ユヴァル・ノア・ハラリ「このままではイスラエルは“中東の北朝鮮”になる」(クーリエ・ジャポン) - Yahoo!ニュース

 

ユヴァル・ノア・ハラリ「このままではイスラエルは“中東の北朝鮮”になる」

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クーリエ・ジャポン

イスラエル・エルサレムで2024年1月に起きた反ネタニヤフデモ Photo: Amir Levy / Getty Images

2023年10月7日のハマスによるイスラエルへの大規模攻撃後、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への激しい攻撃が続いている。宿敵イランとの間でも反撃をし合い、イスラエルは100万人以上が避難している南部のラファへの侵攻を準備しているとされる。

 

  【動画】世界に警鐘を鳴らすユヴァル・ノア・ハラリ

 

しかし、この戦争においてイスラエルは敗北寸前であり、破滅的な状況に追い込まれていると、同国の歴史学者であるユヴァル・ノア・ハラリは警鐘を鳴らす。イスラエル紙「ハアレツ」に寄稿された、ハラリ渾身の緊急メッセージを紹介する。 このオピニオン記事はもともとイスラエルの読者向けにヘブライ語で書かれ、イスラエル紙「ハアレツ」に2024年4月18日に掲載されたものである。 イスラエルは今後数日のうちに、歴史的な政策決定を下さなければならない。それは今後何世代にもわたってイスラエルの運命と地域全体の運命を左右しかねないものになるだろう。しかし、残念なことに、ベンヤミン・ネタニヤフ首相と彼の政治パートナーにそうした決断を下せる能力がないことは、すでに何度も示されてきた。 彼らが長年進めてきた政策によって、イスラエルは破滅の瀬戸際に追いやられている。しかし、彼らは過ちを悔いる様子も、方向を転換する様子も見せていない。このまま彼らが政権を握っていれば、イスラエルと中東地域全体は破綻するだろう。慌ててイランと新たな戦争を始めるのではなく、まずは過去半年の戦争における自分たちの失敗から学ぶべきだ。 戦争は政治的目的を達成するための軍事的手段である。その成功を測るのは、目的が達成されたかどうかだ。10月7日の恐ろしい大虐殺の後、イスラエルは人質を取り戻し、ハマスの武装を解除する必要があった。しかし、それだけではない。イランとその影響下にある勢力がイスラエルの存亡にかかわる危機を起こしうることを考えると、西欧民主主義国との同盟も深める必要があった。穏健なアラブ諸国との協力関係も強化し、地域秩序を安定化させるべきだった。 しかし、これらすべての目的をネタニヤフ政権は無視し、代わりに力を注いだのは復讐することだった。人質全員の解放も、ハマスの武装解除もできなかった。さらに230万人のパレスチナ人がいるガザ地区に意図的に人道的な大惨事を引き起こし、イスラエル存立に関する道義的・地政学的な基盤までをも損なわせた。 ガザでの人道危機とヨルダン川西岸地区の状況悪化のために、地域内で混乱が起きている。そのためにイスラエルと西欧民主主義国との同盟関係は弱まり、エジプト、ヨルダン、サウジアラビアなどのアラブ諸国から協力を得るのが難しくなっている。 イスラエル人の多くはいまテヘランに注目しているが、その攻撃以前からガザやヨルダン川西岸で起きていることには目をつぶろうとしてきた。しかし、私たちがパレスチナ人に対する態度を改めなければ、私たち自身の思い上がりと復讐心によって、歴史的な大惨事に追い込まれるだろう。 戦争が始まって半年が経つが、多くの人質はいまだ拘束されたままで、ハマスはまだ戦闘を続けている。ガザは壊滅状態で、何万人も殺され、人口のほとんどが避難を強いられ、飢餓に苦しんでいる。そんなガザとともにイスラエルの国際的地位も失墜した。かつての友好国の多くからも嫌われ、疎外されている。 もしイランやその代理勢力の間で全面戦争になった場合、イスラエルはどこまで米国や西側の民主主義国、穏健なアラブ諸国を頼れるのだろうか。