池上彰と佐藤優が、いまの世界を読み解く特別対談「アメリカ大統領選後にトランプ的な政権が誕生するのは、ヨーロッパのあの大国」(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース

 

池上彰と佐藤優が、いまの世界を読み解く特別対談「アメリカ大統領選後にトランプ的な政権が誕生するのは、ヨーロッパのあの大国」

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 ロシアとウクライナの戦いが終わらぬ間に、中東では紛争が勃発し、アメリカではトランプ旋風が巻き起こった。そして日本では再び「大東亜共栄圏」の構想が―混沌とした世界の行く末を読み解く。

 

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 前編:池上彰と佐藤優が、世界で起きていることを読み解く特別対談「トランプは、いまのアメリカ国民を宗教で分断しようとしている」より続く

人工妊娠中絶を巡る争い

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 佐藤

 それは先に述べた聖書問題と関係します。メキシコ移民はほぼカトリックですから、「聖書の価値観を共有していない奴らが来るからそうなる」とトランプは叫ぶでしょう。この問題は日本ではほとんど知られていませんが、とても危険な爆弾なのです。

 

  池上

 一方、バイデンにどんな反撃があるかといえば、女性の人工妊娠中絶の権利です。最高裁が「妊娠中絶権は合衆国憲法では保障されていない。それぞれの州が決めればいい」という判決を出し、共和党が議会を握っている州では中絶ができなくなっています。  しかし、これには共和党支持者の女性からも、反発意見がかなり出ています。バイデンはそこを突いて「トランプが連邦最高裁に妊娠中絶反対派の連中を入れたからこんなことになってしまった」と批判して支持を集めている。  要するに、不法移民と妊娠中絶をどうするのかが、実は今回、大統領選の最大のポイントになっているのです。

冷血さは政治家の強み

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 佐藤

 現時点ではどちらが勝つかわかりませんが、どちらが勝ってもアメリカが弱り続けることは変わりません。トランプ再選後には、急速に弱っていくのが私たちにはよく見えるでしょう。

 

  池上

 11月のアメリカの大統領選は今年一番の注目ではありますが、国内では9月に自民党総裁選が行われますね。

 

  佐藤

 ある自民党の重鎮は、「解散は岸田の腹一つ。ただし、解散せずに総裁選をやったら岸田の再任は危ういのでは」と言っていましたね。

 

  池上

 自民党の裏金問題では大量の議員を処分しましたが、通告するだけで岸田さんは誰にも直接会っていない。もし一人一人と会って、「本当に申し訳ない。いまの情勢では処分せざるをえないので呑んでくれ」と泣きながら手を握って頼んでいたら、状況はずいぶん違ったはずです。

 

  佐藤

 そう。あれだけ人間味のない総理は珍しい。しかし、この冷血さは政治家としての強みかもしれない。

 

  池上

 「聞く力」を主張しているけれど、全然ない(笑)。

岸田さんは何かをやりたいわけではなく、総理になりたかった人ですから、

その座を守るためならなんでもやりますよ。

総裁選で再任されないとわかったら、やぶれかぶれで解散する可能性も十分にあります。

 

 

 

「上川になったら勝てない」

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 佐藤

 そうですね。野党にとって一番怖いのは、上川陽子外相でしょう。自民党の国会議員は衆参合わせて400人弱。派閥単位での身動きがとれない現状では立派な大衆社会です。誰が総裁になったら自分たちが勝てるのかを考えたら、上川をかつぐ手がある。

 

  池上

 立憲民主党も「上川になったら勝てない」と怯えています。自民党は'94年の自社さ連立政権で、激しく対立した社会党委員長の村山富市を立てたほどしたたかな政党ですから、ウルトラCもありますよ。大型連休明け、特に6月には何か起こりそうな気配です。

 

  佐藤

 池上さんが、「自民党内の極右勢力と共産党を排除したうえで、日本を救うために大同団結する必要があると中立的な立場から思います」と発言したら、政局にかなり影響を与えますよ。

 

  池上

 それは魅力的なスローガンだなぁ(笑)。

 

  佐藤

 7月の東京都知事選にしても、小池百合子都知事の3選は盤石。ですが、いま目の前にいる池上さんが出馬を表明したら、間違いなく流れは変わります。池上さん! どうですか?

 

  池上

 ダメですよ、そういう冗談を真に受ける人がいるから(笑)。

「トランプ革命」の意義

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 佐藤

 まさにここにいる人が都知事選の候補になりうることに気づかないように、私たちは世界情勢がよくわかっていません。トランプや習近平が独裁者に見えるのは、古い思考にとらわれているからです。  レーニンは「テロリストの兄の復讐を誓う復讐鬼」、スターリンは「売春宿の経営者」というイメージで、「こんなやつらに権力がとれるわけがない」とみなされていました。しかしロシア革命が起こり、その権力を70年維持したのです。いまはトランプ革命が起きているのかもしれません。

 

  池上

 世界では新たな芽が生まれています。6月の欧州議会選挙でどれだけ極右勢力が議席をとるのか。ヨーロッパ全体で、権威主義的な、プーチン的な政権がどれだけ広がっていくのか。その萌芽がどこに向かって、どの場所で革命が起きようとしているのかを見極めなくてはいけません。

 

  佐藤 この点では、ウクライナとの利害関係が低いイタリア、スペインで一国主義的傾向が強まる可能性があります。その影響が及ぶフランスにトランプ的な政権が誕生しても私は驚きません。  もしトランプが再選されたら、ハイデガーがヒトラーを礼賛したように、アメリカの優れた哲学者が「トランプ革命の意義」といった本を1年以内に書くでしょう。そのアメリカと軍事的な関係を緊密化している日本は、自由で開かれたインド太平洋という装いで、再び大東亜共栄圏をつくりだそうとしている。

 

  池上

 世界は混乱期にあって、すでに新しい時代が始まっているんです。

  「週刊現代」2024年5月11日号より

週刊現代(講談社)

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