==或る書評から

ここで、松岡由香子氏の、新草『正法眼蔵』全12巻の現代日本語訳こそが重要です。

松岡氏は、キリスト教の新教・宗教改革の立場の「日本基督教団」の牧師ですが、
(むしろ異なる位置から、突き放して客観的に翻訳できる「有利な」立場とも言えますが)
道元和尚の著作は、中世の日本語で記述された「哲学思想」なので、
その「哲学思考の筋道・内容」を、現在日本語に翻訳することは可能です。
ヘーゲルのドイツ哲学を、現代日本語に翻訳するのと同じことですから。

新草『正法眼蔵』全12巻は、それまでの著作を取捨選択して、旧草『正法眼蔵』全75巻として完成させ、
その成果を踏まえて、全く違う角度から「釈尊の仏教」そのものに回帰する運動の思索です。

松岡氏自身が、従来から、道元和尚の到達点がここであると主張していたものです。
だから、翻訳者に選定されたのであろう。
臨済宗・妙心寺派の大学「花園大学」で道元和尚の研究成果を発表していた縁でしょう。
是非、一読を乞う。

新草は、具体的で素朴であり、「深遠な大乗仏教の哲学がない」と誤解されている。
そんなことはない。
釈尊の仏教は
「諸行無常」「諸法無我」「涅槃寂静」で全てである。
それを後の人々が「非仏教」に、皆で退行させている。つまり、末法の世の中である。

 

 

 

 

[著者略歴]
松岡由香子(まつおか・ゆかこ)
1945年 静岡県に生まれる。
1982年 京都大学文学部博士課程満期修了

日本キリスト教団牧師
 山水庵で日曜礼拝と坐禅会を行なっている。

著書
『親鷲とパウロ』(筆名 真木由香子)(教文館 1988)
『古仏道元の思惟』

(『研究報告』三号 花園大学国際禅学研究所 1995
『道元』(大乗仏典 中国日本篇23)共著の現代語訳(中央公論社 1995
『仏教になぜ浄土教がうまれたか』(ノンブル社 2013)
『正法眼蔵第一 現成公按 私釈』(東京図書出版 2017)
『正法眼蔵第三 仏性 私釈』(七つ森書館 2018)
『正法眼蔵第二 摩訶般若波羅蜜 私釈』(風詠社 2020)

『インド仏教と初期禅宗の坐禅と覚り』(風詠社 2021)
『初期仏教経典成立史試論』(風詠社 2022)