台湾 頼清徳政権誕生前夜の立法院(国会)大乱闘(遠藤誉) - エキスパート - Yahoo!ニュース
台湾 頼清徳政権誕生前夜の立法院(国会)大乱闘
遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
5月17日、大乱闘が展開された台湾の立法院議会(国会)
台湾の頼清徳政権が5月20日(月)に誕生する。その前の最後の立法院会議(国会。以後基本的に国会)が開催されたのは5月17日(金)。その日に国会内で過激な暴力による大乱闘が起きた。藍(国民党)白(民衆党)共同作戦と緑(民進党)との間の戦いだ。波乱万丈の国会が頼清徳政権を待っている。
◆5月17日の国会大乱闘事件_格闘技的体力勝負で国会運営するしくみ
野党の国民党と民衆党は、これまでの民進党の国会議事進行に関する「議会改革案」を頼清徳政権が誕生する前に成立させようとしていた。その最後の日が5月17日だった。
何を改革するのか、細かなことを書き始めるとかえって混乱するので、大雑把だが、二つだけ列挙してみよう。
1.総統に当選した者は、国会が始まる初日から数えて2週間以内に「国家運営に関する基本方針(初心表明)(中国全人代の政府活動報告のようなもの)を提出し、一ヵ月以内に国会での審議に応じること。
2.蔡英文政権の間に民進党に都合のいいような国会運営方式を定着させたが、それを撤廃し改善案を審議可決させること。
これを決議させまいとして、民進党が格闘技的な体力勝負で議事進行を阻止しようとしたのが、今般の国会乱闘騒ぎの正体である。
ちなみに1月13日の総統選&立法委員選で各党が獲得した議席数は以下のようになっている。
国民党(藍):52議席(改選前より15議席増)
民進党(緑):51議席(改選前より11議席減)
民衆党(白):8議席(改選前より3議席増)
今年2月1日には、立法院(国会)の選挙で、国民党の韓国瑜議員が院長(議長)に当選した。したがって2月1日以降は議長席には国民党の韓国瑜議長が座ることになっている。
2月1日午後に、民衆党の柯文哲党首が民進党を民事で訴えているので、今は「藍白協力」状態が続いている。となると、国会審議では「60対51」で民進党に不利だ。民進党が暴力で国会が開催されないようにするだろうことは早くから予測されていた。
そこで5月17日の国会に向かて、議長席(国民党の韓国諭)を確保しようとして、国民党は5月15日から議会の会場(国会議事堂に相当)の門の前に並び始めた。先に議場に入らないと、民進党議員が先に入って、議長席を取り囲んで議長が着席できないようにすることが分かっていたからだ。
民進党が、議長が議長席に着席できないようにする理由は、議長が議長席で開会を宣言しないと議会が始まらないからだ。民進党は、国民党と民衆党が出す「国会改革案」を何としても阻止しようとして、議会が始まらないようにする作戦に出ていることを国民党と民衆党は知っていた。だから5月15日から輪番で座り込みながら、門が開いた瞬間に議事堂に突進できる体制を取っていたのである。
5月17日、議会当日の朝6時、先ずは、国民党議員が議長席に人間のバリケードを築き、議長が着席できる情勢までは創り上げることに成功した。それが図表1である。
図表1:人間バリケードで議長席を確保した国民党議員たち
ようやく韓国諭が議長席に就けたのはいいものの、民進党の議員が議事進行を阻止しようと、国民党議員に飛び掛かって(抱きかかえて)その後地面に押し倒し、大乱闘となった。議長の隣にいる国民党議員に民進党が飛び掛かっている場面が図表2である。あちこちにあるが、聯合新聞網(udn)にある図表を用いた。
図表2:議長を守るために隣にいる国民党議員に飛び掛かる民進党議員
これら一連の動きは、この動画の5秒辺りから確認することができる。
◆採決ボタン、一分間ルール
台湾の国会には、奇妙なルールがある。議長が「それでは只今から採決したいと思いますので、1分間以内に賛成、反対、棄権のいずれかのボタンを押してください」と言うのだが、この「1分間以内ルール」がまた、大変な「大乱闘」に発展する。
というのは、国民党は議長席を守ろうと、議長席の周りで人間バリケードを築いているので、自分の議席に戻らないとボタンを押すことができない。
そこで、すでにボタンを押し終わった国民党議員が議長席の周りに突進し、入れ替わりにバリケードを築いていた国民党議員がダッシュで自分の議席に戻ってボタンを押そうとするのだが、この「1分間内に」というルールがあるため、採決に対して意思表示できるか否かは「格闘技的体力」を必要とする。
なぜなら民進党議員に取り囲まれて動けなくなったり、中には暴力的に抑え込まれたり躓(つまづ)かせたり、あらゆる「格闘技」を仕掛けてくるからだ。
これで民主主義と言えるのかと、唖然とするばかりだが、議事堂の外にはNED(全米民主主義基金)の指導を受けて「民進党のために民主を叫ぶ」若者たちがいるのだから、もう「啞然」を通り越して、「民主主義とは何か?」と問わずにはいられない。
この実態を、勇気をもって語る日本メディアは、あまりいそうにないので
、取り敢えず、5月20日から始まる頼清徳政権の一側面をご紹介した。
なお、国民党はこれまで高年齢層に偏っていたが、ここは「体力勝負」なので、最近は「格闘技に勝てる」若い年齢層の議員を送る戦略に出始めたので、今では民進党の平均年齢層とほぼ変わらないところにまで漕ぎつけた。
余談になるが、なぜ国民党はこれまで高齢者が多かったかというと、以下のような事情があったからだ。
かつて蒋介石が率いる国民党政府は、1949年末に大陸から台湾に逃れて以来、大陸にいたときの「中華民国」政府の国会議員(立法院委員)の肩書をそのまま残し、台湾で選挙を行わなかった。台湾を含む大陸全てを統治していた「中華民国」政府がそのまま臨時的に台湾に首都を移して継続しているだけだという認識を国民党の蒋介石が断固として主張していたので、「万年議員」によって国会が構成されていた。もう百歳近いような議員によって国会が運営されていたという形骸化した状況が続いたのである。
これを改革しようとしたのが
蒋介石の息子・蒋経国で、
そのことが李登輝政権の誕生を招いた。
そこから派生し活躍し始めた民進党は、
ともかく「若い人」が議員でいることが「非国民党的」である
という意識を持っていたので、民進党議員は年齢的に「若い」。
「若い」ので体力もある。
だから「1分間ルール」で、「格闘技」が展開する。
しかし、それでは国会審議で負けるので、
国民党は若い年齢層の議員を増やすために力を注ぎ、
今では「国民党議員の平均年齢:55.7才」に対して
「民進党議員の平均年齢:53.3才」という所まで漕ぎつけている。
日本の国会議員の高齢化現象を思うと、ふと苦笑いを抑えることができない。
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。