彼らが危険を冒してまでもわれわれに軍事的・外交的に重要な援助をしてくれると、いつまで期待できるだろうか。 たとえイランとの戦争を回避できたとしても、孤立したイスラエルはいつまで生き残れるのだろうか。イスラエルにはロシアのような豊富な資源はない。商業的、科学的、文化的な世界との繋がりを失い、米国の武器や資金も得られなくなったイスラエルに待ち受ける最も楽観的なシナリオは、「中東の北朝鮮」になることだ。 現実に起きていること、現状に至った理由を否定し、そういう主張を認めないイスラエル市民があまりにも多すぎる。特に、ガザの人道危機の深刻さを否定するがゆえに、現在の外交危機の深刻さを理解できない人が多い。ガザの惨状、殺戮、飢餓に関する報道を目にすると、彼らはフェイクニュースだと主張し、イスラエルの行動を道徳的・軍事的に正当化したりする。 すべての問題を反ユダヤ主義のせいにしようとする人は、戦争が始まってから最初の数週間を思い出すべきだ。当時、イスラエルはかつてないほど多くの国際的支援を享受していた。米国大統領、フランス大統領、ドイツ首相、英国首相をはじめ、数多くの首相や外相、高官がイスラエルを訪れ、ハマスの武装解除と壊滅を目指すイスラエルへの支持を表明した。 言葉だけでなく、国際的な軍事支援ももたらされ、膨大な量の軍事装備がイスラエルに届いた。たとえば、ドイツからイスラエルへの武器輸出は10倍に増加した。このような支援がなければ、イスラエルはガザやレバノンで戦うことも、イランやその支援勢力との紛争に備えることもできなかっただろう。同時に、イエメンのフーシ派に対抗し、紅海とインド洋に国際的な艦隊が集結し、イスラエル南部の都市・エイラートとスエズ運河に通じる商業航路の確保が目指されている。 それと同じくらい重要なのは、戦争の期間だ。過去の戦闘では、同盟国が数日から数週間以内に停戦に同意するよう求めたため、イスラエルは急いで戦わなくてはならなかった。しかし今回はハマスの殺人的な性質を考慮し、イスラエルがガザを征服し、人質を解放するために何ヵ月も戦うことを同盟国は許容した。イスラエルの最善の判断に従って同地区の状況を変え、地域における新たな秩序作りをすることが許されたのだ。 しかし、ネタニヤフ政権はこの歴史的な機会を無駄にし、イスラエル国防軍の兵士たちの勇敢さと献身も無駄にした。彼らは、戦場での勝利を活かして人質全員の解放に合意することも、ガザで新たな政治体制作りを進めることもできなかった。代わりに達成したのは、ガザで不必要な人道的災害を故意に引き起こし、それによってイスラエルに不要な政治的災害を与えたことだ。 ガザで起きていることを恐れた同盟国は次々と即時停戦を要求し、イスラエルへの武器禁輸まで求めている。イランやヒズボラ、ハマスを恐れる穏健なアラブ諸国はイスラエルと利害が一致しているが、ガザを壊滅させているイスラエルに協力姿勢を示すのは難しい。

 

 

 ネタニヤフ政権は、武器や外交的支援を得るための代替手段が他にあるかのように、米国との関係さえも悪化させた。米国や世界中の若い世代は、イスラエルは人種差別的で暴力的な国であり、何百万人もの人々を家から追い出し、飢餓に陥れ、復讐以上の理由もなく何千人もの民間人を殺害する国だと考えるようになった。

 

 

 その影響は、今後数日、数ヵ月だけでなく、数十年先まで続くだろう。ハマスがイスラエルを打ち負かすには、10月7日の最悪の瞬間でさえまだ程遠かった。

 

しかし、それ以降にネタニヤフ政権が採った政策は破滅的で、イスラエルを存亡の危機に陥れてしまったのだ。

 

(続く) 続編では、なぜイスラエルがガザに人道的大惨事をもたらすという自体に至ったのかを分析し、

現在のイスラエルの孤立状態の危険さについて警鐘を鳴らす。

Yuval Noah Harari

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