バイデンVSトランプの米大統領選、異なる世界観と針路の選択 ミード氏詳報(産経新聞) - Yahoo!ニュース

 

バイデンVSトランプの米大統領選、異なる世界観と針路の選択 ミード氏詳報

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産経新聞

ウォルター・ラッセル・ミード氏

今年11月の米大統領選は民主党のバイデン大統領と共和党のトランプ前大統領が戦う構図が固まった。米紙ウォールストリート・ジャーナルの著名コラムニストで国際政治学者のウォルター・ラッセル・ミード氏は産経新聞の取材に対し、両者の外交姿勢を比較した。詳細は次の通り。(ワシントン 渡辺浩生) --米国の抑止力の衰えを警告しているが 米外交政策で最大の問題だ。米国は以前になされた決定の代償を払わされている。米国と同盟国は特に中国に対抗するための迅速な軍事力増強を怠ってきた。その結果、ウクライナや中東における大惨事を招き、それはインド太平洋の紛争に波及する危険性がある。 米国には十分な艦船とミサイルが備わっているだろうか。抑止の目標は戦争で兵器を使うことではなく、相手に戦争は割に合わないことを分からせ、戦争を起こす気にさせないようにすることだ。残念だがバイデン政権には将棋盤の上で動かす十分な駒(軍事力)がない。 --政権の問題は何か 政策の焦点にも問題がある。中露、北朝鮮、イランという4つの現状変更勢力で最も好戦的なのはイランだ。レバノン、シリア、イラク、イエメンにおける主導的プレーヤーであり、(イスラム原理主義組織)ハマス、(レバノンの親イラン民兵組織)ヒズボラはイスラエルを脅かし、(イエメンの親イラン民兵組織)フーシ派は紅海だけでなくインド洋上でも船舶を攻撃するようになった。 インド太平洋諸国にとって紅海は中東の石油と欧州市場の両方へのアクセスに不可欠だ。しかし、フーシ派の紅海での敵対行動が日本や韓国、シンガポールなどにどれだけ重大な問題なのか、政権が完全に理解しているように見えない。 イランは中露に比べ軍事的には弱いが、最も広範囲に問題を起こしている。そこに焦点を合わせるのは戦略的に可能性のある取り組みだ。他の勢力へのよい薬にもなる。しかし、バイデン政権は中東の深みに引き込まれるのを恐れて及び腰だ。 --バイデン氏の世界観が外交に影響しているか

 

 

 

バイデン氏はベトナム戦争時代の産物だ。反戦活動の波が押し寄せた1970年代初めに上院議員に選ばれた。ベトナムは悲劇的な紛争だったが、左派の人々はそこから誤った教訓を学んだ。米国の政策はもっと道徳的になるべきで強力な軍事力を持つべきではないと考えた。海外を回り、人権や民主主義についてレクチャー(講義)することが安定をもたらすと考えた。

素晴らしい講義も権威主義の国々は脅しと受け取る。彼らを怒らせておいて、同時に米国の軍事力を引き下げるのは賢い考えではない。バイデン政権は当初、中国政府の人権問題への取り組みがいかに間違っているかを盛んに説いたが、軍備を増強しようとはしなかった。

セオドア・ルーズベルト(第26代大統領)が「穏やかに話し、太い棍棒(こんぼう)を持て(言葉は控えめでも行動する意思と準備を)」と語ったように、講義は控えめにして強い軍事力を備えることは、戦わずして相手を抑止する賢明な方法だ。外交上の円滑な話し合いだけで、台湾の武力統一が不可能だと中国に分からせることはできない。

--アフガニスタンからの米軍撤退も抑止の失敗か

国防総省は、2500人規模の米軍部隊を残留させれば、コアな地域においては敵の頻繁な攻撃や多大な犠牲を被ることなく安全をもたらすことができると考えた。アフガンのような国でこれは勝利といっていい。(その進言を無視した)バイデン氏の撤退決断は、オバマ元大統領によるイラクからの米軍完全撤退(2011年)に続く、近年で民主党大統領が勝利を棒に振った2つ目の事例だろう。

バイデン政権の人々は20年以上前の、米国が安定した世界の指導者だった時代の考え方のままに思える。

--トランプ氏はどんな世界観を持つのか。当選した場合2期目の外交は?

(大統領に就任する)来年1月の世界情勢に左右されるだろうが、いくつかの点が考えられる。まず破壊力の持ち主であることだ。

米国は第二次大戦後の大半、予測可能な外交に努めた。核兵器時代に(越えてはならない)レッドラインは何かをソ連に示すためで、国際的な法秩序をつくるためでもあった。トランプ氏は国際的な機構や合意に背を向け、また、そうすると脅すことで影響力を強化できると信じている。

 

 

 

 

 

 

 

 

1期目でトランプ氏が安倍晋三元首相と築いた強固な関係は、他国が苦しんだ(トランプ氏の破壊力による)衝撃から日米関係を防護する効果があった。トランプ氏の外交は外国指導者との人間関係に左右されるので、どの国のどの指導者が橋を架けるかが重要だ。

--トランプ氏は、プーチン露大統領と交渉してウクライナ戦争を早期に終わらせるとしているが

プーチンに弱みを見せるようなやり方で譲歩は得られまい。プーチンはもっと要求する気になるだろう。

歴代の大統領候補が「戦争終結のプランがある」と訴えてきた。アイゼンハワー(第34代)は「私は韓国に行き朝鮮戦争を終わらせる」と言ったが、簡単ではなかった。ニクソン(第37代)にもベトナム戦争終結の極秘計画があった。

トランプ氏がどうするつもりかを知る術はない。だが、トランプ氏は親プーチンだという見方を私は信用しない。トランプ氏が大統領として国産エネルギーの増産に努めたのは、石油を低価格に抑えれば露経済を弱めることにもなると分かっていたからだ。米国の核戦力近代化を唱えたのは、プーチンが自らの核戦力に大金を費やすか、二流の核保有国に成り下がるしかなくなるからだった。

トランプ氏は反リベラル国際主義者だが、誰かと違って、プーチンとイデオロギー上の争いをすることに興味はないだろう。

--孤立主義の心配は

トランプ氏はウクライナ支援を盛り込んだ緊急予算で議会が重大局面を迎えたとき、(共和党強硬派の反対を押し切って採決に動いた同党の)ジョンソン下院議長を支持した。妨害すれば阻止に成功したはずなのに孤立主義者となる最大の見せ場で動かなかった。

むしろ、競争心がとても強く、パワー(国力や軍事力)に鋭い感覚を持つ。米大統領を世界で最強の男にしたい。中露にも他の誰からも米国の立場を脅かされたくはない。こうした負けん気の強さが政策にどう反映されるかは言い難いが、米国が弱くなっているのに目をつぶることはないだろう。

 

 

 

 

--大統領選は米国と世界に重大な選択となるが

忘れてならないのは、トランプ氏が候補となる3度目の大統領選ということだ。重要な選挙だが過激な出発ではない。国内の二極化を大げさに見るのは楽だが、米国が崖っぷちに立たされているとは思わない。

 

 

世界が危機的になるほど米国民は団結する。分断した議会で、賛否が割れた緊急支援予算が通過した。中国への懸念は超党派であり、最重要の外交政策で一致している。諦めて喪に服すつもりは私にはない。

チャーチル(元英首相)は「米国はあらゆる可能性を尽くした後で正しいことを行うと信じていい」と語った。北大西洋条約機構(NATO)から台湾、イスラエルに至るまで米国民は疑問を投げかけているが、200年以上の米国の歴史をみれば、最終的に良い答えを見いだすと思う。

 

 

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