日、ロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地を視察し、プーチン大統領を前に満面の笑みを見せる金正恩朝鮮労働党総書記だったが…

 

 

 5月17日、「『朝ロ武器取引説』は荒唐な憶測」と題した談話を発表したのだ。以下、全文を訳出する。

 

 

 ■ 対ロ兵器輸出説は「荒唐無稽」

 

  <すでに報道されているように、最近、わが国防工業部門で、新たな技術的変身を重ねながら、急速な発展を続けているところだ。  それに対しては、特に他の説明を付け加えることはないが、敵対勢力たちは、われわれが生産している武器体系が、「対ロシア輸出用」であるというおかしな説で世論を混乱させている。それに対して、一度きちんとしておきたいと思う。  われわれがいまや何度も表明しているように、過誤と虚構で編成された「朝ロ武器取引説」は、何の評価や解析がなされる価値もない最も荒唐な憶測だ。  最近、われわれが開発と更新をしている武器体系の技術は、公開することのできないものだ。そうだからといって、輸出している可能性自体が論議されるべきではない。  われわれはわれわれの軍事技術力を、どこへも輸出または公開する意向はない。

 

 

■ 「公然の秘密」をなぜ否定

 

  特に心配されている問題だけに、明白な立場を示す。

 

  最近、目撃されているわれわれの国防分野の多様な活動は、国防発展5カ年計画に沿ったものである。その目的は徹頭徹尾、わが軍の戦闘力強化を目指したものだ。  現在、われわれにとって最も急がれる任務となっているのは、「広告」や「輸出」ではなく、軍隊の戦争準備、そして質量ともに戦争抑止力をさらに完璧にすることだ。敵が軍事力で劣勢を克服できないようにすることなのだ。

 

  「輸出用」という意味のない憶測で、いくらおかしな説を拡散させようとも、実感ができにくいわれわれの軍事力の増加を凝視し、安保上、不安を潜在的に持つことは容易ではないだろう。  最近、われわれが公開した放射砲やミサイルなどの戦術武器は、ただ一つの使命のためにあつらえられたものだ。  それはソウルがあらぬことを思わないように作っていて、使うのだということだ。そのことは、隠しもしない。

 

  韓国軍の軍卒を前面に立て、朝鮮民主主義人民共和国に反対して広がっているアメリカの特異な軍事的威嚇行為が続けば続くほど、そして噂を信じ、無謀な「突進」を訓練しながら、大韓民国が対決的姿勢を引き続き固執するほどに、彼らの脳天には暗雲と呪いの影がさらに濃く落ちることを知らねばならない。  敵対勢力たちが、わが国家を相手に行う陰険な政治的企図を露骨にさせるのに比例して、われわれは必要な活動をさらに活発に進行するのだ。  主体113(2024)年5月17日 平壌(完)> 

 

 以上である。

なかなか分かりにくい声明だが、要は

もはや「公然の秘密」ともなっているロシアへの武器輸出を、わざわざ否定しているのである。

 

 

 

 

 

■ 妹の談話発表と兄のミサイル発射実験視察  その理由を考える前に、もう一つ同時期の北朝鮮の興味深い動向を示したい。それは、やはり同じ5月17日の金正恩委員長の視察を伝えた、翌18日のものものしい朝鮮中央通信の報道だ。全文は以下の通りである。  <朝鮮民主主義人民共和国ミサイル総局は、5月17日、朝鮮の東海(日本海)で、新たな自動誘導航法システムを導入した戦術弾道ミサイルの試験射撃を行った。  朝鮮労働党総書記であられ、朝鮮民主主義人民共和国国務委員長であられる敬愛する金正恩同志におかれては、武器試験を参観された。  当該の実験を通して、自動誘導航法システムの正確性と信頼性が検証された。  試験射撃は武器システム技術の高度化を目指した朝鮮民主主義人民共和国ミサイル総局及び管下の国防科学研究所の通常の活動の一環である。  金正恩同志におかれては、自律誘導航法システムの独自的開発と成功裏の導入結果に内包している軍事戦略的価値に大きな満足の意を表し、そして高貴な成果を遂げたことに寄与した当該の国防科学技術グループを、高く評価された。  朴正天(パク・ジョンチョン)同志、金正植(キム・ジョンシク)同志、張昌河(チャン・チャンハ)同志、金勇煥(キム・ヨンファン)同志が同行した。(完)>  以上である。この白昼の突然のミサイル実験については、日本の防衛省も報道官が会見で伝えた。

■ 北朝鮮によそよそしくなったロシア  さて、ここからは「解読」である。この5月17日、北朝鮮の近くで何が行われていたか。それは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、中国黒竜江省のハルビンを訪問していたのである。北朝鮮からハルビンまで、約800kmしか離れていない。  この日、ハルビンでは、第8回中ロ博覧会が開かれ、プーチン大統領と韓正中国国家副主席が参加。プーチン大統領は、ロシア極東地域と中国東北三省との貿易拡大を訴えたのだった。  その前日の16日、プーチン大統領は北京で、習近平主席と43回目となる首脳会談を開催。約5時間も行動をともにし、「史上最も友好な蜜月関係」を宣言した。  こうした状況に、金正恩委員長が「嫉妬」しているのである。  伝え聞くところによれば、昨年9月13日に、ロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地でロ朝首脳会談が行われた際、プーチン大統領は金正恩委員長に頭を下げた。  「何とかロシアに武器を供給してほしい。その代わり、来年(2024年)5月に大統領5選を果たしたら、真っ先に平壌を訪問したい」

 

 

 

 

 当時のロシアは、ウクライナ戦争で武器弾薬の供給が追いつかず、藁(わら)をもすがる思いで、北朝鮮に頼み込んだ。金正恩委員長は承諾し、以後、北朝鮮は「ロシアの兵器工場」と化した。

 

  (参考記事)ロシアと北朝鮮に蜜月時代到来、一方で中国と北朝鮮がよそよそしく見える理由

 

  ところが今春になって、ロシアは自国での武器生産の目途がついてきた。そこで、プーチン大統領は、平壌訪問を躊躇しだしたのである。

 

 ■ ヘソを曲げた金正恩

 

  焦った北朝鮮は、3月下旬に金成男(キム・ソンナム)朝鮮労働党国際部長を北京に送り込み、中国からの説得を要請した。つまり、5月に北京を訪問した後、その足で平壌を訪問してほしいということだ。

 

  だが中国とて、勝手に自国よりもロシアと蜜月関係を結んだ北朝鮮のことは、快く思っていない。

そこで取ってつけたように、4月中旬に趙楽際全国人民代表大会常務委員長を平壌に行かせて、お茶を濁した。

 

 

  (参考記事)北朝鮮「民族最大の祝日」の直前、中国共産党ナンバー3に帰国された金正恩

 

  そして5月16日、プーチン大統領が、

北朝鮮を無視するかのように、中国だけを訪問。

 

そこで北朝鮮は、「それならもうロシアなんか知らん!」と、ヘソを曲げてしまったというわけだ。

 

  小国が大国を利用することもあるが、多くは利用されるし、翻弄もされる。

金正恩委員長の心情を察すれば、「早くトランプが復活してほしい」というところではないだろうか。

近藤 大介

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